「腕がない!?」
ANOTHER BEAST GEAR
第1話「腕がない!?」
時根脱才 作
怪人の一撃が、紀人のすぐ横を通り過ぎた。
「うおっ!?」
風圧だけで頬が痛い。
紀人は地面を蹴り、怪人から大きく距離を取った。
「危ねえな! 当たったらどうすんだよ!」
もちろん。
怪人がそんな抗議を聞いてくれるはずもない。
再び距離を詰めてくる。
「分かってるよ!」
紀人は腰のベルトへ手を伸ばした。
「だったら、こっちも――!」
カバーを開く。
メモリーを取り出す。
戦闘中。
ゆっくり確認している暇などない。
怪人が迫る。
「これだ!」
一本のメモリーを掴んだ。
差し込む。
カバーを閉じる。
――形態変化。
身体の内部を何かが駆け抜けた。
「よし!」
紀人は構えようとして。
「…………」
止まった。
「…………ん?」
何かがおかしい。
いや。
ものすごくおかしい。
右を見る。
「…………」
左を見る。
「…………」
もう一度、右を見る。
「…………」
ない。
「え?」
左。
ない。
「…………え?」
肩から先が。
ない。
「…………」
紀人は固まった。
怪人も。
なぜか一瞬だけ動きを止めた。
奇妙な沈黙。
紀人はゆっくりと自分の身体へ目を落とす。
腰にはベルト。
脚もある。
胴体もある。
頭も――たぶんある。
でも。
「…………腕」
ない。
「俺の腕は!?」
叫んだ。
「腕ぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
怪人が動いた。
「待て待て待て待て!」
紀人は反射的に避ける。
「今それどころじゃねえんだよ!」
怪人の攻撃が地面を抉った。
「いや、お前からしたら今がチャンスなんだろうけど!」
もう一撃。
「ちょっ!」
かわす。
「タンマ!」
当然、通じない。
「ですよね!」
紀人は走った。
腕がない。
ただそれだけなのに。
恐ろしく走りづらい。
「うおっ……!」
身体のバランスが取れない。
普段なら無意識に振っている腕がないのだ。
走るという動作そのものが妙に不安定になる。
「何で!?」
怪人との距離を取りながら、紀人は必死に考える。
「何した俺!?」
ベルト。
メモリー。
入れた。
閉じた。
形態が変わった。
そこまでは合っている。
「……メモリー?」
紀人の顔が引きつった。
「まさか……」
何を入れた。
さっき。
何を。
「…………」
嫌な予感がした。
「コブラ……?」
そうだ。
あれ。
コブラのメモリーだ。
「…………」
紀人は走りながら考えた。
コブラ。
蛇。
蛇。
腕。
「…………」
蛇に。
腕は。
「ないじゃん!」
ようやく答えへ辿り着いた。
「そういうこと!?」
怪人の拳が飛んでくる。
「うわっ!」
身体を反らす。
ギリギリ。
「いやいやいやいや!」
紀人は必死に距離を取る。
「そこまで忠実に再現しなくていいだろ!」
誰に文句を言っているのか。
自分でも分からない。
「コブラの腕とか! なんかこう! それっぽいの生やせよ!」
そんな都合のいいことは起きなかった。
左右の肩から先は、きれいさっぱり存在しない。
「マジかよ……!」
怪人が突進してくる。
「くっ!」
紀人は横へ跳んだ。
そのまま地面へ転がろうとして。
「――あ」
気づく。
受け身。
「腕ねえ!」
「ぐあっ!」
肩から地面へ落ちた。
転がる。
「いってぇぇぇ!」
起き上がろうとする。
いつもなら手をつく。
だが。
手がない。
「起きづらっ!」
身体を捻り、腹筋だけで無理やり上体を起こす。
「腕って大事だったんだな!」
今まで考えたこともなかった。
怪人が迫る。
「来んな!」
紀人は立ち上がった。
拳は使えない。
掴めない。
受けられない。
なら。
「脚ならある!」
踏み込む。
蹴る。
怪人が腕で防御する。
「だったら!」
反対側。
回し蹴り。
命中。
怪人の身体が揺れた。
「よし!」
戦える。
腕がなくても。
脚はある。
「だったら蹴りだけで――」
怪人の腕が飛んできた。
「っ!」
紀人は避ける。
次。
かわす。
蹴る。
離れる。
「いける!」
拳がないなら。
蹴ればいい。
単純な話だ。
紀人は再び踏み込んだ。
前蹴り。
怪人が受け止める。
「――え?」
足首を。
掴まれた。
「ちょっと待て」
片足。
掴まれている。
紀人は残った足だけで立っている。
「…………」
普段なら。
相手の腕を掴んで外す。
「…………」
腕が。
ない。
「これヤバくない?」
怪人が紀人を持ち上げた。
「うわあああああ!」
振り回される。
「待て待て待て! これ遊園地じゃねえぞ!」
一回転。
二回転。
「酔う! 酔うって!」
そして。
投げられた。
「うおおおおおっ!」
地面へ。
今度こそ。
受け身が取れない。
「ぐえっ!」
転がる。
「痛ってぇ……!」
紀人は何とか起き上がった。
「……ダメだ」
戦えなくはない。
だが。
圧倒的に不利だ。
「戻すしかねえ」
入れ間違えただけだ。
だったら。
「外せばいい」
簡単な話だ。
ベルトのカバーを開く。
コブラのメモリーを外す。
そして。
閉じる。
「よし」
紀人はベルトを見る。
「…………」
ベルトを見る。
「…………」
カバーを見る。
「…………」
開ける。
カバーを。
開ける。
「…………」
どうやって?
「…………」
紀人は右肩を見る。
腕がない。
左肩を見る。
腕がない。
ベルトを見る。
「…………」
もう一度。
右。
左。
ベルト。
「…………」
怪人が迫ってくる。
紀人は顔を上げた。
「ちょっと待って」
一歩。
怪人が近づく。
「待って待って」
もう一歩。
「これ……」
紀人の顔から血の気が引いた。
「どうやって開けんの?」
怪人が腕を振り上げた。
「詰んだああああああああああっ!!」
紀人の絶叫が響き渡った。
◇
その日。
紀人は学んだ。
戦闘中。
どれだけ焦っていても。
メモリーは。
ちゃんと確認してから入れた方がいい。
もっとも。
その教訓を次に活かすためには。
まず。
この状況から生き残らなければならないのだが。
――腕なし。
――ベルト操作不能。
紀人史上。
おそらく最も間抜けで。
最も洒落にならない戦いが。
始まってしまった。
◇
後書き
今回は『ビーストギア』本編から分岐した、ANOTHERストーリーです。
もし紀人が、戦闘中にメモリーを入れ間違えてしまったら。
しかも選んだのは――コブラ。
そして、入れた場所は――腕。
「コブラには腕がない」。
たったそれだけの、生物としては当たり前すぎる事実によって、紀人はとんでもない状況へ追い込まれてしまいました。
腕がない。
ベルトを操作するにも、当然、手が必要。
では、どうやって元に戻るのか。
紀人には、自分でやらかしたこの状況を、自分で何とかしてもらいましょう。
【ANOTHER BEAST GEAR】
本作は『ビーストギア』本編の設定をもとに、「もし、あのとき別の選択・結果になっていたら」を描くIFストーリーです。
本編とは異なる世界線の物語であり、本編の出来事そのものを変更するものではありません。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、基本設定は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。




