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〜無能で最弱の元プリンセスが、地獄の果てまで飲み込む復讐界隈の話〜 ミセス アナコンダ  作者: 大背戸智
第四章「自由港クロッサード編」

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第30話:「根なし草の帰巣本能」

いつの間にかいる人間が、いつの間にか必要になる。


※1日ズレて予約投稿してアップが遅くなりました。

※さらに下書きのまま投稿したので、内容を変更しています。


翌朝、起きたら食卓にガルドがいた。


昨日も。


一昨日も。


考えてみれば、ドレイクを追い返した日からずっとそうだ。


「なんで毎朝いるの」


「飯が美味いから」


「宿代も払ってないでしょ」


「払うつもりはある」


「つもりだけね」


ガルドは気にした様子もなく、パンを千切って口に放り込んだ。


(……この男、いつの間にか当たり前になってる)


それが腹立たしかった。


腹立たしい——のに、追い出す気にもなれない自分が、もっと腹立たしい。


***


「クロッサードで一番美味い飯屋に連れて行って」


朝食の後、私は言った。


「は?」


「情報収集よ。観光じゃないわ」


「同じだろ、それ」


「違う。——ご飯代はあなたの知識で返して」


ガルドが、少し黙った。


それから、椅子を引いて立ち上がった。


「ついてこい」


***


港に近い路地裏。


屋台が並ぶ中に、明らかに年季の入った一軒がある。


看板はない。暖簾もない。ただ、煙の匂いだけが漂っている。


「魚の燻製をクロッサードで食うなら、ここだ。」


「……知ってる人間が少なそうね」


「少ない方がいい飯屋の条件だ」


ガルドが先に入る。


主人の爺が一瞥して——それからガルドの顔を見て、無言で奥の席に通した。


(顔パス)


「昔からの馴染みなの?」


「子供の頃にここの親父に拾われた」


「……拾われた?」


「路地で腹を空かせてたら飯を食わせてくれた。それだけだ。」

「今と変わらないじゃない。」

「そう言われてみたら、そうだな。」


ガルドは照れ隠しのように、笑いながら答えていた。

それ以上は聞かなかった。

聞く必要もない。

この街の路地裏に、昔の彼がいる——それだけで充分だ。


***


燻製は、本物だった。

塩と煙と時間だけで作ったような、余計なものが何もない味。

食べた瞬間、舌の上でほどけた。


「……美味しい」


ナーガが目を細めた。

「だろ」


ガルドが珍しく、得意そうな顔をした。

子供みたいな顔だと思った。


「ガルドさんって、料理できる?」

「食えるもんは作れる」

「美味しいもの食えるもんは違うと思うよ」

「俺の基準は生きてるか死にそうかだからな」

「ガルドさんはいつも……基準が低すぎる」


ジークが、静かにため息をついた。

珍しく、全員の意見が一致した瞬間だった。


***


昼過ぎ。

市場を抜けて、港の先端まで歩いた。

岩場に腰を下ろして、海を見ている。

ガルドが、どこからともなく干物を出して齧り始めた。


「……あなたはいつでもどこでも食べてるのね」

「動くには燃料がいる」

「燃費の悪い乗り物ね」

「まだ子どもなんだし、肩車くらいはしてやるぞ」

「結構よ」

「ガルドさん、私肩車されたい!」

「ナーガは素直でいい女だな!それ!」


ガルドは悠々とナーガを肩車した。

「わー!海って本当に綺麗だね!」


その様子を見ながら

ラピスは岩の端に座って、海面に手を伸ばしていた。


指先が波に触れる。

「きれい」と、小さく言う。


いつもの場所。いつもの距離。

そして——ガルドとラピスは全員から少し離れた岩に座って何かを話している。


2人とも輪の中に入りたいだろうが、お互いがお互いを無駄に意識する。

ライバルとはそういうもんだ。


***


「なあ、嬢ちゃん」


帰り道。ガルドが横に並んできた。


「何」

「お前、帝国に戻るつもりか」

「ええ」

「復讐——か」

「そうよ」


ガルドは少し黙って、また歩いた。


「止めねえよ」

「止めても聞かなし、言われても聞かない」

「だろうな。そんな目をしてる」

「何よそれ」


それだけだった。


余計な感想も、励ましも、心配もない。


「だろうな」という言葉だけ。

(——嫌いじゃない。けど、見透かされてるようで嫌い)


胃の底が、静かに落ち着いた。

食後の余韻に似た、穏やかな感覚。


***


宿に戻った夜。

食堂で夕飯を食べていると——見知らぬ男が入ってきた。

漁師の格好。だが、目が泳いでいる。

ガルドを見て、近づいてきた。

男が耳元で何か囁く。

ガルドの表情が、変わった。


笑っていた顔が、消えた。


「——分かった」と短く言って、男を帰す。


「どうしたの」

「バロッサが動いた」


ガルドが、食卓に両手をついた。


「夜明けまでに港を封鎖するらしい。俺たちをここで飼い殺しにするつもりだ」


静寂。


「——スケジュールより早いわね」


私は、スープを一口飲んだ。


「嬢ちゃん、怖くないのか」

「怖いのと動けないのは別の話よ」


ガルドが、ふっと短く笑った。


「そうだな」


窓の外に、夜の港が見える。

昼の海よりも一層、凪だった。

まるで嵐の前の——静けさだった。


ガルドが「嫌いじゃない」に格上げされました。


次回、バロッサが本格始動します。

そして——ナーガに、何かが起きます。


「♡」と感想、励みになります。よければぜひ。

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