第12話:運命の盃
大酒を飲んだ翌日は、だいたい青あざができてるタイプです。
翌日。
ラピスが動いた。
城下の商人。貴族の使用人。賭博場の元締め。
グレイルを倒したことによって
ラピスのネットワークにも変化があったようだ。
夕方までに、ラピスが部屋に戻ってきた。
テーブルの上に、紙の束を置いた。
「集まりました」
「早いわね」
「グレイル兄様の元家臣たちの中に、私を頼ってくれるモノもおりまして…」
ラピスの話に耳を傾けながら、
私は束を手に取った。
一枚、一枚、めくっていく。
金額が書いてあった。
日付が書いてあった。
署名が書いてあった。
「まるで……聖……、今度……」
熱弁するラピスを話を遮って
「思ったより多いわね」
「はい。城下の商人だけで十二人。貴族からの借金が七件。
賭博場には、もう入れてもらえないそうです」
「賭博場に入れてもらえない?」
「負けが込みすぎて、出入り禁止になったそうです。三ヶ所」
私は束をテーブルに戻した。
「つまり、城の外では賭けられない。だから城内で賭けている」
「はい。従者や侍女を相手に。
勝った時だけ払って、負けた時は払わない、と聞きました」
ジークが、小さくため息をついた。
「底なしですね」
「底なしだから使えるのよ」
私は証文の束を、ラピスに返した。
「明後日の宴に、これを持ってくる人間を揃えておいて。
債権者を全員、宴に招待しなさい」
ラピスが、目を丸くした。
「債権者を——宴に?」
「彼らにもオスカー最後の瞬間を目撃する権利はあるわ。」
ラピスが、しばらく私を見ていた。
「……わかりました」
「それから、もう一つ」
私は、ジークを見た。
「明後日の宴に出す酒を、全部あの蒸留酒に替えておいて」
「全部、ですか」
「全部。ケチらずに」
ジークが、眉をひそめた。
「姫様も同じ酒を飲まれるのですか」
「当然でしょ。正真正銘の勝負よ」
ジークが、何か言いかけて——ため息をついた。
私を長く見ていた。
それから、静かに頷いた。
***
明後日の昼。
オスカーが指定してきたのは、城の大広間だった。
宴の準備が整っていた。
長いテーブルに料理が並び、
楽団が音を奏で、オスカーの取り巻きたちが既に騒いでいた。
私が入ると、オスカーが手を振った。
「アナ! 来た来た! 待ってたよ」
陽気だった。
昨日も飲んでいたらしく、目が既に潤んでいた。
「今日は負けてあげないからね。俺、本当に強いから」
取り巻きの女たちが、私を見て笑った。
「可哀想に、知らないのよ」
「オスカー様に飲み比べで勝てた人、見たことないわ」
空耳を無視し、私はオスカーだけをみて微笑んだ。
「楽しみです。今回の対決にふさわしいお酒も用意させていただきました」
オスカーが、テーブルの上の酒瓶を手に取った。
南の島の蒸留酒だった。
「これ、俺が用意したやつより全然いいじゃん」
「殿下が一番お好きな銘柄と聞いております。
正真正銘の勝負ですから、同じ酒で」
オスカーが、瓶を傾けて匂いを嗅いだ。
「……まじ? これ、めちゃくちゃいいやつじゃん」
「これ高かったんじゃない?もしかして、アナってどっかのお姫様?」
オスカーの目が輝いた。
ラピスとジークの目は点になった。
その直感を賭けで発揮できていたら、これから起こる悲劇を回避できただろう。
「まさか。お戯れを。」
「だよね〜でも、アナってセンスあるじゃん。気に入った」
「ただし」
私は、静かに言った。
「賭けの条件を、今ここで確認させていただいてもよいですか」
「ん? 何? 早く飲みたいんだけど」
「私が勝った場合のお願いの内容です」
オスカーが、鷹揚に手を振った。
「いいよいいよ。どうせ俺が勝つし」
私は、ラピスを見た。
ラピスが、証文の束をテーブルの上に置いた。
オスカーの笑顔が、一瞬止まった。
「……なにそれ」
「殿下がこれまで借りた金の、証文です」
広間が、静かになった。
楽団の音だけが、しばらく続いて——それも止まった。
「私が勝った場合、オスカー殿下には借金を返済していただきます。」
オスカーの目が少し動いたが、証文の束に目を落とした。
「ラピスもちょっとはできる子になったじゃん!」
オスカーが、杯を手に取った。
「まあ、俺が勝てば関係ない話だけどね」
そして——満面の笑みで言った。
「乾杯」
私も、杯を持ち上げた。
「乾杯」
後書き
お読みいただきありがとうございます!
酒飲み勝負で人生3回分の借金が帳消しにできる!
という甘言に乗せられたオスカーの命運は?
面白かった!と思っていただけましたら、
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