6月27日 ――0日その2
中庭に出ると、まず周囲を見渡すのが癖になりました。
いつも、かなりの確率でここで聖良さんが草木のお手入れをしている姿が見えるのです。
『産屋』には複数の職員がいるようですが、研究者がその大半を占めており、私たちの前に一番頻繁に姿を見せて生活の援助をしてくれるのは、生活棟担当の聖良さんだけのようでした。
そんな忙しい中でも聖良さんは木々にホースで水をやり、枝の剪定をし、庭のお手入れも欠かしません。
その姿を確認した後は、更に範囲を広げて庭の隅から隅まで確認します。
目的は、紫色の影。
「さて、きょうは、あの子は見つかるかな……」
紫色の入院着を来た、女の子。
あの日、はじめて現さんと会う直前に、私は確かにその子を見たのです。
よくよく思い返してみると、この受胎施設には場違いなほど幼い印象だったその子はまるで受胎者というよりも、ここで新たに生まれた子供なのではないかと思えて……何故だか妙に気になって、もう一度お会いできないかと姿を探しているのです。
ぐるーっと周囲を見渡したのち、今日も見つからなかったとがっかりして引き返すまでがワンセット。
しかし、今日は探索の日。
一味違っているのです。
中庭を通り抜けた先、端っこの壁の前に青と黄色の服装が集まっていました。
「おまたせーしましたー」
「お待ちしておりませーん」
慌てて駆け寄ると、現さんが手を振って迎えてくれました。
探索準備でしょうか、大きくなったお腹に負けないように、後ろには何やら大きな荷物を背負っております。
隣には相変わらず額に皺寄せた聖良さん。
あぁ、綺麗なお顔が台無しだと、いつか誰かが言ってあげなくてはいけませんねえ。
そんなことを思いつつ、聖良さんが開けてくれた扉を通って、研究棟へ足を踏み入れました。
「わ、あ……」
「……ありえない」
そこには何故か、ダンジョンが広がっていました。
「私の担当は生活棟。研究棟は一部しか把握していないの」
聖良さんは、そう説明してくれました。
更には、研究棟は――所長の凪さん以外、誰もその全貌を把握していないのではないかとも。
そこは、広大な広さを誇り……そして、ダンジョン仕立てになっていたのです。
「……正面から入ったのは初めてなんだけど……ありえない」
初めて見た時、現さんが呟いた言葉に完全に同意しました。
扉を開けると、大きな吹き抜けになっている空間が現れました。
そしてその広さでも、研究棟の全貌を確認することはできませんでした。
入り組む廊下。
複数ある扉。
探さなければ見つからない出口。
まさに、迷宮、いえダンジョン。
聖良さん曰く、職員は自分たちの仕事に必要な動線だけは理解しているということです。
しかし何故、こんな珍妙な作りになっているのか。
それは、どうやらこの『産屋』を建てた凪さんの確固たる信念の元に作られているのだそうです。




