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15/15

15 王子、悠里に完敗する。


サーガと悠里を見て、息をするのも忘れるほど、動揺している人物がもう一人いた。

ハラルだ。

サーガは、絶対に父親をエスコート役にして会場に来るはずだった。

そしたら、自分が彼女に歩み寄ってスマートにエスコートを交代するはずだったのだが・・。

蓋を開ければ、自分は一人で参加して、婚約者のサーガは超絶イケメンの大人の男性にエスコートをされて入場だ。


あまりの展開に、ハラルは学校長のダンス本披露会の開催の挨拶も、全く聞いていなかった・・。



悠里は会場の様子を観察していた。そして、呆然としているハラルに見せつけるように、音楽が流れると、サーガと悠里は会場の真ん中を陣取って踊り始める。


悠里は舞台でよく踊るので、ダンスは得意中の得意だ。

男役が多いので、女性をリードするのはお手の物。

「ユーリ様、すごく踊りやすいです。このままずっと踊っていられますわ」


「そういう、サーガ様のステップも上手ですよ。私のお姫様」


悠里はいつもの男役の時の声で囁く。

その声は、女性をとろけさすような、甘く低い声。

ちょうど隣で踊っていた女性が悠里の声を聞いて、腰が砕けるハプニングが起きるがなんとか無事に一曲が終わりそうだ。


どう見ても、楽しげに踊る二人の間に割って入ることは無粋の一言だろう。

だが、そんな悠長なことを言っていられないぞ。どうするハラル王子?と、悠里はハラルが出てくるのを手ぐすね引いて待っていた。


悠里とサーガがもう一曲踊ろうとしているところに、ハラルが近付いてきた。


固い表情をして・・。

やっと来たかと、悠里は背筋を伸ばして、更に優雅に・・余裕の雰囲気を醸し出し、ハラルを待つ。


「私の婚約者をエスコートしてくださってありがとうございます。でも、後はこの私が引き受けますので・・」


ハラルは悠里の前に立って、エスコート役を代わると言ってきた。

この出来事で、会場は静まり返る。

誰だろうと、さすがに第一王子に逆らうことはしないだろうと皆が思うなか・・。


悠里は悠然と笑う。

「これはこれは・・ハラル王子殿下。一度はそちらからお断りになったのに、随分と無粋な申し入れをするのですね」


ハラルとシークレットシューズの悠里は同じ背丈だが、大人の余裕というやつだろうか? なぜかハラルが小さく見える。


「うぐっっっ」

王子という立場で、すぐにサーガを取り戻せると思ったが、軽く悠里に先制パンチを喰らい黙っている。


この世界で悠里に怖いものはない。

なので、更に威圧感を増して、ハラルを追い詰めていく。


「女性を誘うなら権力ではなく、心からの言葉で誘ってほしいですね。例えば・・」

そう言った悠里が、片膝をついて、どこから出したのか、5本のバラを取りだしサーガに差し出した。

その光景に、周りの女性が「きゃー」と黄色い声にハートまでつけて叫ぶ。


「あなたの前では用意したバラさえ霞んでしまう。だが、精一杯の私の気持ちを受け取ってほしい」

サーガは5本のバラの意味を知っていた。うっとりしながら、

「ユーリ様、さすがですわ」


と、受け取ろうとしたそのとき、ハラルが必死に止めた。


「ま、待ってくれ、サーガ。そのバラを受け取らないで!」

ハラルの叫びに、会場中が息を飲む。

事の成り行きに、全員がハラハラドキドキと、まるで恋愛映画を見るように凝視していた。


人の目が集中するなか、それも気にせず、やっとハラルが自分の本心を語りだす。

「私は愚かだったのだ。君がいないとダメなんだって今ごろ分かった・・。だから、私を捨てないでくれ」

縋るような目でサーガを見ているハラルに、悠里が強めに彼の肩を叩く。


「君は男なんだろう? そんな無様な愛の告白じゃ、サーガ様を安心して任せられないな。二度と揺るがないと・・、サーガ様を泣かせないと宣言してくれないか?」


第一王子にここまで強く意見する悠里に、皆はヒヤヒヤしているが、当の本人は至って堂々としている。


全ての視線が集まる中、悠里は自分が持っているバラの中から、ハラルに1本だけ差し出す。

「バラの花言葉を知っているかい? 5本は『あなたに出会えて良かった』だ。そして、1本は『あなたしかいない』・・だよ。この1本のバラに誓えるのか?」


じっとバラを見ていたハラルが花を受け取った。

そして、サーガを振り返り片膝をついて、話しをする。

大勢の生徒の前で懺悔するなんて、王子としては避けたいところだろう。

しかし、ケチなプライドなど捨てたハラルの必死の形相に、悠里はほくそ笑む。


なりふりかまってなどいられないと、

やっと、サーガへの愛に自覚したハラルの懺悔。


「サーガ、私は君に甘えていた。だが、もう二度と君を悲しませたり、失望させるようなことはしない。これからはどんなことも二人で乗り越えていきたい。私はサーガを愛している。ずっと幼いころからずっと好きだったんだ。だから、どうか私の手を取ってくれ」

ハラルがぎゅっと目を閉じ、バラを差し出す。


サーガが戸惑いながら悠里の顔を見る。

悠里はウィンクする。

いつの間にか会場にいたサーガの両親も「うんうん」と頷いていた。


「許すのは今度だけですよ!」

そう言ってサーガはハラルから、バラを受け取ったのだった。


会場は拍手喝采の嵐だ。


受け取ってもらえたハラルは驚喜している。

だが、悠里は釘を刺すのを忘れない。

「殿下、お約束が違われないことをずっと・・、見ていますよ」


そう言うと、悠里は後ろに一歩ずつ後退して壁にあった鏡の中に消えていった。


最後に

「お幸せに」の言葉を残して・・。


会場中がそれを見ている中で、だ。

物音ひとつしない。静まり返る。


「えーーーー!」

「鏡の国の王様だったのか?」

「いや、あの方は妖精王だ!」


口々に見当外れのことを言って大騒ぎだったが、そんな中サーガは「ユーリ様、ありがとうございました」と鏡に向かって呟いていた。



◇□ ◇□



「あーしんどかった。これなら、舞台をしている方がいいわ。演技の指導はもう、こりごりよ・・」


持っていた4本のバラを花瓶に差して、窮屈な衣装を脱ぐ悠里に、メールが届いた。


岩田遥からだ。


『もう(プンプン)、そんな楽しそうなことをするのなら、今度は私も連れていってね』

だった。


「んん? どこで見ていたの?」



    ーーーー完ーーーー



その後、王都では鏡がバカ売れで、品薄状態だった。そして、女性たちが鏡の前で「私の王様!出てきてちょうだい!」と待っていたとかいないとか・・



最後まで、お読みいただきありがとうございました。


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