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14 悠里の本気は、全ての女性を魅了する


今日の悠里の仕事はCMの撮影である。

某保険会社のCMで、色々な場面で保険は大事と訴える内容だ。

なので、いつものテレビ局ではなくスタジオなのだが、メイクは信頼している実留に頼んでいた。


そのメイク室にて・・。

悠里はメイク担当の実留に、土下座せんばかりの勢いで頼んでいた。

「お願い!私を男にしてください!」


「待って待って。無理よ。私にできるのはメイクだけ。手術はできないわ!」

広くもないメイク室内を、実留は逃げ惑う。


バタバタしていたら、スタッフが何着も衣装が掛かった衣装掛けをごろごろと押して入ってきた。


助かったとばかりに実留は、スタッフの後ろに隠れる。


「どうされました? あ、これは今日の衣装です」

何着もの衣装を運びいれると、スタッフは実留を躱し、退室していった。


CMのコンセプトは知っているが、看護士の衣装に王女様のドレスなど、様々な衣装が用意されている。

その中には、真っ黒の布地に金色ステッチと刺繍入りのロング燕尾服とホワイトタイもセットもあった。


「これは!」


サーガが悠里用のダンスの礼装は、侯爵家のを用意しておくと言ってくれていたが、よりド派手な方がいい。

衣装を貸し出してくれていた店舗に、明日貸してくれるように問い合わせると、すぐに了承してくれた。

レンタル料は思ったより高かったが、仕方ない。

そんなことより、王子のギャフン顔が見たいのだ。


その嬉々とした動きに、実留が部屋からそっと出ようとしていた。

だが、悠里が見逃すはずもなく・・すぐに捕まえる。


「だから、何度も言ってるけど、手術は・・」

泣きそうな実留に、慌てて言い足した。

「あ、ごめん。実留くん。言い直すわ。難しいと思うけど、メイクで私を最高のイケメンにしてほしいの」


「なあんだ・・。」

ホッとする実留。


「そんなことなら、任せて! 悠里さんをたおやかな女性にしてってお願いなら一週間悩むけど、そんなお願いなら簡単よ! 超絶イケメンに仕上げてあげる!」

「ん?」

気になる言葉があったが、そこは今はスルーだ。


「じゃあ、明日家に来てくれる?」

「了解!」


これで、準備は万端だ。

久しぶりの男役に背筋が伸びる悠里だった。


◇□ ◇□


サーガは自室でドキドキしていた。

何度も父が「私がエスコートするよ」と言ってくれる。

それを断って、悠里を待っていた。


父と一緒に行くのが、一番無難な選択肢だと分かっている。

でも、一矢報いるためにも父ではだめなのだ。


最後くらい、王子の思いどおりにさせてなるものか。


サーガは自分の姿を姿見に映して見た。

黒い髪に黒い瞳。

それに真っ赤なドレスは、なんだか悪役っぽくて、笑ってしまった。

いつも下ろしている髪は結い上げて、白いうなじは大人っぽく見える。

背中は結構大胆に開いているんだ、と見ていたら、その鏡から、超絶イケメンの男神が現れた。


神の国の王様?

サーガは唖然として目を真ん丸にして、ポカンとなった。


「お待たせ。ちょっと靴のことをうっかりしてて、知人にシークレットの靴を借りに行っていたら遅くなったの。ごめんね?」


サーガは「大丈夫?」と声を掛けられるが無反応。

ハッとする。

「きゃーー!! 美の男神が! 我が屋敷に!」


サーガの悲鳴で、侍女が駆け付けた。が、その侍女までも・・。

「きゃーー!! 神がご降臨されました!!」

同じように叫び声をあげる。


「どうした!」

「どうした!」

と家族や使用人が総出で入ってきた。


「サーガ! この方はいったいどこのお方なのだ!」

気持ちが遠くに飛んでいたサーガの意識が、騒ぎでようやく戻ってきた。


「ハッ! しまった!お父様、この方はお話をしていたダンスの先生で、ユーリ・アシュー様です!」


唖然とする侯爵を押し退け、侯爵夫人がグイッと前に出る。

「む、娘が大変お世話になりました。私はこの子の母、マリー・ニルセンと申します。できればマリーとお呼びください」

うっとりしながら、サーガの母が悠里に詰め寄っている。


「ええ、もちろんです。マリー様。どうぞ、よろしくお願いします」

悠里がにっこり笑ったところで、サーガが自分の母を止めた。


「もう、お母様ったら。ユーリ様は女性よ。へんな勘違いはやめてください。昨日ちゃんと女性の先生がパートナーを務めてくださると言ったでしょう?」


「ああ、そうだったわ。でもね、美しい方に、男性も女性もないのよ」

なぜか後ろの侍女たちも『うんうん』と納得。

ニルセン侯爵だけが、そんな夫人を何とも言えない顔で見ていた。


「ほら、もう出発の時間だわ。ユーリ様! 行きましょう」

久しぶりに笑顔のサーガに、両親も嬉しそうだ。


「私たちも後から行くからね。今日の本披露会を楽しんでおいで」


両親に見送られながら、サーガと悠里を乗せた馬車は学校へと向かったのだった。




いつもの講堂は、飾り付けがされていて、まさに舞踏会の会場のようである。


屋敷での一件で、少し遅くなってしまった悠里たちは、生徒が勢揃いしている中での入場となった。

ヘリアンとレミージョは既に入場していて、会場の中から手を振っている。

仲が良さそうな二人を見て、もう大丈夫だなと、悠里は安心した。


本当の舞踏会なら爵位の順に会場入りだが、学校行事なのでそのようなものはない。

しかし、なぜか名前は読み上げられた。

「サーガ・ニルセン侯爵令嬢。ダンス講師、ユーリ・アシュー様。ご入場」


サーガの名前が呼ばれ入場すると、彼女を誰がエスコートをしているのかと、興味津々な生徒たちが振り返った。


既に王子が先に一人で入場していたのだから、その話で持ちきりである。生徒たちは一旦おしゃべりを止めて入り口を見た。


見た女子生徒の多くから軽い悲鳴が上がる。


「きゃーー!!」

「え? 誰? どこの貴族?」

「素敵ぃぃ」


悠里も堂々としたものだ。

男よりもカッコ良くを意識して、長年劇をしていただけあって、動き一つ一つにそんじょそこらの男よりも男の色気が出ている。


女形が女性よりも理想的な女性になるように、悠里は男性よりも理想的な『男』を演じていた。


ましてや、18歳の男子生徒など、悠里の男装を見た後では、お子ちゃまに見える。


真っ赤なドレスのサーガに真っ黒の燕尾服の悠里。

会場で一番目立つ二人になっていた。


◇□ ◇□


それを苦々しく見つめているのはミアだった。

結局、ハラルには打算的なミアの心を見透かされていて、ダンスのパートナーに選んでもらえると思っていたのに、一向に誘われない。

強引にお願いすれば、あっさりと断られてしまったのだ。


だが、サーガも自分と同じように断られたと知って、負け犬の顔を拝むために、わざわざ一人で参加していた。

ミアは一人で参加するという恥ずかしい思いをしたにも拘わらず、サーガは王子よりもかっこいい男性と参加をしているではないか。

普通なら肩を落として落胆するが、そこは諦めの悪いヒロイン、ミアだ。


「この世界のヒロインは私なのに、レミージョもハラルにも見向きもされないなんて、おかしいのよ。でも、私の心のヒーローは、きっとあの人だったに違いないわ。私には大人の男性が似合うはず!」


あろうことか、ミアは次のターゲットを悠里にした。


サーガと悠里とヘリアンとレミージョが4人で話しをしているところ、堂々と割り込んでいくミア。


レミージョは嫌な顔をするが、ミアは臆面もなく悠里にだけ話しかけた。


「はじめまして! 私、ミア・ハーゲンと申します。サーガ様がこんなに素敵な方とお知り合いだなんてぇ、ちっとも知らなかったですぅ。お名前をお聞きしてもよろしいですかぁ?」


精一杯の上目遣いでウルルンと瞳を潤ませ小首を傾げる。


「はじめまして、小花の蕾のようなお嬢様。私の名前はユーリ・アシューです。ところで何かご用ですか? 今からサーガ嬢とダンスを踊るのですが・・」


悠里に『小花の蕾』と比喩されて、ミアは胸がキュンとなる。


「それなら、一番に私と踊ってください!」


自信があった。

なにせ、自分はヒロインだから。

だが、目の前の男性は人差し指を立てて、左右に振る。

「ノンノン。君はパートナーとダンスを踊るには子供過ぎる」


子供だと言われミアはカッとなった。

「私、皆と同じ18歳です!」

そう言ったが、フッと笑われた。

「精神が幼いのだよ。相手を思いやる気持ちがなければ、ダンスは無理だ」


「思いやる?」

は? なにそれ?と余計に顔が歪む。


「そう、最初は相手の足を踏まないように。それができたら相手に合わせられるように。次は相手が踊りやすいようにステップを考える。さらに、相手を楽しませるように・・と、ここまでくれば一流かな? でも、あなたは相手のことを考えることさえしない。それではいつまで経っても、誰とも踊れないね」


美しい男性はそう言い残し、サーガを優しくエスコートして、去っていった。

「な・・何よ! あんたなんかと踊らなくても、私が誘えばパートナーになってくれる男性なんて他にいくらでもいるわ・・」

ミアが見渡すが、全員そっぽを向いている。


「え? 誰も、私と踊らないの?」

呆然とするミアに、容赦のないあからさまな言葉が耳に届く。


「他の人の彼氏や、婚約者に色目を使う子なんて、女性じゃなくても、男性からも嫌われるわよ」

「根性が悪いのは、すでに学校中に知れ渡っているのに、誰が誘うもんか」


ミアはこの学校でやらかしすぎて、一人ぼっちになっていたことを、ようやく自覚した瞬間だった。



いつもより、投稿が遅くなってすみません。

今日もお読みいただきありがとうございます。

・・後、一話です!最後まで読んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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