13 王子の厄介な気持ち
日に日に萎れるサーガ。それに合わせるように悠里とヘリアンも口数が少なくなってくる。
ダンス本披露会が迫ってくると、より元気がなくなる三人。
「ねえ、貴族の男性を誘えないなら、平民の見目のいい男性を誘ってしまえばいいじゃない!」
悠里は閃いた!と嬉しそうに提案するが、二人は微妙な雰囲気だ。
「あら、ダメなの? やっぱり問題があるの?」
ヘリアンが申し訳なさそうに答える。
「平民の方はダンスを踊る機会がなく、優雅に踊れる方を見つけるのは、とても難しいのです。今から大急ぎで見つけて訓練しても、やはり付け焼き刃では無様になるだけでしょうし・・それに、サーガ様に全く関係のない方を選ぶのは、立場上・・」
しーんとなる。
あまりにしんみりするので、迂闊に提案してしまったことに悠里は反省する。
「いいのです。気になさらないでください。私、父と参加しますわ」
サーガはスッキリしている。
最初は健気な女の子を演じて、ハラルに自分を見てくれるように色々と努力したが、だんだんとどうでも良くなってきたのか・・。
もう、やるだけやって諦めの境地に入ったようだ。
「・・悔しいわね」
「・・でも、もうスッキリしました。ユーリ様、色々とご指導、ありがとうございました」
悠里が考える。
どう考えてもあのミアが、鼻息荒く王子と腕を組んで参加して、サーガが父としょんぼり会場入りするのを阻止したかった。
「じゃあ、私がエスコートするわ!」
「「え?」」
ヘリアンとサーガが言葉をなくしている。
「私ね、これでも男役は得意なの。いいえ、むしろ男役の方が人気あったのよ!ふふふ、私に任せなさい!」
任せなさいと悠里に言われても、不安しかないサーガとヘリアン。
だが、悠里には勝算があった。
この世界と異世界、必ずピンチには繋がるのだ。
だからきっと、ダンス本披露会の時には必ず二つの世界は繋がる! と確信していた。
心配げな二人をよそに、悠里はこれからのことを嬉々として話し出した。
「いい? 私とあなたはダンスの先生と生徒。だから、もちろん恋仲ではない。それにもし、変に噂をされたら、私は女だと、胸を張って紹介できるでしょ? もう、こうなったらダンスパーティーを楽しみましょうよ!」
ヘリアンは返事をためらっていたが、サーガは、目を輝かせて面白がった。
「いいですわ! その提案にのりましょう!ふふふ、楽しみです」
吹っ切れていたのだろう。久しぶりにサーガの明るい表情を見て、悠里とヘリアンは安堵したのだった。
◇□ ◇□
ハラルは身動きできないほどに、悩んでいた。
自分がどうしたいのか、分からないのだ。
元々、ハラルは第一王子として生まれたが、気が弱かったせいで、いつもその重責に押し潰されそうになっていた。
その苦しみから救ってくれたのは、他でもないサーガである。
10歳の時に初めて会ったサーガは、明るく可愛くて、ハラルは一目で好きになった。
彼女が頑張っている姿を見ると、やる気になったし、心の支えになっていたのだ。
だが、年月が経つと、その感情は愛情というより『同士』に近くなっていく。
こんな感情のまま結婚をしてもいいのだろうか?
そのような思いを抱えていると、自分が作成した書類の不備を、サーガに指摘されることが多くなった。
その度に、胸がモヤモヤしてくる。
そんな時期に、ミアに会ったのだ。
話をしていると、彼女が決して無償の愛で自分に近付いてきたのではなく、打算的に摺りよってきていたのは分かっていた。
だから、ミアを少し利用したのだ。
少しでもサーガと距離を取りたかったのだ。だから、ミアがぐいぐい来るのを止めずにいた。
人を陥れることを喜ぶミアを、パートナーに選ぶわけがない。
だから、ミアをエスコートするなんて、最初から考えていなかった。
故に最初からミアには、エスコートはしないと伝えていたが、なぜかミアは自信ありげに「大丈夫ですよ。殿下ったら、恥ずかしがりやなんだから」と、意味不明の返事をするばかり。
心のどこかでミアといるのは間違いだと、気がついていた。
きっと彼女と長くいれば、人間として堕ちていくような不安が常につきまとっていたのだ。
分かっているのに、サーガに会いにもいけない・・。
ハラルのやることを心配して、先回りして調べているサーガは、まるで保護者のようで心が苦しかったのだ。
どうすればいいのか・・。
しかし、その状態を放置していたらサーガの様子がおかしくなっていった。
最初は、ミアと二人で歩いているときだ。
いつものサーガなら、『婚約者でない者と腕を組むのは止めなさい』と注意してきたのに、あの時は何も言わず去っていった。
しかも、涙をためていたのだ。
その状況で、サーガに文句を言われない自分は、このまま捨てられるかも知れないと恐怖する気の弱さ。
更に、サーガを追いかけることもできないとは・・本当に自分が情けなかった。
サーガのあんな顔を見たのが初めてで、混乱したのだ。
それなのに、その後、彼女から愛想をつかされるのが怖くて、自分からダンス本披露会のエスコートはできないと断ってしまったのである。
それ以降サーガに会うのがますます怖くなり、ひたすら彼女を避けていた。
しかし、どんなに逃げていても、王宮の仕事をサーガと一緒にする日は、決して避けられないのだ。
会うのが辛い。
いっそ忘れたふりをして、逃げようか・・。
そんなわけにもいかず、自分の部屋にいると、青白い顔のサーガが入室してきた。
体調が悪そうなので、『気分が悪いなら、帰ってもいいよ』と声をかけたかったが、それを言えば、もう二度とサーガと繋がりは持てなくなりそうで、言えなかった。
このときほど、自分が卑怯な奴だと自覚したことはない。
ダンスのエスコートの件も、自分がエスコートをしないと彼女には父親しか代わりはいないはずだ。
それをどこかで安心している自分がいるのだ。
ダンスの本披露会もハラルは一人で参加して、サーガが父と現れたら、笑顔でエスコートを申込もうと計画していた。
そうすれば、自分の手を取ってくれるはずだ。
まだ、サーガは自分を必要としてくれている・・そう思っていた。
今日の王宮での作業も、彼女の方から何か言ってくるのでは、と期待していた。
だが、今彼女との距離は離れている。
彼女が離れた場所で作業し始めたとき、心がチクチク痛む。
でも、遠くても、この部屋に居てくれることが嬉しかった。
隣国の手紙を読んでいたら、分からない言い回しの単語が出てきた。
いつもなら、すぐにサーガも一緒に手紙を読んで助言をくれるが、こちらを心配げに見つめているが、立ち上がってこちらに来ることはない。
前はそれが保護者みたいで嫌だと思っていた癖に、今は放っておかれたようで寂しいと思っている。
これにはさすがに、なんて我が儘な思考なのだと、自分の愚かさにうんざりする。
さらに、なんにでも手際良く進めるサーガが、書類も見ずにぼーっとしているのを見て焦った。
そんな彼女を見たことがないからだ。やる気をなくしているサーガに、ハラルは激しく狼狽した。
そこに、サーガがため息をついたのだ。
サーガはもう王子妃の仕事をするつもりはないのかもしれない。
『なんのために?』
彼女の口から漏れた言葉に、ハラルの心が凍りついた。
自分から距離をおいたのに、サーガが離れようとしていると思うと、胸が張り裂けそうになったのだ。
王子の面倒くさい気持ちを読んで、不快になった方すみません。
今日も読んでくださって、ありがとうございます。後2話予定ですので、最後まで、どうぞよろしくお願いします。




