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12 何をすればいいの?


その日の夜、悠里が帰りテレビをつけるとヘリアンが一人でいた。


「今日、サーガさんはどうだった?」

悠里は結果を聞くのが恐ろしかった。

ヘリアンの顔が暗かったからだ。

作戦が失敗して、あざとい系に負けたのかもしれないと、胃がしくしく痛みだした。


「ええ、サーガ様はとても上手にやり遂げられました。でも、その後のミアさんとハラル殿下の様子に変わりはなく、相当落ち込んでいらっしゃいます」


そうか・・。頑張ったんだと悠里はサーガを思いきり褒めたかったが、いない。

次の作戦をどうしようかと、二人が頭を悩ませていたら、ヘリアンの部屋の外がうるさくなった。


「ああ、取り次がなくてもいいわ。慣れているから一人で大丈夫」

「ですが、・・」


侍女と、揉めているのはサーガのようだ。


そのうち、『ユーリ先生! もういらっしゃるの』扉が開かれると同時にサーガの声がした。


「ごめんなさい。一人で考え込んでいて・・でも、諦めるより最後まで頑張ってから、ぱーって散ろうと思いましたの。だから、次の宿題をお願いします!」


元気そうに振る舞っているが、その目は充血していて、目蓋が真っ赤になって腫れている。

大泣きした後に違いない。


「サーガ様、どうされたのです? ちょっと待っててください」

ヘリアンはすぐに侍女に冷やしたタオルを用意させた。


サーガはタオルで両目を冷やしながら、口許は笑っている。

「もう、大袈裟なんだから・・。でも驚かせちゃったわね」


「何があったのですか?」

ヘリアンが聞くと、少し言い淀んだが、明るい声を出してサーガは答えた。

「うふふ、さっき屋敷に帰ると、次のダンス本披露会には、私のエスコートはできないって・・ハラル殿下からお手紙がきていたの・・ふふ、もう・・嫌になるわ・・手紙なんかで伝えず、自分の口で言ってくれたら・・よかっだ・・のにぃぃ・・ウッ」


タオルで目は隠れているが、泣いているのは分かる。


「・・」「・・」

悠里とヘリアンは顔を見合わせる。

「本披露会をエスコートしないなんて・・酷いわ。しかも、こんな時期になってからなんて!」


ヘリアンが悔しそうに両手を握る。

「今までの披露会と本披露会は違うの?」

悠里にはその違いが分からず、尋ねた。

「ダンス披露会は2ヶ月に一度ダンスの習得度合いを先生方が判断するテストみたいなものですが、本披露会は半年に一度、舞踏会さながらに行われるものなのです。親兄弟やそれ以外の方も参加できて、多くの方にその成長を見ていただける機会になっています。だから、皆気合いを入れて準備をする方が多いのですが・・」


「なるほど、その大事なエスコートを断るなんて・・腹が立つわ。こうなったら王子がギャフンというような、もっとかっこいい男性にエスコートしてもらいましょう!」


王子様から王子呼びになる悠里。

悠里がフンスと立ち上がるが、ヘリアンが何も言わず、首を振る。


「えーっと、それは難しいのです・・」

なぜ?と怪訝な悠里にサーガがタオルを取って説明する。


「私はまだハラル殿下の婚約者です。それなのに、他の男性にエスコートは頼めません。王家を敵に回すような真似は、その男性にもご迷惑がかかりますし・・誰もお受けしてはいただけないでしょう。妥当なところでは、やはり父に頼むことにします・・」


悔しい。それが今三人が胸に渦巻く感情だ。

この空気を変えたのはサーガだ。


「でも、最後まで抗いますわ。ユーリ様、明日は私は何をすればいいでしょうか? 明日はハラル殿下と接触する機会が多いので頑張りますわ」


空元気は分かるが、サーガが振り絞って明るくしているなら、悠里もそれに倣う。

「サーガさんは、今まで王子を心配するあまり、先に口に出していない?」


「ええ、大事になってはいけませんので、色々なことを先に調べてご報告したり、確認の意味で何度もお伝えしてました」

ああ、それだ・・。

悠里は遥に言われたことをサーガに伝える。

「それは王子に口煩いと思われるだけだわ。だから、これからは心配そうな顔をするだけにして」


「でも、殿下が失敗をしたら・・」

「それはあなたのせいじゃない。あなたより他の女性を選ぼうとしているなら、その心配りもなくなることを王子に知ってもらわないと。それに心配そうな顔って萌えるんですって」


「萌えるとは・・?」

悠里は質問されたが、最近の言葉の意味は良く分からないので、「ぐっとくるって感じかしら?」と、知ったかぶりで頷いて、次のアドバイスを言う。


「それとね・・。あなたを見ていると隙がないように感じるのよね。常に王子の周囲に気を配っているのを、少し止めましょう。少しだけでもいいの、ボーッとしてみるといいそうよ」


「はあ・・。ぼーっとですか」

サーガには、隙を見せることの重要性が分かっていないようだ。だが、悠里の教えを真面目に聞いている。


「あと、髪型だけど、いつも下ろしているならアップしてみて。もしアップしているなら、髪は下ろして学校に行ってみてちょうだい。見た目の意外性も必要なの」


これはすぐに実行できるからか、サーガは「はい!」と元気に返事をした。


そして、早速、演技指導だ。

いつも通りというか、サーガの演技は大根だった。

実際に悠里がやって見せたのに、サーガのぼーっとする演技が非常におかしい。

「サーガさん、それは睨むという演技よ」


「え? でも一点を見つめるって仰ったじゃないですか」

確かに言った。

しかし、それは敵がいるように凝視するのではない。


言い方を変えてもう一度トライ!

「ああ、違う、サーガさん、そうじゃない!」

「焦点を合わさないようにって、ユーリ様が仰ったんですよ?!」

「目を中央に寄せるのはよしなさい!焦点を合わせないとは言ったけど、そうではないの!」


これほど、演技指導が難しいなんて・・。

頭を抱える悠里だった。


◇□ ◇□


サーガは週に何回か、ハラルの手伝いがあるので、気まずいながらも学校の帰りに王宮に入る。


どんな顔で会えばいいのだろうか?

悩んでいたが、ハラルの執務室に入れば、彼はこちらをちらっとも見ない。

見られないなら顔を意識することも、演技する必要もないわけだ。


途端にサーガは虚しくなった。

以前は少しでも近寄りたくて、机を近付けたり、話かけたりしたが、何もかも無駄だったのだ。


机は遠いまま、微妙な距離でサーガは書類に目を通し始めた。

もう、この仕事はミアにしてもらえばいいのでは? できればの話だが・・。

そう思うとイライラが募るが、真面目な彼女はてきぱきと仕事を進めていく。


サラサラとペンを走らせていたハラルの手が止まった。

いつもなら「どうしたの?」と分からない箇所を一緒に書類を探すのだが、サーガは立ち上がることができなかった。


心配になるが、声はかけられない。

ハラルがこちらをチラッと見たが、『手助けはするな』と悠里に言われているので、どうしてよいのか分からない。

手伝いたい。手伝う? 邪魔になる? 口煩く思われる?


できたのは、目を逸らすことだった。


すぐにため息が出る。

この王宮で初めてついたため息。

ダメだ。仕事はきちんとしよう。

泣くな。頑張れ。頑張れ・・。

頑張れ?


『なんのために?』

書類に目を落とすと、そこには王子妃教育に関するプログラムがあった。

必要ないのに?


ペンが手から滑り落ちた。

サーガはそれも気がつかない。

今までの努力は無になるの? ハラルの隣に立てるなんて、夢だったのか?なら・・これからは何をしよう。


あれだけ教えてもらってもできなかった『ぼーっとする』演技は、今完璧にできていたが、本人は全く気がついていなかった。

そして、ハラルがサーガの横顔を不安な表情で見つめていることも・・。



今日も読んでいただき、ありがとうございます!

後、数話で終わる予定なので、もう少しお付き合いください。

全15話予定・・たぶん。

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