#103 魔族化した話
アーティファクトは魔妖石と呼ばれる鉱石に術式を刻み、使用者に魔法的効果を付与させる道具だ。術式の組み合わせや、魔妖石によっても合う属性合わない属性があり、アーティファクト職人も多く存在するくらいには高級品であるが流通の中心である。
魔妖石はほとんどが天然で採掘されるが、人工で作ることもできる。作り方は至って簡単だ。石を魔力で変質させること。しかし自然に存在する魔力と比べて、人の魔力は癖が強い。個人差もあるが、人工魔妖石はその魔力の持ち主専用のものになってしまう。
つまり俺がしようとしているのは、石を魔妖石に変えることと同じこと。人の魔力が自然よりクセツヨってことは、俺はその人の数十倍は癖が強いからね。心配しかない。
文献の話によると、魔妖石を作る過程で慎重にやらないと石が砕け散るとか何とか。おいおいおい、そんな冗談はよしてくれよ、と言いたいところだ。しかも文献ってところがちょっと信用ならない。
うぅー、でもこれも目を取り戻すための『実験』なのだ。半魔だからこそできること、だがやった後に何が起こるかわからん。
俺は今、とんでもなく怖いのだ。
もしかしたら魔力を暴走させて、ここら一帯を焦土に変えてしまうかもだし、魔力暴走がもし体内に留まったとしてもそしたら俺が死にます。失敗したら命はない。ひえぇ。
「や、やってみます······」
ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた。恐らくオーディンのものだろうが、絶対に俺を心配してくれてなくて泣けてくる。
魔力で体を変質させる······込めるとはまた違うのだろう。イマイチイメージしにくいな。込めるのと違うとはいえ、魔力に飲まれるのも違う気がするし······。
魔力で変質、魔法? あ! 魔法!?
そうだ、魔法なんだよコレ。俺の体を魔法陣にして、魔法として俺がいることにする。そしたら、魔力が主体の体、つまり魔族化するってことなんじゃないか!?
きたきたきたきたァ!!
わざわざ魔力で変質させるとか、周りくどい言い方しないでよね。わかんないから!
コツを掴んだ途端、心臓から爪の先までの感覚が一気に研ぎ澄まされるように感じた。これがまさしく『魔族化』。人ならざる感覚、そして魔力の昂り。魔力を消費したはずなのに、逆にみなぎっているように感じた。
「ふむふむ、見た目は完全に魔族、魔力も魔族。体が情報化したことで全回復」
「もう今日が誕生日でいいだろ。ワタシはもう帰るからな。オーディン、世話を頼む」
「今更父親ヅラなワケ? 女に逃げられたくせに」
「ーーーーお前、殺されたいのか」
思わずため息を一つ。ファーヴニルの短気さもそうだが、オーディンはもっとこう、口の利き方? 煽りスキル? 抑えられるといいよね。
目の周りにぐるぐる巻かれている包帯を解こうとした時、がっつり俺の頭に角が生えていることを確認した。これはもうしまえないだろう。
わかってはいたけど、いざこうなると不便だ。だってトイレのドアとかにぶつけるんだもん。しかもしっかり痛いのよこれが! 翼はまだ収縮可能ではあるけど。でもぶつける······あ、左目も治ったのか。しばらくは慣れるのに時間がかかりそうである。
包帯は結構ギチギチに絞められていたので、外すのに時間がかかった。外す瞬間は、まるで水の中から頭を出したかのようで、頭がおかしくなるくらい鮮明に見えた。
遠くまで見えるぞ、これ。多分、竜だから? 見えなくていいところまで見えるよ、オーディンのアホ毛一本一本とか。
「もうお前とは絶交だ! 次関わってきたら戦争だからな!」
「それは困る」
それは困る。オーディンと同意見だ。捨て台詞のようにして、竜帝ファーヴニルは窓から空へ飛び立っていった。
残されたのはオーディンと俺、あとドアの隙間から覗いてくる愉快な仲間たち。
「あのぉ、入っていいですか?」
「入れ」
愉快な仲間たち、もといファルカス、ラーファ、ダリア、ファリナ、アルタイルと入れ違いで疲れた様子のオーディンは去っていった。
ファリナとアルタイルはどこか申し訳なさそうに俯いていた。ダリアはたたっと駆け寄ってきて、抱きついてきた。
俺はそっと、手元にある二つ一組の丸くて赤くて赤黒い玉をそっと枕の陰に隠し、ダリアに大人しくハグされた。
「心配したんだからぁぁぁ〜。怪我は無くなったみたいで良かったけどぉぉぉ〜」
「ごめんなー、心配かけて。この通り元気だよ」
「いや寧ろ目が見えてない方が僕が一生介護できて、一生を添い遂げる口実になるのでは? とか思っちゃった〜」
こいつ何言ってんだ。いやあ、目が治ってほんっとうに良かったよ。こいつとずっと一緒にいたら、過去に戻っったりの繰り返しだからな。
ファルカスはいたって冷静だが、ちょっと寝不足気味だな。まあ色々心配なところあるだろうし、寝れないよな。
ファリナとアルタイルからは謝られたが、ぶっちゃけこれは俺を魔族領に連れ出したオーディンが悪いのだ。結果的には何も失っていないのだし、謝る必要はないと言っておいた。
これで全員が揃ったわけだし、あとはダリアの魔力が完全回復されるまでの辛抱だ。
そういえば熱下がってた。




