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102/103

#102 熱を出した話

 何で二人を連れてくるだけでこんなに時間がかかるんだよ! お前に不可能なんてねぇだろ、オーディン!

 バタン、と爆発にも近い衝撃の音が二回、その場に鳴り響いた。

 オーディンがファリナとアルタイルの首根っこを掴み、引きずってドアを蹴っ飛ばしたところだ。

 俺は涙目になりながら高速でオーディンに駆け寄り、そっと横に並ぶ。こうして影を薄くするのが陰キャの手法なのだ。

 と、言いたいところだが。首根っこを掴まれたのは二人だけじゃなかった。俺はファーヴニルに首根っこを掴まれ、宙ぶらりんである。

 対してオーディンは、相変わらずの無表情で動じなかった。


「こいつはワタシが預かる」

「駄目だ。今更父親にでもなるつもりか? 育児放棄者が」


 おう······これは、アレですかね。昔流のシュラバというやつですかね。

 で、オーディンの言葉から察するに、竜帝は育児放棄したのかな? これは犯罪だよ、親の資格ないよ。子を育てる責任を持てないなら、子供を作っちゃいけないんだよ。って、前世の俺が言ってた。


「黙れ、出来損ないが。お前など育てるに値しないわ」

「えっ、人を悪く言う人に預けられたくないです······。無理です、生理的に」


 おっと、口に氷でも張り付いていたのかな。滑りに滑っちゃってツルツルだったわー。

 俺の意思を無視して話を進めるなんて言語道断。俺の関する話題なのだから、口の氷は溶かさずそのまんまでいいだろう。

 竜帝はぴしっと固まってしまい、オーディンは無表情のまま。しかし明らかに俺に了承しているのがわかるくらい雰囲気は明るかった。

 えーと、育児放棄の対象が、竜帝の口ぶりからしてオーディンだった。ってことは、え、竜帝とオーディンって親子だったりするの?

 固まってしまった竜帝の手から俺は無理やり抜け出して今度こそ陰キャの秘技、すっと横に立つを実行する。


「じゃ、そういうことで。帰りましょ」

「そうだな」


 俺は爆速帰宅をかましたかったので、転移魔法を発動させた。

 しかし、それは失敗に終わる。

 周囲を満たす濃い魔力が原因ではない。これは、また苦しむことになりそうである。

 謁見の間の床に、ぽたぽたと俺の血が滴る。と同時に赤いガラスに遮られたように視界が赤に染められていく。

 痛い、いや熱いか。心臓がつったように締め付けられ、息さえできなくなる。全身の魔力が爆発しそうだ。

 苦しい。頭がくらくらして、痛い。目も激痛だし、生きている実感が湧かない。息も吸えなくて気を失いそうだ。

 怖い、どうしようもなく怖い。虚無感というのか、揺れた意識の中でただ孤独感が警鐘を鳴らす。

 言うなればアレだ、下痢の時。腹が痛いけど力を緩めるわけにはいかないくてっていう葛藤。


「おい、ウリア!? しっかりしろ! 落ち着いて、魔力を吐き出せ!」


 ふらっと床に倒れ込む。しかし思ったより痛くなかったのは、オーディンが咄嗟のところで支えてくれたからだ。

 この体じゃ、弱すぎ······る――――



 ······っ、はっ。あっぶねー、死にかけたよ。

 遠い意識の中、ずっと誰かと喋ってる感覚があった。それが誰なのかとか、何を話したのかとかは全く覚えていない。

 ゆっくり俺は目を覚ますが、目の周りを包帯で巻かれているのか、目を開けることはできない。真っ暗で恐怖まで感じる。

 いや、恐怖なのは、体にだるさがあるからだ。何もしたくない。それと、ファーヴニルの魔力が充満しているから。


「おい、まだ寝てろ。熱があるんだぞ」

「そうだ。目だって失ったし。ほら」


 ぐっ、と肩を押され、また横にされる。多分これはオーディンだ。

 ファーヴニルもいたっぽいな。そっと俺の手の平にころっと丸いもの? が置かれたような気がした。

 タイミングと形状と大きさから考えるに、俺の目なのかな、って触らせんでよろしい。グロいし、失明しましたよはいって渡すもんじゃねぇよ。ってかなんでこんなに綺麗なんだよ。


「お前、これからどうしたい?」


 これはオーディンの声だ。どこにいるのかはわからない。


「どうしたいとは?」

「このまま目を失ったまま生きるか、それとも魔族化して生まれ変わるか」

「オーディン、お前も魔族化したらどうだ? いつまでも隻眼だったらみっともないだろ」


 やいのやいのと親子疑惑のある二人は言い合っている。一見和気あいあいにも見えなくはないが、冷たい関係なのは受け取れる。

 えーっと、まず魔族化がわからないんだけど。


「魔族化って?」

「魔力で体を変質させることだ。まあ、苦しくなる程度で弊害はないな」

「苦しいんじゃないですか」

「大したことないさ。······多分」


 ファーヴニルがずっと喋っているが、俺は完全に彼を信じ切っているわけではない。しかしオーディンは何も言わないので、疑うのも杞憂に終わりそうかな。

 俺は渋々、魔族化することにした。オーディンはキラキラした目で俺に期待の眼差しを向けていた。

 実験対象じゃねぇかそれ!

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