#100 竜帝のところに行った話
ああ、やっぱりな、という絶望にも似た不安感と、こいつらも一緒だたという安堵感がぶつかり、モヤモヤを抱えながらダリアのゆっくりとした寝息を聞く。
「ウリア! 無事で良かった!」
最初に俺に気づいたのは赤い方、ラーファだ。さっきまでの不安が全て晴れたかのように、明るい笑顔になった。
それに対してファルカスは、俺を見ても不安が振り切れていない様子で、ずっとそわそわして落ち着いていない。それどころか、顔は真っ青で具合まで悪そうである。
ラーファもファルカスも過去に来てしまった、ということはほぼ間違いなくファリナとアルタイルもどこかにいるだろう。
しかし、見つける術がない。もし魔族領のど真ん中にでも飛ばされていたら? 鳥肌が止まらない。何故だ、魔族には何の関わりもないのに。
もう考えないようにしよう。ダリアが魔力を全回復して、現代に戻れることを祈るばかりだ。
やっぱりファルカスとシグルドはどこか似ている。性格は言わずもがな似てないけど、図太いところかな?
「ぅん······、っ」
ダリアが苦しそうに寝ながら息を荒立たせる。滝のように汗が溢れ出していて、思わず俺は彼のすぐ近くに行く。
「――――忘れないで······」
小さく縋るように、だけどはっきりと、彼は俺に手を伸ばした。目には涙が浮かび、それはやがて大きくなって彼の顔を撫でた。
そういえば時の妖精は、過去を旅したら綺麗に彼だけ記憶が消えるんだっけ。
仕方のないこととしか言いようがない。妖精なのだから。常に知的生命体に依存して、裏ワザはあるものの言い伝えられないと生きていけない。それは人が心臓を動かすのと同じくらい抗えないことなのだ。
そうか、俺も。俺も、帰ったらダリアを綺麗さっぱり忘れてしまうのか。
この言葉に責任は負えない。身の丈に合わないのはわかってる。俺はどうしようもなく無責任で、適当だ。何より俺は、この言葉が大嫌いだ。
「忘れないよ」
ぎゅっと、俺に伸ばされた彼の手を握る。思ったより手汗が出てて後悔したのは内緒である。
ダリアも落ち着き、改めてオーディンのところに行く。ファルカスとラーファの部屋は俺達のさらに隣らしい。あとで行く。
オーディンは······彼の汚部屋か。間違えた、部屋か。いや、間違えてないか。思い出すと、めっちゃ汚かったもんな。
ロックだかノックだか忘れたが、適当に五回くらいコンコンして、返事がないので少しずつドアを開ける。
そろーり。あ、オーディン発見。お取り込み中でも実験中でもなさそうだったので、俺はそのまま中に入った。
「あのお······」
「どうした」
あのさあ、ノックに気づいてたなら言ってよ。そんな平然としてなくてもいいんですよ!
ところで思ったんだけど、こいついつも何やってんの?
王としての役目なんて、結界を張ることくらいしかないだろ? クロードに丸投げしてるんだから。実験をしてても、そんな四六時中やってるってわけじゃないでしょ。ひょっとして、暇?
「実はあと二人、巻き込まれていたかもしれなくて――――」
「探せ、か。銀髪からも同じ話は聞いた。ユグドラシルに聞いた感じ、魔族に捕らえられている」
オーディンは天井に吊るされている二つの檻の中にそれぞれいる烏に餌をやっていた。餌、詳細は知らないほうが身のためだろう。
だからあ、話をちゃんと聞きなさいって! いつか絶対、取り返しのつかないことになるんだからさあ。悪い癖だよ、本当。
っていうのは置いといて。目ん玉飛び出すかと思った。ファリナとアルタイルが魔族に捕まってるって······、何の冗談なんだ。
オーディンは静かに俺に歩み寄ってきて、俺の首根っこを掴む。ずるずると引きずり、オーディンは窓を開けて空に飛び立った。
え、あ、うん。頭の回転が追いつかない。このままだと首が締められて苦しいので、自分も空を飛び、彼の隣に並行する。
流石と言うべきか、速いな。追いついてるのがギリギリだ。
「どこに行くんです?」
「敬語はいい、どうせ俺なんだから。今から竜帝のところに行く」
「竜帝······?」
「知らないのか? 魔王とも呼ばれているが」
魔王? 勿論、聞いたことはある。しかしあくまで伝説上の存在だ。勇者ジェルグリッドが倒したとされている。両者とも本当に実在したかどうかは、あくまでイエス・キリスト程度という認識くらいしかない。
とは言っても、伝説なのは妖精王も同じ。寧ろ世間では妖精王の存在の方が信憑性は低いのだ。
信じているわけでもまたその逆なわけでもなかったが、魔王が本当にいるとは。魔族すら見たことないからな。
「竜帝ファーヴニル。気をつけろよ」
竜帝ファーヴニル······聞いたことねぇな。
暫く飛んでいくと、やがて真っ暗な砂漠が見えてきた。昼なのに夜のようで、その原因はすぐに知った。濃厚で醜悪、という表現が最もお似合いな魔力が充満していたのだ。
魔族にとっては生きやすいかもね。だって実際に俺は、特にそれといった不調を感じていない。これが普通の人間だったら、今頃目眩や頭痛がしていただろう。寧ろもっと酷いかもしれない。
砂漠の中には線の細い作りの城があった。建築には詳しくないが、形はゴシック調に近い。かなり高い技術が使われているというのは見るだけでわかる。
オーディンと俺はその城の前に降り立った。周りには角やら羽やら牙が生えた強そうな奴がうじゃうじゃいて、いずれもオーディンに好意的な視線を送っていなかった。
「竜帝陛下にお会いしたい」
兎の耳が生えた門番の一人が、俺達を中に通してくれた。それも渋々といった様子で、あまり気分のいいことではない。
案内されたのは仰々しい扉の前。兎の獣人は舌打ちしながら立ち位置に戻っていった。
この扉は金属製だが、充満する魔力に食われて変質している。並の金属とは強度も重さも桁違いだ。
オーディンがその扉を前に押し出す。余程重かったのか、重心を前に置いてやっと開いた。
魔族は戦闘種族とも言えるくらい種族によるけど物理的にも力が強い。半魔も魔族ほどじゃないとはいえ、結構な怪力であるはずだ。なのに開けるのに手間がかかる。やべぇ魔力だ。
「何の用だ、出来損ないめ」
扉の奥には、ドーム状になった巨大な謁見の間。謁見の間だというのがわかるのは、中心がステージのようになっているからだ。
その中心に鎮座するのは、巨大な人語を話す竜である。一目で、周囲を満たす魔力の持ち主が彼だとわかった。
三桁、、、ああ、早いなって感じです。とりあえず完結できるように頑張ります




