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総長戦記 0012話 不足

【筆者からの一言】


いつの世にも問題なのは先立つもの……

1937年初頭 『日本 陸軍参謀本部 参謀総長室』


「足りぬか……」


 副官から渡された報告書を読んだ閑院宮総長は一言だけ呟いた。

 その呟きに副官も苦渋を滲ませながら応じる。


「はい、まるで湯水の如く資金が使われておりますので全く足りません。

日本の予算に手をつけないとなりますと、満洲国と朝鮮総督府の国防分担金からの割合を増やすか、満洲国の臨時警備費、鉄道警備費からの割合を更に増やす他は、もう資金を捻出する方法がありません」


 満洲国と朝鮮総督府の国防分担金とは一般会計予算の1割を、日本に対し軍事費として供出する予算の事だった。

 史実では実際に満洲国が国防分担金と言う名の軍事費を捻出している。例えば1936年においては約1950万円を負担していた。


 今回の歴史では閑院宮総長が陸軍大臣を通して政府に強く働きかけた為、朝鮮総督府からも毎年、国防分担金が日本に支払われている。


 満洲国の臨時警備費というのは、日本がソ連との国境に建設している要塞地帯の建設費と言い換えてもよい費用の事であり、鉄道警備費とは満洲鉄道の警備を名目とした治安維持費の事だが、平たく言えば両方とも関東軍の維持費だった。


 本来、陸軍参謀総長には予算をどうこうする権限などはない。

 しかし、現在の陸軍大臣は閑院宮総長の操り人形でしかなく、陸軍の予算に関しては全面的に総長の要望に沿ったものになっていた。


「いや、それはいかん。

これ以上、資金を流用すれば軍の活動に支障をきたす。

今でさえ余裕はそれほどないのだ」


「いかが、いたしますか?」


「杉はどうなっている? まだ偽札を使う事はできんのか?」


「督促はしていますが、まだ、あと一ヵ月ほどは掛かる見込みとの事です」


 閑院宮総長の言う「杉」とは「杉工作」であり、偽札偽造工作の事である。


「ともかく、今一度、督促しておけ」

 そう言って閑院宮総長は話を締めくくった。


「了解致しました」

 返事をして一礼しながら扉の向こうに消える副官の後ろ姿を見やりながら閑院宮総長は重苦しく息を吐いた。その表情は険しく眉間には深い皺が寄っていた。



 湯水の如く資金が使われている理由。


 それは4年前に物理学者グループに依頼した研究である。

 研究の名前は「勇研究」

 研究で重要な役割を果たすUran(ウラン)頭文字U(ユー)から転じて付けられた名前だ。


 表向きは朝鮮にある「朝鮮軍防疫部隊」による防疫研究であり、裏では細菌戦の研究を行っているという事になっている。

 

 だが、実際に朝鮮北部にある研究所で開発されているのは「ウラン爆弾」である。別名を「原子爆弾」とも言う。

 

 この「ウラン爆弾(原子爆弾)」、秘匿名称「勇爆弾」の製造に多額の資金が注ぎ込まれていた。


 この「勇研究」は難題であった。

 

 理論はあっても技術が追いついていない。

 それがこの研究の厄介な所でもあった。

 使う機材や資材にしても日本の物ではとても条件を満たしていない。

 故に日本より進んでいる外国の機材や資材を大量に必要とする事になった。


 外国の物にしても必ずしも条件を満たしているとは言えない物も少なからずあったが、それでも日本の物よりは良い物が多かったので取り敢えずは輸入して使うと言う場合もかなりあった。


 外国での買い付けは閑見商会が担当した。

 ただし、南米やスイスにダミー会社が幾つも設立され、それらの会社を何回か介して複雑な購入ルートを構成している。

 購入したのが日本だとはわからないようにするためである。

 そうしてアメリカやイギリス、ドイツ等から買い付けた物資は一旦ドイツに集積され、そこから上海に向けて船便で送られる形にして、最終的に日本に到着するようになっていた。


 ただでさえ、資金のかかる研究なのに、第三国経由で機材や物資の調達をする体制をとっているので、その分、余計に費用が嵩んでいるという事情もあった。


 なお、ウランについては幸いな事に朝鮮半島北西部の平安南道順川郡にある閑見商会所有の鉱山から採掘されている。

(現代において、やたらとミサイル実験をしたがる海の向こうの某国が開発中の核ミサイルに使われているウランが、この鉱山から産出したものだと言われている)



 この「ウラン爆弾(原子爆弾)」の研究製造における財源は複数あった。


 一番の財源は「閑見商会」が朝鮮半島に保有する金山と銀山から齎される金銀である。

 人件費の安い朝鮮人を鉱夫として雇い入れて金銀を掘らせ莫大な利益を上げていたが、その利益の多くが陸軍の新兵器開発へと献金され、それが「ウラン爆弾(原子爆弾)」開発に使用されていたのである。


 次に大きい財源が麻薬である。

 史実でも日本は計画的に芥子(けし)栽培を満洲で行い、阿片、ヘロイン、モルヒネを精製して不法に販売し莫大な利益を上げていたが、今回の歴史では、その利益の多くがが「ウラン爆弾(原子爆弾)」の製造に注ぎ込まれていた。


 三番目が満洲国と朝鮮から得られる国防分担金の一部流用である。


 四番目は武器の密売である。

 中国大陸での中華民国政府の統制力は弱い。地方では軍閥が割拠し、共産軍も中華の大地を我が物にせんと活動している。そのせいで内戦が絶えない。

 そこで「閑見商会」が、第三国にダミー商社を設立して、外国製の武器を転売して利益を上げていた。


 そして後に五番目の新たな財源が加わる事になる。

 偽札である。


 偽札の生産が軌道に乗るにつれ「ウラン爆弾(原子爆弾)」の開発費用におけるブラックマネーの割合は更に高まる事になる。


【to be continued】

【筆者からの一言】


ブラックマネーにより開発が進む「ウラン爆弾(原子爆弾)」

果たして完成するのか否か……

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