12.施設とオブジェ
「わぁ……!」
その光景は、先ほどまで見てきた神宮寺家の母屋や道場の雰囲気とは一線を画すものだった。入ると左手は通路がギャラリーになっていて、奥の突き当たりまでは百メートル以上はあるように見える。ガラスの向こうの左側の空間は吹き抜けで、そこからはフロア全体を見下ろせる。底から天井まで、その空間の高さは30メートル位はあるだろうか。薄暗いその空間では、あちこちでLEDが電子の瞬きを繰り返している。全体が澄んだ青い光に満ちたその光景は、まるで『むこう』の映画のワンシーンに入り込んだかのような錯覚さえ覚えさせた。幾何学的に配置されたデスクの合間を縫うように、多くの人影が慌ただしく動いているのが見える。さらにその一角には、無数のサーバーラックが壁のようにそびえ立つ、ガラス張りの専用エリアも備わっていた。
「かっこいい!!」
感嘆する心をさらに驚かそうと勘吉が言った。
「ちなみに、この施設内にいるのは人間だけではない。首から下げたIDカードの色によって、人間かロボットかは一目で識別可能になっているがな」
「え! あの中にロボットもいるの!?」
正面向かって右側は、フロアを支える太い支柱が等間隔に並んでいる広大なオフィスフロアだ。そこには、従業員らしき人間達とともにロボットが多く混在しているのだが、一見すると人間しかいないようにみえた。そのフロアの人員の数だけで、ざっと見て100人以上の従業員たちがそれぞれ自分の仕事をしている様子が見える。従業員たちは一様に薄いブルーの作業着を着ていた。
視界に映るものすべてが新鮮で楽しい時間だった。しかしフロアを歩いて二本目の支柱の前に来た時、心たちの目に映ったそれが、心たちを一瞬にして戦慄させる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
支柱の前に、移動はしないものの確かに蠢いている高さ1.5m程の黒い生物。頭部の脳に位置する部分や手足の関節部分が薄暗くも緑の蛍光を放っている。足が接している面にはその身体の大部分と同じ漆黒で塗りつぶされた楕円の影がある。その影から出現してきたような佇まいで、辺りを探っているように首を左右に動かすそれは、鎖で囲われた直径1m、高さ30㎝程の円柱の台座の上に『展示』されていた。
「こ、こいつは……!」
三人の中で最も衝撃を受けた心は、それを見るなり咄嗟に飛びかかろうとした。その理由は、目の前の物体が、ナオトを引きずり込んだあの『黒い生命体』そのものだったからだ。心がみんなに見せた証拠写真の、あの生命体に。
「心!! 待て!!」
心がそれに攻撃をするだろうと読んでいたレナ。背後から両腕を回し羽交い締めにして、その突進を力ずくで食い止めた。宙を舞う足でその物体の頭部と思しき部分めがけ何度も蹴ろうと空を蹴る心に、レナは言い聞かせた。
「待て……心……落ち着けって!! これは、ただの『オブジェ』だ」
「はっ!?」
「少し観察したらわかる。単純な動きしかしていない。10秒ほどで最初の動作に戻り、それの繰り返し。生きているようにリアルだけれど、ただの人形だよ……」
「あ、あぁ……でも何故これが……」
「それはあとでわかるから……」
「……わかった……」
「驚かせてすまんな、心。みんな、ここで少し待っててくれ。妻の『ジェイダ』を連れてくる」
勘吉はそういうと、四人を残し通路を奥へと歩いていった。レナが説明した。
「BRFっていうのは、秘密の国際組織なんだ。ここはその日本支部。そしてこのオブジェは……BRFが『ブラック・モンスター』と呼んでいて、研究している生物だよ……」
「なんだって? ブラック・モンスター?」
「あまりに突然すぎて……ついていけないわ……」
「SF映画みたいに……話が……でかくなってきた……」
青い空間のなかで新たな知見を得た3人の胸中に、不安と期待という相反する感情が激しく交錯していた。
――続く




