嵐到来
ああ、しまった。私は、すっかり忘れていた。そう、
「…………嵐兄」
「お兄ちゃんと呼べよ、妹よ」
不機嫌な顔で、長身な彼は私を見下ろした。その切れ長の瞳で睨まれたら怯えることしか出来ないじゃないか。でも、私も悪いのも承知してる。とりあえず、言い訳というか隠蔽というか、嘘をつこう!まだ、黒音くんは珍しく帰宅していないから!!
「これは、なんだ?俺、こんな服持ってねぇよ?」
あああ!なんで、洗濯物を漁るの!
「もう!泥棒よけに干せって言ったでしょ、お、お兄ちゃん!」
「新品の男物パンツは?これは、どうみても使ってるぞ?」
そ、それは黒音くんのです。こんな形で見たくなかった!
私たちは、洗濯物は別個にしている。じゃないと、その、ねぇ?女子は大変よ、ええ!思わず赤面してしまう私に詰め寄る兄、嵐。
名の通り、嵐だ!どうして、来るの!
「おい、まさか男連れ込んでるんじゃないだろうな?!」
我が兄は、その重度のシスコンぶりでイケメンなのに振られる残念なイケメンである。しかし、本人はまったく気にしていない。
「フるの面倒だろ?」ということで、来るもの拒まず、相手せず。去るもの追わぬ、忘れ去る。という人だ。そんなシスコンの兄に、言えるわけない。同級生と同棲しているなど、以ての外だ。一線は越えてはいないとはいえ、未成年にはだめだろうけど!
「…………お兄ちゃん、雹が大好きなんだ、だから本当のこと言え!」
「と、友達から貰ったの!そのパンツとか買えないし、恥ずかしいし!」
「……そんな、男友達がいるのか…なんてふしだらな!」
ええ!これも、ダメ?!どーしよう!
リビングは戦場と化している。兄の手には黒音くんの私物だ、あれをどうにかこうにか取り返しつつもこれ以上誰か私以外の生活感がバレないようにボロがでないようにしないと。それと、今日泊まると言い出しかねないし、それを阻止しないとだし。ミッションが多すぎる!!
「俺の服を干せ!だから、これは捨てる!」
なんと!ヤバいぞ、黒音くんの数少ない私服が窮地にたたされている。………ごめん、黒音くん私には守れそうにもな……
ガチャガチャ、ガチャリ。
玄関が開く音がして、トントントンと誰かがリビングへとやってくる。固まる兄と私、誰かとは1人しかいない。
「………雹、帰ってたん……だ?」
目が合った、私の兄と黒音くん。正確には、前髪で隠れていて本当に合ったのかは不確かだけど。
ギギギギと、まるで滑りが良くない機械のようにお兄ちゃんは私へと顔を向けた。そして、私は逃げ出したくなったのだった。
───嵐が到来しました、どうしよう。
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お久しぶりです。
ちょっと短めを投下。