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再会した日から、アノンとルートは、毎日会っていた。
それというのも、ルートは今、かつてアノンが住んでいた家にリジッドと住んでいる。
元は、そこはリジッドの家だったが、ジュノンが借り受けていた家だ。そして今はこちらに留学するルートが、寮には入らずリジッドとともに住むことになった。
それというのも、リジッドが寄る年波に勝てなくなり、滔々引退することになったからだ。
放って置いたら死ぬまで働くのではないかと、危惧したアイジェットによって半ば強引に引退させられた。
そして家には、使用人も雇わずに一人で住むと言い張るので、態とルートを寮や大使館ではなく、リジッドと住まわせて、使用人を無理やり置くことに成功させていた。
そんなリジッドはルートの気持ちを知っていて、自身の経験からアノンには毎日会うようにと厳命した。
亡き奥方と婚約時代にすれ違った経験が、そうさせるのだとルートは思う。自分も二の舞いにならないようにと、ルートはリジッドのありがたい忠告どおり、せっせとアノンの元に通っていた。
「ルート、また来たの?」
ルートの訪いに、アノンは素っ気なくそう言っているが、本当は嬉しかった。
誰かが、自分を気にかけてくれることは、今度の人生では当たり前のように、皆がアノンを気遣ってくれるが、それでもふと思い出すのは、巻戻り前の最期の時の、独りぼっちのやるせなさだった。
だから、ルートが毎日やってきては、今日は何処そこに行こう、と誘ってくれるのが嬉しい。
最近はルートが来るから安心したのか、ジュノンも仕事に打ち込んでいる。
その日も、ロードがエントランスでルートの羽織っていた外套を受け取りながら、
「本日は何処へお出かけで?」
と、いつものようにルートに尋ねる。
「うーん今日は何も浮かばなかったから、ちょっとアノンと話そうかな」
それにロードは頷いて、ルートを応接室へと案内して行った。
アノンは、二人の背を見届けて、厨房へソソソっと急ぎ足で向かう。
最近ユナの妊娠が分かり、今彼女は強制的に休みを取らせている。
だからお茶を淹れるのはアノンの仕事だ。
ルートがハウケン伯爵領から持参したお茶は、伯爵領の特産品で、甘みがあるお茶だ。
アノンも巻戻り前の時は、定期的にルートが持ってきてくれたり、送ってくれたりしていたので、とても馴染みのあるお茶の味だった。
再会する前の日にそのお茶を飲んだのに、どうしてルートが来たと思い至らなかったのか、不思議に思ったほど懐かしい味だった。
厨房に行くと、既に料理長がお茶の用意をして、ワゴンに一式乗せてくれていた。
料理長と言っても彼しか料理人はいないのだが、アノンは彼の美味しい料理が大好きで、敬意を顕すために“料理長”と呼んでいた。
「料理長、ありがとう」
「お嬢様、クッキーどうしますか?焼き立てが良いなら、今オーブンの中なんですよ。旦那様が昨日買ってきたのは、ここに出してありますが」
「うーん、私は焼き立てが食べたいな。でもこれも持って行くわ」
「じゃあ焼き上がったらロードさんに伝えますね」
「えぇ、ありがとう。楽しみ!」
アノンはウキウキした足取りで、ワゴンを運びながらルートの待つ応接室へと向かう。
ノックをするとロードが扉を開けてくれた。
「お待たせしました」
ユナに習ったお茶の淹れ方は、巻戻り前と変わっていない。前の時もアノンはこうしてルートにお茶を淹れたりしたことがあった。
(懐かしいなぁ、あの時はライトもいて⋯)
うっかり、その時の光景を思い出してしまった。
巻戻り前の記憶が薄れてきても、こうして何かにつけひょっこり記憶が思い出される事がある。ルートがこちらに来てからは、かなり頻繁に記憶が蘇って来て、良い事もあるし嫌な思い出もある。
ルートに関してはいい思い出が多いから、そんなに苦痛とまではいかないが、ライトがひょっこり思い出されると、序のようにマチルダ、ミネリタ、そしてアルトと繋がってしまう。
その度に頭をブルブル振って、思い出した記憶を消そうと試みていた。
そんなアノンの仕草にルートは気が付いていた。ジュノンたちの話で、前の記憶が薄れてきたようだと聞いていたが、ルートと接する事で、蘇ってしまうのだろうと理解していた。
それでもルートは、アノンと離れようとは思わない。
アノンがいつかその辛かった事を昇華できるまで、ルートは側に居ると決めていた。
「おっ、今日のクッキー。これって有名な菓子店のだろう?」
「知ってるの?お父様が昨日買ってきてくださったの」
「一昨日かな、アイジェット様がリジッドのお土産に持ってきてた」
「じゃあ食べたことあったのね」
アノンは、少しがっかりしたが、ルートは勢い良く首を振って否定した。
「食べれなかったんだよー!爺やが一口もくれなかった」
ルートが情けない顔をして、大げさに嘆くその様を見て、アノンは思わず「ブッ」と吹き出し、涙が出るほど笑う。
先程まで、思い出していた辛い気持ちがスッキリとなくなる。
笑顔のアノンを見て、背後にいたロードはハンカチで目尻を押さえる。
彼もアノンが巻戻り前の事を思い出した事に気付いていた。
だが、アノンはそれを忘れて笑っている。
(ルート様、ありがとうございます)
ロードは心からルートに感謝していた。




