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「どうして私の通う学園が、ハウケン伯爵令息に関係あるのですか?」
アノンの言葉にルートは悲しそうに首を左右に振った。
「アノン、俺に呼び方を指摘するなら、君も俺を名で呼んでくれないと不公平だ」
アノンはルートの言葉に目を丸くする。
この身分制度の世で、それは不公平でも何でもない。アノンは平民で彼は貴族なのだ。そんな分かりきったことに、異を唱えるルートを、アノンは不思議に思い首を傾げる。
「まぁそれは追々かな。慣れてくれればそれでいいけど、俺は君が行く学園に進もうと思ってこの地に来たんだ。違う所に通ったら意味がないだろう?本当は秘密にしてサプライズで登場としたかったけど、ジュノン様も知らないと仰るし、ならば本人に聞くのが一番だし、アイジェット様の前で言った言葉は、違えないだろうから、来年入学する学園を変更することもないだろう?」
アノンがルートと呼んでくれないことに、歯痒い思いはあるが、身分を考えれば致し方ないと、ルートは譲歩することにした。それに焦ってもいいことはない。今はアノンがどこに進学するかが重要なのだ。そう思って、ルートはアノンに尋ねた真理を話した。
ルートの言葉にアノンは呆れてしまう。
どうしてルートは、自分の将来をアノンの進学で決めるのか、彼のその理由にアノンは益々困惑してしまった。
「アノン、彼は将来私の補佐をする予定なんだ。要はジュノンの後釜だな。この国の学園は文官になるなら、どちらの学園でも可能だから、どちらでもいいんだよ。だから彼はそれならアノンと一緒がいいと言ってるんだ。慣れない国に来たのだから、少しでも知ってる顔がいる方が安心するだろう」
アイジェットの言葉に、アノンはなるほどそういう事かと納得した。
でも、それでも不思議だと思う。
アノンとルートは一歳違いだから、アノンは来年の入学だが、ルートはあと数カ月で入学しなければならない。
こんなギリギリのタイミングでこちらにやって来なくても、スカイナ王国で学べばよかったのではないだろうか?
アノンの正論に、今度はアントンが助け舟を出した。
「スカイナ王国では、ルート様は優秀すぎて王家に取られてしまいますから、あまり優秀だと引く手数多なんですよ。それを避ける為に、アイジェット様はこちらの国に、留学したほうが良いと考えられたのです」
アノンは、もう疑問を言うのは止めにした。
アノンが何かを言えば、周りがすぐ様尤もに聞こえることを言うのだから、聞くだけ無駄だと思ったのだ。
それに、アノンもなんだかんだと疑問を口にするが、ルートと同じ学園に通えるのは嬉しいに決まっている。
今のこの思いは、懐かしさから来るものだけど、巻戻り前のアノンの初恋は間違いなくルートなのだから。
巻き戻ってからは、誰かに恋心を抱くよりも、目的に向かって進んでいたので、そんなに思いを寄せるような男性にも会えなかった。
唯一合ったそれらしき事は、ルートとの文通くらいだ。
隠すように、少し小さく溜息を吐いて、アノンは正直に話した。
「実はまだ迷っているのです」
そう言って、家庭教師はどうかと思ったことや、需要があるようには思えないことなど、進学先が決まらない悩みをアノンは皆に吐露した。すると、男性4人が輪を作って話し始めた。アノンはすっかり蚊帳の外に置かれて、退屈でテーブルにあったクッキーを摘む。
窓から外を眺めると、空は青く雲がゆっくりと流れている。静かにそれを見つめていたらふと気付いた。
(ルート。いえ、ルート様は巻戻り前は王宮で働いていたはずよね。その時はアイジェット様とは働いてはいなかったのかしら?前とは違う事が起きているから、ルート様の運命も変わってしまったのかしら?)
巻戻り前とは違うルートの人生。
前の時、アノンはライトを選んだから、ルートとは交わることなく別の道だった。
でも今度の人生では、少なくとも少しは近くに居られるのだ。
アノンはその事に気付いて、それをとても嬉しく感じた。そして気持ちがどんどん高揚してくる。
すると大人達と話していたはずのルートが、アノンの顔の前に手を翳した。
驚いたアノンは顔を上げる。
「とりあえず、あと2週間は猶予がある。今日は俺との再会を祝して街を案内してくれないか?」
ルートが静かな笑顔でアノンを誘う。
その穏やかな笑みは、巻戻り前と変わらないルートだ。
ただ前と少しだけ違うのは、その目に何かの決意が見える。
それは将来がアイジェットの補佐と決まっているから、大人びたのだろうとアノンは勝手に解釈した。
誘われて嬉しくないはずがないアノンは、ジュノンの方を見る。
ジュノンはコクリと頷いてくれた。
「喜んで!」
アノンは、ルートの手に自分の手を重ねて立ち上がる。
歩き始めた時、ルートがアノンの重ねられた手に少し力を込めたように感じた。
二人が部屋を出たあと、ジュノンは掌で目を覆う。昨日ルートから聞かされたアノンの事は、アノンから聞かされるよりも胸を打った。昨夜の夕食のときから、アノンの前で泣かないようにと努めていた。
「アノン、今度こそ幸せになるんだ」
ジュノンが涙を流しながら呟く言葉を聞き、アイジェットは彼の肩に腕を回す。
「きっと大丈夫」
そう言って友を励ました。




