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第79話 有翼人の大攻撃


 巨人は防御力の高い兜や鎧を脱いだ。

 上半身は裸。下半身は下着のみ。


 それでも有翼人が巨人を襲撃することはなかった。

 明らかに巨人を避けている。


 巨人が鋭い目つきでオレを睨みおろす。


「脱いだのに、ぜんぜん襲ってこないじゃないか! やっぱりお前は悪いヤツ」

「お……おかしいなあ」


 隣でムアンが楽しそうに言う。


「ラングは仲間が欲しかっただけなのよね」

「ち・が・う!!!!」


 どうして巨人は攻撃されないのだろう。

 それほど巨人を恐れているということなのか。



 冒険者や兵士の魔導士たちが、火球や光球、氷塊、爆塊などを放っている。

 しかし上空の敵に対して、ソンクラム軍の状況は深刻なほど不利だ。


 オレには必殺技『雨ネズミ』があるが、上空の敵にネズミを降らせると、真下にいる味方にも攻撃してしまうことになる。だからここでの使用は無理だ。


 有翼人は上空で魔導のプラズマのようなものを起こした。

 その中から巨大な物体が生じる――。


「あれは蛇龍ナロック・ナーガだ!」と巨人の足元に立つ兵士。


 ナロック・ナーガはプラズマのようなものの中から次々と生じていった。

 それぞれが上空から炎を吐く。ソンクラム軍は完全に劣勢だ。


 巨人の足元の兵士が鐘を鳴らす。



 カーン カンカンカンカン



 えっ、嘘だろ?

 まさか……。信じられない。


 それは撤退の合図だった。


 八千を超えるソンクラム軍が退散。

 完全な敗北だ。


 敗戦なんて考えてもみなかったことだ。

 大勢のソンクラム軍兵士がいたのに。

 大勢の冒険者が集まっていたのに。

 皆、頼もしい味方だったのに。


 ああ、撤退か。


 活躍したかった。名前を売りたかった。

 そのチャンスのはずだった。それなのに……。

 ガッカリして溜息を吐いた。


「オレたち、何もできなかったな」


 町や村を襲った有翼人を退治することはできなかった。

 殺された人々のカタキを討つことができなかった。


「師匠、最後に一矢いっし報いてやらないか」

「一矢報いるって? ここからどうやって」

「わたしのスノーブレスと師匠の風ネズミでだ」

「地上から風ネズミを放って、届くかなあ」

「空からだ。背中に乗ってくれ、師匠」

「背中に?」


 チャオプは半龍化し、さらにローブの中でドラゴンとなった。

 彼女の脱いだローブをムアンが預かる。

 完全にドラゴン化したチャオプがこっちを見ている。


 乗ればいいんだな? でもこんな小柄なドラゴンに乗って大丈夫か?


 恐る恐る白いドラゴンの背中に乗る。

 チャオプは翼を広げ、羽ばたいた。


 やや不安定ながらも飛んだ。

 ぐんぐんと高度をあげていく。

 次第に安定してきた。


 すると不思議なことに、有翼人は距離をとりはじめたではないか。

 どうしたんだ? それはナロック・ナーガも同じだった。


 有翼人もナロック・ナーガもオレたちに攻撃してこない。

 まさかこんな小さなスノードラゴンを恐れている?


 そんなことは別にどうだっていい。

 とりあえず風ネズミを喰らわそう。


 しかし有翼人はナロック・ナーガとともに撤退を始めた。


 いよいよわからなくなってきた。

 まだ何もしていないのに、何故逃げていく?

 あっと言う間に空から敵がいなくなってしまった。


 チャオプは降下し、地面に着陸。

 オレは彼女の背中からおりた。



 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 わああああああああああああああああああああああああ!



 大歓声に包まれた。英雄だ、と騒ぐ兵士や冒険者たち。

 オレもチャオプも、何もしてないんだけど? ただ飛んだだけだ。


 前校長が歩いてきた。


「ラング君、よくぞやってくれた。一瞬のうちに敵を追い払うとは」

「な、何もしていません。ヤツらはこのチャオプを恐れたんだと思います」


 オレはスノードラゴンを指差した。


「チャオプ君だったか。キミもご苦労だったね」

「           」


 ドラゴン化したチャオプは喋れない。それでいい。

 このお調子者は、もし元に戻ったら何を言いだすやら……。

 心配だからしばらくドラゴンのままでいてくれよ。


 また一人の兵士がやってきた。

 そういえばあの兵士……ずっと巨人の足元にいたっけ。


 前校長の背筋が伸びる。


「司令官殿っ」


 巨人の足元にいた兵士は司令官だったらしい。


「大佐、彼は……」

「はい、司令官殿。彼は最近まで特待生としてスクールに在籍しておりました」

「最近まで?」

「はい、司令官殿。現校長により除籍となっております」

「なぬっ!?」





    ◇





 ふたたび有翼人を追うべきだという意見もあったが、ソンクランム軍の死傷者数が多く、そのまま撤退することになった。次回は、有翼人の『風耐性』と『ナロック・ナーガとの連携』を考慮に入れた対応策が必要となるようだ。


 オレたちのパーティー『白龍』は部隊から距離を置き、森の中で身を隠すようにソンクラムに向かった。よくわからないことで英雄視されることに、苦痛を感じたからだ。もちろんパーティー仲間は、そんなオレに協力してくれた。現在、チャオプは半龍半人の状態となっている。 



 大きく遠回りしている途中、偶然にも集落を発見した。


 人が住んでいる気配はない。無人のようだ。

 ここも有翼人に滅ぼされた町や村の一つだろうか。


「ちょっと寄ってみない?」とムアン。


 オレはあまり乗り気ではなかった。有翼人に滅ぼされた集落ならば、人の死体を見てしまうかもしれない。それらを目にするのが少し怖かったのだ。しかしどうしても寄りたくないというわけではない。ムアンが望むならば入ってみてもいいい。


 皆からも反対はなかったので、集落に足を踏み入れることになった。


 壊れた建物が多かった。ひどくやられたものだ。

 人々はここで平和に暮らしていたのだろう。それなのに……。

 有翼人に対する憎しみが沸々と湧いてきた。



「父のカタキぃーーーーー!」



 突然のことだった。

 建物の陰から飛びだしてきた幼い子供に、ムアンが背後から凶器で刺された。


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