第78話 水流VS花吹雪
どっかの藩王国の王女と対決することになった。
オレは水流魔導を使うが、ヤツは花吹雪とかいうふざけた魔導を使うらしい。
まずは棒で地面の二ヶ所に線を引く。これは王女の護衛たちがやってくれた。その両線より離れた位置から、互いに魔導をぶっ放し合うことになる。
線と線の間隔は、火球魔導競技の的までの距離と同じだ。護衛の老人がきっちり計測してくれたのだ。
オレと王女はそれぞれの線の方へと歩いていった。
いまから因縁の二人の勝負である。
審判は護衛の老人が引き受けてくれた。
彼は二つの線の中間に立ち、ピンと片手をあげる。
そして勢いよく振りおろし、後方にジャンプでさがった。
試合開始だ――。
「そーれ。喰らえ、水流ぅーーー大噴射!!」
「吹雪け、花のブリザードぉーーーーーーー」
オレの水流が弧を描いて飛んでいく。
きょうは調子がいい。命中するのは確実だ。
ヤツが飛ばすのは、カラフルな花びらだった。綺麗なことは綺麗だが……。
遅い。飛んでくるのが遅すぎる。花びらだから仕方がないようだ。
それでもオレの体は無数の花びらに包まれてしまった。
花びらゆえのフローラルな香り。
「師匠、大丈夫か!」心配するチャオプの声。
「うっ、ヤバいぞ。なんだか心も体も癒されていくような」
「はい。就寝前にこれを浴びるとぐっすり眠れます」と護衛の老人。
「なんと恐ろしい魔導だ。このまま天国に行ってしまいそうだ」
本当に気持ちが良い……オレは思わず跪きそうになった。
一方、放った水流は王女の金髪を少し濡らしていたようだ。
「ひいっ」
王女は一瞬声をあげたが、すぐ冷静になった。
「髪の先を濡らしただけとは、たいしたことのない魔導ね」
「何を! オレの水流は世界最強だぞ」
「はっ、まさか。これは猛毒水……?」
王女の顔が青ざめていく。
チャオプが自慢そうに叫ぶ。
「甘いぞ! 猛毒水なんかじゃない。何を隠そう、その成分は師匠の汗と同じだ。ときどき酸っぱいニオイがする」
「ひえええええええええええええええええええええええ」
王女は悲鳴をあげて失神した。
護衛の老人がオレの勝利を宣告する。
「師匠、腕をあげたな。まさか水流魔導で敵を失神させるとは」
「褒められても、あまり嬉しくない……。てか、ちょっと泣きたくなってきた」
「どうしてだ、師匠。勝ったんだぞ」
「オレの汗……ときどき酸っぱいニオイがするのか」
「か、勝ったんだ。喜ぼう」
倒れた王女は護衛の女に抱きかかえあげられた。
それにしてもその護衛の女……いい体だ。
いい体といっても、ガタイがいい、という意味で。
タハーンを彷彿させるほどに。
カーン カンカン カーン カンカン
休憩終了の合図だ。
老人を始めとする護衛たちが、オレたちに頭をさげる。
「これほどまで生き生きした顔の王女様を目にするのは久々でした。王女様には年の近いご友人はおりません。どうぞこれからも仲良くしていただきたく存じます」
彼らが任務の場所へと戻っていく。
オレたちも前方へと歩いていった。
先頭の中央こそがオレたちの任務の位置だ、とチャオプは言うが……。
どうせまた違うんだろうな。
森の中ではあったが、木々の上からヒトの頭が見えてきた。
あの大きな頭はハーフギガースとかいう巨人のものだ。
巨大なので非常によく目立つ。
民間闘技場で見たときとは違い、いまは重装備となっている。
陣形の先頭を歩く巨人の足が止まった。
オレたちがやってきたことに気づいたわけではなさそうだ。
ただ黙って前方を見据えている。そしてまっすぐ指を差した。
「いた。敵の有翼人だ!」
巨人が叫ぶと足元の兵士が鐘を鳴らす。
カンカンカンカン カーン
ソンクラム軍の兵士たちから一斉に矢が放たれた。
すると前方に生い茂る木々の中から、有翼人の群れが飛びあがった。
「あの辺りが敵の集落に違いない! 矢を射続けろ」と兵士の叫び声。
有翼人の群れはぐんぐんと空高く舞いあがった。
さらにはヤツらの後方から、別の有翼人の援軍が飛んできた。
ヤツらもオレたちに負けじと、上空から矢を打ち返してくる。
ソンクラム軍側としては、いまこそ魔導士の出番だ。
冒険者や兵士の魔導により、大風が吹き、竜巻が生じる。
これで空を飛ぶ有翼人は堪えられないはずだ。
ちなみに現在、風魔法の使えないオレは応援係だった。
さあ、これから作戦どおりに地上戦となるのか……。
しかし有翼人が風による飛行障害を起こすことはなかった。
巨人の足元で兵士が言う。
「むむむ。ヤツら、風に対する耐性魔導でも備えていやがったか」
となると、こっちは不利なようだ。
巨人が両手を広げ、さらに前方へと進んでいく。
「ボクを狙え。ボクを倒してみやがれ!」
とにかく巨人は目立つ。
だからターゲットになりやすいはずだ。
ところが巨人が狙われることはなかった。
有翼人は軍の中央に位置する巨人を避けるように飛んでいる。
「どうしてボクを狙わないんだぁーーーー」
オレは巨人に追いつき、巨躯を見あげた。
「おい、その立派な防具をぜんぶ脱いでみたらどうだ?」
「お、お前は……。どうしてここにいる」
「そんなことはどうでもいだろ! 言われたとおりに早く脱いでみろ」
「防具を脱げってどういうことだ。せっかくの超ミスリル合金製なんだぞ」
「だからさあ、そんな完璧そうなもんを装着してたら、敵は攻撃しにくいだろ」
隣でムアンが微笑んでいる。
「変質者さん同士、オレも脱ぐぞ……なんて言いださないでね~」
「言うか! 誰が変質者さんだよ」




