第34話 黒髪少女
この第34話では、これまでよりグロい描写が出てきます。もしグロの苦手な読者様がいらっしゃいましたら、本文を読まずに下の後書き欄まで飛ばしてください。(後書き欄にこの第34話の内容を簡単にまとめておきました)
転んだチャオプが起きあがる。
「いたたたた。あっ、これってタハーンに殺された死体……」
彼女はブルッと震えた。死体に向かって「ごめんなさい」と謝る。
ここにいる入牢者の一部が、ぞろぞろと歩きだした。
死体の周りを囲む。特に多く集まったのはカモーイの周囲だ。
「えっ?」
オレは思わず声をあげてしまった。
彼らは死体を踏み、そして蹴り始めたのだ。
なんてことを……。恨みがあるのは理解できるが。
といっても、牢内のすべての者たちが死体蹴りしているわけではない。死体蹴りに参加しているのは十数人ほど。全体の一割くらいか。他の約九割の者たちは何もせず、また死体蹴りにも見向きせず、ただ疲れたようにぐったりしている。
カモーイの頭はアッチに転がりコッチに転がった。
ある者が強く蹴りあげる。頭は天井に勢いよく当たり、床に落ちた。
そのとき顔全体を覆う兜がポロリと外れた。
初めてカモーイの顔が露わになる。
オレはさっきのような声をあげた。
「えっ?」
カモーイの顔に見覚えがあったからだ。
でもどうしてだ。どうして……ここに。
カモーイの正体は、あの姉妹の父だった?
死体の顔を再確認する。
どう見ても姉妹の父だ。
じゃあ……。
姉妹の父とカモーイは同一人物だったのか。
いままでの彼の話はすべて嘘だったのか。
全部が演技だったのか。
そんな馬鹿な。嘘や演技にはとても思えなかった。
きっと何かの間違いだ。たとえば……。
カモーイと姉妹の父が入れ替わっていたとか。
そう考えるのが自然だと思うが。
念のため確認が必要だ。
牢内の人々に問う。
「皆、この顔って本当にカモーイのものなのか? よく見てくれ」
すると、こう返事がきた。
「いつも兜を被ってたんだ。素顔なんて誰が知るかよ!」
くそっ。真相は闇の中ってことか。
カモーイと姉妹の父……。
推測どおり別人だとすれば、なぜ入れ替わった?
そもそも入れ替わる理由なんてあったのか?
理由があったとすれば、こういうことか――。
オレたちは匪賊の壊滅のためアジトに侵入した。
そのことがカモーイにバレてしまった。
だからカモーイはここに来なかった。
姉妹の父には罰として、代わりにここへ来させた。
うーむ。しかしオレたちの作戦がバレたなんて考えにくい。
なぜなら地下牢にいる間、匪賊の連中とは接触がなかったはずだから。
いや、接触はあったぞ――。
監視員が飯を運んできた。死体の確認にもきた。
でも不可能だ――。
監視員がやってきたとき、誰も口を利いてない。
不審な動きもなかったはずだ。
ではどうして……。ああ、さっぱりわからない。
もしかして姉妹の父が匪賊に告げ口したのか?
さすがにそれはない。自らワザワザそんなリスクを冒すものか。
なおも姉妹の父の顔は蹴られ、踏みつけられている。
「もうやめてくれ! 蹴らないでくれ!」
しかし彼らがいろいろと言い返す。
「蹴って何が悪い」
「コイツは匪賊の幹部なんだぞ」
「お前に俺の気持ちがわかるものか!」などなど。
オレは彼らより大きな声をだした。
「この人は本当のカモーイじゃない。偽者であり別人だ。オレたちがこのアジトに乗り込むために、手を貸してくれた人なんだ」
もちろん別人だとは確定していない。
二人が同一人物の可能性もある。
それでも死体蹴りをやめさせたかったのだ。
彼らの死体蹴りは終わった。
オレは頭部を骸のもとに置いた。
ここの入牢者たちに言う。
「いまからこのアジトにいる匪賊の壊滅に行ってくる。そのあとで皆をここから解放するつもりだ。もしそれを待てず早くここから逃げたいのなら、自由に逃げてくれて構わない。ただしそれが危険な行為であることは覚悟しておいてくれ。牢の外では、いつヤツらに遭遇するともわからないからだ。もしオレたちを信頼してくれるのならば、しばらくここにいてほしい」
彼らに背を向けた。
仲間とともに地下牢から出ようとする。
「待ってくれ」
声をかけてきたのは大柄な男だった。
「えーと、何か?」
「悪党をブッとばすんだろ? だったら協力するぜ。腕力には自信があるんだ」
「本当か? それは心強い!」
「じゃー、さっさとコレを外してくれないか」
大柄な男の言う『コレ』とは、足首につけられた鎖のことだ。
鎖の先には金属製の丸い『重り』が繋がれている。
「そうだな。ついでに皆の鎖も切っておこう」
ちなみに『重り』をつけられている者はごく一部だ。
いずれも若くて体の大きな男たちだった。
奴隷として高値がつくのは主に怪力男、美女、初級魔導士、錬金術師。その中で反抗されたときに最も厄介なのが怪力男だと思われる。だから大男たちは鎖で『重り』に繋がれていたのだろう。
「チャオプ」
「なんだ、師匠」
「また来てくれ」
「はあ? また何言ってんだ」
「白い方のチャオプに用がある」
「白い……?」
彼女の肌や髪が白色化する。
半龍半人の姿となった。
「また呼びだしちゃって悪いな」
「別に構わない」
鋭い爪で、大男たちの鎖を次々と切ってもらった。
鎖で繋がれた者たちの中には、例外的に少女もいた。
決して筋肉ムキムキの女ではなく、ほっそりしている。
なのに何故、彼女は『重り』をつけられていたのだろう。
しかもとても若そうだ。外見的にはオレより一つか二つくらい年下か。
髪は黒く、左腕がない。死んだような目をしている。
彼女はずっと床に伏していた。病気などで体が弱っているのか。
チャオプに鎖を切ってもらっても、礼を言うことはなかった。
全員の鎖が切り終わった。
さて、匪賊壊滅に参加協力したいという者が、さっきの男の他にも現れた。
参加協力者は合計三人。いずれも『重り』から解放された大男だった。
オレたちはこの大男三人と手を組むことになった。
これから合計六名で……おっと、間違えた……シェムも入れて七名で、タハーンとファランのあとを追うつもりだ。
先程の黒髪の少女が起きあがる。
オレたちには一瞥もくれず、黙って地下牢から出ようとしている。
もちろん逃げるのは自由だ。先に逃げてくれて構わない。
だけど彼女一人だけで大丈夫だろうか。
途中で匪賊の連中に出くわしたらどうするつもりなのだろう。
彼女の背中に声をかける。
「一人で平気か?」
返事はない。そのまま出ていった。
「なんだ、あの小娘は?」と仲間の大男A。
「放っておけ」と仲間の大男B。
さて、オレたちも地下牢から出た。
目の前の階段をのぼっていく。
ところどころに死体が転がっていた。
タハーンやファランによるものだろう。
まあ、派手なこと。
この要塞のような巨大アジトはメチャクチャ広かった。
やたらと長い通路は複雑な迷路のようになっている。
はたしてタハーンたちと合流できるだろうか。
「待てっ、何者だ!!」
声は前後からでも、左右からでもなかった。
ならばどこからだ? 通路の天井が大きく開いていた。
そこかっ。
人の姿が見えた。こっちに弓を構えている。
オレは思わぬ敵の出現にハッとした。
すぐに対応したのはチャオプだった。
口を素早く開け、白い息を吐く。
天井からヤツらがバタバタと落ちてきた。
まだ生きているのかどうかは不明。
それでも大男たちはヤツらに暴行を加えた。
さすがにもうヤツらの命は助かるまい。
三人の大男が死体から剣や槍を奪う。
オレたちはそのまま通路を進んだ。
<第34話のあらすじ>
タハーンに殺されたカモーイの顔が露わになった。
驚いたことにその男は、荷馬車の御者すなわち姉妹の父だった。
カモーイの正体が姉妹の父だったのか?
それとも入れ替えさせられたのか?
真相は不明。
牢内には足首を鎖で『重り』に繋がれた大男たちがいる。
彼らは奴隷として高値で売れる怪力男たちだ。
足に『重り』をつけられていたのは、力による反抗を防ぐためだ。
しかし例外的に、一人の少女も『重り』をつけられていた。
見た目は決して怪力の持ち主ではない。ほっそりとしている。
どうして『重り』をつけられていたのかは不明。
彼女の髪は黒く、左腕がなかった。
死んだような目をしており、とても無愛想だった。
そしてラングたちより先に、一人で地下牢から出ていってしまった。
ラングたちも地下牢を出た。その際、『重り』から解放された大男A、大男B、大男Cの三人が、匪賊壊滅の協力者となってくれた。アジトは非常に広く、通路は迷路のようだった。
途中で匪賊の一員に襲われるが返り討ちにする。
丸腰だった大男三人は、ヤツらから武器を奪った。




