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第32話 二人の実力


 オレたちを乗せた馬車が、夜の魔物街道をゆっくり走る。


 またもや魔物が現われた。トロールの群れだ。

 待ってました! これで新しい仲間の実力が見られる。

 先にタハーンが戦うことになっているが……。


 月の薄明かりだけなので、トロールの数を正確に知ることはできない。

 それでも十体以上いるのではなかろうか。


 さあ、タハーン。どう戦う? ここはファランの出番もあるのか。

 あるいはオレたちも手を貸さなきゃダメなのか。


 ファランがタハーンに問う。


「ワシの手は要るか?」

「いいや、俺一人でじゅうぶんだ」


 あの群れに一人で立ち向かうのか。たいした男だ。

 返答を聞いたファランも、興味深そうに目を輝かせている。


「ならばお手並み拝見といこう」


 オレだって早くタハーンの戦いぶりを見てみたい。


 タハーンは一人で荷馬車をおりた。

 両手の布を腕力で破り、腰から剣を抜く。


 剣を構えた。魔導を使用するようすはない。やはり剣士だったか。

 トロールの群れに向かって走りだした。


「行くぜー」


 剣を振る。トロールの体を次々と斬っていた。

 素早い動きにトロールがまったく反応できていない。


 あっと言う間にトロールの群れを片づけてしまった。

 とんでもない凄腕の剣士だ。


 戻ってきたタハーンに声をかける。


「これぞ剣豪ッスね! いやー、鳥肌が立ったなあ」

「キミが倒したというポイズンベアの群れに比べたら、全然たいしたことはないさ」


 彼はファランに視線を向けた。


「次はアンタの番だな。楽しみにしてるよ」

「ふむ。果たしてまた魔物が出現するかのう」



 馬車が再発進。



 しばらく走っていた。半龍半人のチャオプが、黙って夜空を見あげる。

 どうかしたのだろうか? オレたちも彼女の視線の先を確認した。


 何かが飛んでいる。彼女はそれを見ていたらしい。

 タハーンはファランに向いてニヤリとした。


「あれはグリフォンだな。さあ、どうする? 空高く飛んでる魔物は無理かな」


 ファランも笑みを見せる。


「カッカッカ。たわいもない」


 片手をあげ、天を指差した。すると激しい突風が吹いた。

 グリフォンは飛行バランスを崩し、地面に墜落した。


 てのひらに火球を生じさせるファラン。

 体を起こそうとするグリフォンに、その火球を投げつける。

 グリフォンは炎をあげて燃えあがった。

 

 オレとタハーンの声がハモる。


「「恐ろしい」」


 ファランについても凄腕の魔導士であることが判明。


 なおも荷馬車は走り続けている。

 道は魔物街道から外れていった。



 途中で荷馬車が停まる。


 ファランが御者に停車を求めたのだ。トイレ休憩のためだった。

 このあと馬車は休憩のため、幾度も停止することとなった。


「またか。でもしょうがないな、年寄りはトイレが近いって言うし」


 そう言ったのはチャオプだった。

 いつの間にか半龍半人の状態から元に戻っていたのだ。


「じゃかーしぃわいっ」とファラン。


 休憩のたびに手を縛った布を解き、休憩が終わるとさっさと縛り直す。

 そんなことを繰り返していった。


 結局、オレたちが目的地に到着したのは、夜が明けてからだった。





    ◇





「へえー。ここが匪賊のアジトか。立派なものだ」


 オレはその壮美な外観に、思わず目を丸くした。

 誘拐を働く匪賊のアジトについて、小さな集落をイメージしていたからだ。

 ところが眼前に見えているのは、まるで重厚な要塞だった。

 これはもう誘拐”団”なんてものではない。超巨大な誘拐組織だ。


 姉妹の父が震えている。彼にとって地獄のような場所なのだろう。

 誘拐してきた人々を連れてくるたび、こうして震えていたのか。


「さあ、シェム。わたしの帽子の中に隠れていなさい」


 シェムは「ミャー」とムアンに返事し、彼女の被る帽子の中に隠れた。


「ホント、シェムって頭がいい猫ちゃんね」

「そりゃオレのシェムだからな。頼んだぞ、ムアン」

「了解よ」


 五人の門番が歩いてくる。

 姉妹の父は頭をさげた。


「お久しぶりです。ご覧のとおり奴隷を納めに参りました」


 門番が荷馬車にいるオレたちの顔を一人一人確認していく。


「通れ」と門番。


 門の通過を許された。

 ふたたび荷馬車が発進。門をくぐっていく。


 門を抜けたところで大勢の男たちに囲まれた。

 オレたち一人につき数人ずつで押さえ込んでくる。

 皆、この場ではまだ大人しくしていた。

 タハーンも黙って剣を奪われていた。


 連れられていった先は地下牢だった。


 糞尿の悪臭が鼻にきつい。

 そんなところにたくさんの人々が収監されていた。

 すべて誘拐されてきた者たちなのだろう。


 オレたちを地下牢にぶち込んだ監視員が帰っていく。

 ムアンの帽子の中に隠れていたシェムが出てきた。


 オレの顔を見て「ミャー」と鳴く。

 ああ、なんて可愛いんだ。


 それじゃ、両手を縛っている布を切ろうか。


 んんんんんんん……? おかしいぞ。


 布が切れない。切り込みを入れておいたはずだが。

 どうして切れなくなったんだ。


 他の皆も布を切れないでいるようだ。


「これはやられたかもしれんな。それなりの規模の組織ならば、魔導士くらいおっても不思議はなかろう。知らぬ間にこれらの布に魔導を施されたのかもしれん」


 苦笑いするファランに、タハーンが聞き返す。


「布が簡単に切れるようになってるのを気づかれ、怪しまれたとでも言うのか?」

「誰も断定などしておらん。単にそうとも考えられるという話だ」


 地下牢内で手を縛られた状態なのは、オレたちだけだ。他の入牢者は誰も手を縛られていない。ここでは基本的に自由でいられるということなのだろう。それでも入牢者の一部には、足に重りをつけられている者もいた。


 布を切れないでいる仲間たちの顔に、焦りが見え始めた。

 しかし布が切れなかったとしても、騒ぐほどのことではない。

 ネズミ化して小さくなれば、両手を縛っている布は緩むはずだ。


 しかし……。


 また素っ裸にならなくちゃならないのか。

 ここには多くの入牢者たちもいるっていうのに。

 しかも三分の一くらいが、若い女ではないか。

 


 あっ、そうだ!



 チャオプが半龍化したときの言葉を思いだした。

 あのチャオプを呼びだせばいいのではないか。


 チャオプの正面に立つ。


「な、なんだ、師匠。こんなところで何をしようと?」


 構わず叫ぶ。


「チャオプ、出てこい」

「どうした、師匠。頭でも打ったのか?」

「いいから早く出てこいっ」


 語気を強めた。


「どうしちゃったんだ! わたしはここだ。しっかりしてくれ、師匠」


 チャオプが動揺している。


「ぐずぐずしないでくれ。早く現れるんだ、チャオプ」

「わたしならここにいるって、言ってるだろ!」

「お前じゃない。チャオプだ」

「わたしがチャオプだぞ。似非パーティーのリーダーだ」


 ちょっと涙目のチャオプ。


「白い方のチャオプに用があるんだ!」

「白い方……?」


 彼女が小首をかしげた直後、髪も肌も真っ白になっていった。


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