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第20話 崖下


 崖上でチャオプたちのようすを眺めながら、ぼんやりと考え込んだ。


 どうすればファイアリザードの肝を入手できるのだろう? 死後もしばらく炎が消えないのならば、入手なんてできやしない。もう手はないのか。


 いいや、絶対に方法はあるはずだ。実際、誰かが肝を持ち帰ったからこそ、解毒剤の原料になることが発見されたんだ。


 では、どのようにして入手したのだろう?


 思いついたアイデアは、洞窟内の川や湖の利用だ。

 ヤツを水中で溺死させれば、肝が灰となる前に取りだせるのではなかろうか。

 あるいは死んだ直後に水中へ放り込むとか。それも難しそうだが……。


 ああ、考えることに疲れてきた。





    ◇





 ひゃあああああああああああああああ



 ウトウトしていたところに大きな悲鳴。

 驚いたオレはすっかり目を覚ましてしまった。


 いまの声はチャオプのものだ。何があった?

 ムアンとともに崖下を俯瞰する。


「あそこよ。ファイアリザードがいるわ」

「どこだ? あっ、いたいた! 本当にいやがった」


 チャオプが子ドラゴンを背にして、両手を広げている。

 這い寄ってくるファイアリザードから、子ドラゴンを守ろうとしているのだ。

 しかし何故かシショーの姿がない。エサでも探しに行っているのか。


 とにかくこれはマズい。

 ファイアリザードの炎を喰らったら即死だ。

 それでもチャオプは逃げだす素振りを見せない。


「おーい、チャオプ。聞こえるか! 逃げろ」


 チャオプが崖のてっぺんを見あげる。

 オレの声はちゃんと届いたようだ。


「し、師匠? まだいたのか!」

「すぐ逃げろっ。死ぬ気かぁーーーー」

「逃げるもんか! この子を守るんだ」


 あの馬鹿め……。

 どうしてこんなときに、彼女チャオプは男前になるんだよ。


 以前、話してくれただろ。初めてドラゴンに遭遇したときのことだ。

 怖くなって逃げたんだよな。でもどうしていまは平気なんだ。

 こういうときはビビれよ! 逃げろよ!

 何かを守るためならば、体を張れるってことか。


 たいしたヤツだぜ、チャオプ。お前、すげえよ。


 神託がどーのとか、神官がどーのとか、知ったこっちゃない。

 でもよ、お前に龍騎士の才能があるっていうのは、オレにもわかったぜ。

 こういうヤツだからこそ龍騎士になれるんだろうな。



 ファイアリザードが大きく口を開ける。


 強烈な炎を吐くつもりだ。これはヤバい。

 チャオプが子ドラゴンとともに焼き殺される……。


 助けに行かなくちゃ。ならばオレはどうしたらいい?

 崖をおりていく? 急だし高すぎるし不可能だ。

 歩いてきたとおりに逆戻りするのも、時間がかかりすぎる。

 てか、オレがおりていったところで、できることなんてあるのだろうか。



「ラング、ラング! チャオプがっ」



 ムアンもオロオロしている。

 わかってるさ。でも……。


 歩いてきたとおりに逆戻りするしかない。


「ムアン、ここで待っててくれ。オレ、行ってくる」

「ならば、わたしも行くわ」

「そうだな。ムアンを一人残してはいけないか」


 そのときだった――。


 崖下がズドンと響いた。

 再度、ムアンが崖下を確認する。



 きゃあああああああああああああああ



「どうした!」


 オレも慌ててチャオプたちを見おろした。

 ムアンの悲鳴のワケがわかった。

 ファイアリザードが炎を放ったのだ。


 ところが、正面で立ちはだかっているものがあった。

 シショーだ。


 さっきのドスンという響きは、シショーのものだったのだろう。

 シショーがファイアリザードの炎を受けている。

 背後にいるチャオプと子ドラゴンを守っているのだ。

 自分の身を犠牲にして……。


 だからといって、チャオプも子ドラゴンも無事で済むとは思えない。

 ファイアリザードの炎は半端じゃないほど過激なものだ。

 たとえ直撃はなかったとしても、ダメージは絶対に受ける。

 炎が近くを過ぎていくだけで、肌が焦げそうになるのだ。



「シェム、頼む」


 もうこれしかない。

 足下のシェムを撫でる。


 これまで自分の意思でネズミ化したことはない。

 だが今回は違った。オレがそれを望むのだ。


「シェム、わかってるぜ。いままでネズミ化してくれたのはシェムだよな? オレはすぐに炎の怪物を倒しに行かなくちゃならない。だから力を貸してくれ」


 そりゃ!


 シェムを信じて崖の急斜面を駆けおりる。

 怖い。無茶苦茶怖い。それでも早く行かなければならない。


 当然、普通の人間が上手くおりられるわけがない。

 やはりすぐに崖の急斜面から落下するのだった。


 あああああああああああ!


 恐怖の中で意識が朦朧となる。

 この感覚は……。そう、ネズミ化するときのものだ。


 ああ、ネズミ化に成功したんだな。


 初めてオレ自身の希望でネズミとなれた。

 もちろんシェムの能力によるものだが。


 しっかりと前足から硬い岩床に着地。

 痛みもケガもない。そのまま走って大ジャンプ。


 いま巨大猫に追われているわけではない。

 自らの意思でファイアリザードに突っ込んだ。

 ヤツの体を穿つ。巨体にいくつもの穴を開けてやった。


 やがて炎の化け物が地面に沈む。


 オレはネズミながらにヤツの死を確信。

 同時に巨大猫シェムに呑み込まれた。





    ◇





 意識を回復した。


 オレの顔をペロリとなめるシェム。

 そんな彼女に頬ずりし、起きあがった。


 ファイアリザードの死体が見える。

 死体の炎はまだ衰えていなかった。

 いつまで燃え続けるのだろう。


 岩床に伏すシショーも見えた。

 その傍でチャオプと子ドラゴンも倒れている。


 シェムを抱えてチャオプのもとに寄っていった。

 いまのオレは真っ裸だが、気にする余裕はなかった。


 悲惨なのはチャオプだ。

 彼女は肌のあちこちが熱でただれていた。


「チャオプ?」


 声をかけるが反応はない。


 代わりにシショーが頭を持ちあげた。

 まだ生きていた――。


 シショーは苦しそうに何かを吐きだした。

 それは微弱な光を発し、雪よりも白かった。


 白いものが転がっていく。

 チャオプの体に吸い込まれた。


 閉じていた彼女の瞼が開く。

 目を覚ましたのだ。


 むっくりと起きあがるチャオプ。

 どうやら瀕死状態から回復したらしい。

 大きな瞳がドラゴンをとらえる。


「シショー!」


 シショーの大きな体に抱きついた。

 しかしシショーは二度と目を開けなかった。

 それは子ドラゴンも同様だった。


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