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第21話 チャオプの異変


「軍隊でも手こずるような最悪の怪物(ファイアリザード)を相手に、今回もまた大勝利の活躍だったわね。崖を駆けおりていったあなたの勇気に、震えが止まらなかったな。お疲れ様。とりあえずこれ」


 振り向くとムアンがいた。

 脱げたオレの服を持っている。

 拾い集めてきてくれたのだ。


「悪かったな。ここまで一人で歩いてこさせちゃって」

「わたしのことはいいの。でもチャオプが……」


 チャオプはシショーを抱えたまま泣きやまない。


「どうしてわたしだけ生き残っちゃったの」


 そんな悲しいことを言わないでくれよ、チャオプ。


「生き残っちゃったんじゃない。シショーがお前を生き残らせたんだよ」


 シショーの死を無駄にしないためにも、顔をあげるんだ。





    ◇





 シショーは体を張って炎の直撃からチャオプを守ってくれた。

 それだけではなかった。何か白いものをチャオプに吸い込ませた。

 火傷で重体のチャオプが目を開けたのは、そのおかげに違いない。


 あの白いものはなんだったのだろう?

 次のファイアリザードとの遭遇時に、それが明確となるのだった――。



 切り立った岩柱の間にそいつの姿があった。

 これまでになく巨大なファイアリザードだった。

 全身を包む炎の熱が、遠いここまで伝わってくる。


 チャオプは体を震わせた。


 怖いのか? そりゃそうだろう。

 酷い火傷を負わされたばかりだもんな。

 恐怖で震えるのも理解できる。


 しかしそうではなかった。

 チャオプは怒りで体を震わせていたのだ。


「シショーたち親子を殺したファイアリザード……許さない」


 幼い容貌の少女の口からは、あまり聞きたくない言葉だった。

 このときチャオプの体に異変が現れていった――。



 彼女の肌が真っ白になっていく。

 髪までもが色素を失った。


 そして怒りのためか、目つきがキリッとする。

 やがてそんな感情も、表情からは消えていった。


 いつものあどけなさは、いっさい残っていない。

 無愛想で少し物憂いそうにも見える。

 それがまた妙に色っぽくもあった。

 まるでチャオプらしくない。



 なんなのだ!!

 いったい、どうしてしまったんだ。



「お……おい。お前、チャオプだよな?」


 彼女の瞳がオレを映す。


「ええ、そう。わたしはチャオプ」

「だったらその姿はなんだよ。髪とか真っ白になってるじゃん」


 真っ白な手で髪を摘まみ、確認した。


「そうね。でもたいした問題ではない。これはスノードラゴンによるもの」


 オレとムアンの声がハモる。


「「スノードラゴン?」」


 初めて聞くドラゴンの名前だ。

 ムアンもそうだったらしい。


 チャオプが説明する。


「スノードラゴンとは小型の白いドラゴンのこと」

「つまりシショーによるものか?」


 小さな首肯が返ってきた。


「もともとわたしは龍騎士の特殊スキルを三つ持っていた。乗龍、操龍、継龍」

「そうだったよな。お前から聞いていたことだ」

「わたしのこの変化は最後の特殊スキル『継龍』によるもの」


 継龍……?


「つまりお前は『龍』を『継』いで、半龍化したようなものか」

「ほぼその認識でいいと思う」


 ならばあのときか。

 シショーは死ぬ直前、白いものを吐き、チャオプが吸い込んだ。

 あの白いものが『龍』そのものだったとは。


 冷ややかな彼女の瞳がファイアリザードに向く。

 彼女は視線をそのままに、オレに指示する。


「わたしの力でファイアリザードを屠るのは不可能。あなたが殺しなさい」

「殺しなさいって……。まあ、そのつもりだけど」


 オレを『師匠』ではなく『あなた』と呼んだ。

 コイツは本当にチャオプなんだよな?


「さあ、りなさい。ファイアリザードの肝がほしいのならば」

「おいおい、ファイアリザードの肝が入手できるって言うのかよ」

「断定はできない。しかしおそらく可能」


 何かいい方法が? わかった。ならばチャオプを信じてみるぜ。

 オレがそこにいるファイアリザードをブッ殺せばいいんだな。


 足下にいるシェムをすくいあげた。

 オレ自身がネズミ化を希望する。

 前回同様、オレの方からシェムに頼んだ。


「また最強の(スーパー)ハツカネズミにしてくれ」


 ミャーと鳴くシェム。


 ああ、そうだった――。

 どうせネズミ化の際に素っ裸になるんだ。

 服は上下とも初めから脱いでおいた方がいいだろう。

 あとから服を探し回るのは、たいへんだからな。


「ムアン、チャオプ。あっち向いててくれないか」


 脱衣する。脱いだ服などを畳み、きちんと重ねておいた。

 一糸まとわぬ姿で走っていく。



 うりゃあああああああああ



 体が小さくなっていく。

 両手は前足となり、地面についた。

 四つ足で走っている。


 意識はしっかりある。

 ぼんやりしていない。

 巨大猫の恐怖もない。


 ファイアリザードに跳び込んだ。

 狙うは心臓。心臓ならば即死だろう。

 炎にも屈せず、巨体をまっすぐ貫いた。

 しかし心臓には命中できなかった。


 そりゃそうだ。トカゲの心臓の位置なんて知らないのだ。

 およその場所なら見当がつくものの、ピンポイントでの特定は無理だ。

 なーに。だったらもう一度。


 何度も何度も跳び込んだ。

 心臓は諦め、頭蓋骨を狙う。


 ようやくファイアリザードは死んでくれた。

 死んでもなお、全身が炎に包まれている。



『レベルが7にアップしました』


 表示が見えた。

 そんなものはどうでもいいって。



 チャオプが歩いてくる。両手に抱えているのはシェムだ。

 ネズミ姿のオレを見おろす目は、なんだか冷ややかだった。


 ファイアリザードの死体に向くチャオプ。

 唇を前方に突きだす。



 ヒューーーーーーーーーー



 彼女は霧のような白い息を吐いた。

 白いドラゴンもあんな息を吐いてたっけ。


 ファイアリザードの死体を白い息が包む。

 すると盛んに燃えていた炎が消えた。


 思わず目を疑った。なんてことだ!

 チャオプのヤツ、本当にあの炎を消しやがった……。


 ここでオレはシェムに呑み込まれた。


次話で洞窟の外へ出ます。

(今夜中に投稿予定です)

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