第10話 チャオプとムアン
似非パーティーのリーダーはちんちくりん少女に決まった。
「ほら、リーダーになったんだから何か言え」
「師匠! わたしに命令するな。リーダーに向かって偉そうじゃないか」
「知らないのか。リーダーより師匠の方が三倍偉いんだ。ここ試験に出るからな」
目を大きく見開かせるちんちくりん少女。
「三……三倍も? だったらリーダーの役を師匠に譲るぞ。わたしが師匠になる」
「お前の弟子になるくらいなら、こんな似非パーティーは辞めさせてもらう」
「わわわっ。待ってくれ、師匠! 師匠は師匠のままでいい」
ちんちくりん少女が腕にしがみつく。
「暑苦しい、離れろ」
立ち話を続けるのは疲れるので、屋台の茶屋に移ることにした。
酒場ではなく茶屋に入るのは、この中に十四歳がいるためだ。
イスに座るとショウガ茶が出された。
三人で揚げパンを注文した。
揚げパンが運ばれてくる。食欲をそそる匂いだ。
濃い味付けの挽肉がたくさん詰まっていた。
やはり揚げたては最高に美味い。追加をどんどん頼んだ。
リーダーが揚げパンを頬張りながら、「コホン」と咳払いする。
「では諸君っ。自己紹介するぞ」
「三人しかいないのに諸君ってなんだ?」
「出だしでツッコまないでくれ、師匠」
「わかった、わかった。続けてくれ」
リーダーはいったんショウガ茶で喉を潤し、あらためて自己紹介を始める。
「えー、わたしは……」
「すいませーん。お客さん、閉店の時間です」
◇
その夜、夢を見た。
「聞こえますか、聞こえますか?」
それは少女の声だった。背後からだ。
振り向くとそこにケモ耳の少女がいた。
見覚えがある顔だった。
きのうの夢にも出てきた……これも夢なのか。
とりあえず返事をする。
「聞こえてるよ。ヘンな夢だな」
「初勝利おめでとうございます」
ん? 勝利ってなんだ。
ちんちくりんに勝ったことか。
「あれはアイツの自爆だ」
「ユニコーンのことです」
「ああ、そっちか」
「それから……」
少女が突然黙る。口元にギュッと力を入れている。
「それからなんだ?」
「きょうはずいぶん女の子に囲まれていましたね」
その中にはヘンなのもいたけどな。
「だからなんだって言うんだ」
「なんでもありませんっ。さようなら!」
ケモ耳の少女はパッと姿を消した。
「あれ? どこいっちゃったんだ」
◇
翌朝、オレたち三人は『朝市』でいっしょに朝メシを食った。
そこであらためて自己紹介も行なった。
そのあと朝市の『食堂エリア』から『精肉エリア』へ移動。
ドラゴンの代わりになりそうなトカゲを探すためだ。
きのうは失敗だった。いきなりオオトカゲなど飼い慣らせるわけがなかった。
今回、リーダーが買ったのはグリーンイグアナだ。
オオトカゲよりも小柄だ。逃げないようにハーネスをつけた。
乗るには小さすぎるようだが、爬虫類に慣れることが大切だ。
ちなみに自己紹介で知ったことだが、このリーダーの名前はチャオプという。
帽子の女がグリーンイグアナを見ながら言う。
「こんなに懐かせるなんて驚いたわ。さすがはチャオプ、龍騎士というだけのことはあるのね」
確かによく懐いている。きのうのオオトカゲとは大違いだ。
チャオプは得意そうな顔でオレを見あげた。
「グリーンイグアナならば、竜騎士の訓練ができそうだ。これを勧めてくれた師匠には感謝している……」
いやいや、感謝なんて。そんな真顔をされると困る。実を言うと、グリーンイグアナを勧めたのにはワケがある。イザというときの非常食として最適だと思ったからだ。グリーンイグアナの肉はオレの好物なのだ。見た目はグロいがなかなか美味い。
ただこんなにチャオプに懐いてしまうと、食うに食えなくなるな。
チャオプは一端の龍騎士になることを夢見ている。
これまで夢に向かって、彼女なりに努力をしてきたそうだ。
すべて『故郷の皆を見返すため』らしい。
だが一端の龍騎士になるのは極めて困難だ。いくら特殊スキルを獲得したとしても、ドラゴンがいなければ龍騎士にはなれない。せっかくのレアな能力は無駄なものとなる。そもそも運良く遭遇したにもかかわらず、怖くて逃げだすようでは話にならない。
ただ、彼女は諦めるつもりなどないらしい。
故郷では『非現実的な夢を見ている』などと笑われているそうだ。
そんな話を聞くと、少し応援したくなってしまう。そう、少しだけ……。
もう一人のメンバーは常に帽子を被っている。
ルアンナそっくりの美人であり、スタイルの良さと気品も兼ね備えている。
当然ながら色気についてはチャオプと雲泥の差。
彼女は自己紹介のときにムアンと名乗った。冒険者ではなく旅人だという。
短期の仕事をしながら、町や村を渡り歩いてきたそうだ。
ムアンの旅の目的は、『三年前に失った記憶』を取り戻すこと。
覚えている記憶は『ムアン』という名前だけだという。
年齢も不明だが、オレより若干年上かもしれない。
ちなみにオレは自己紹介のとき、『闇の王への復讐』が目標だと話した。
仲間だったヤツらに裏切られたことは、まだ二人に話していない。
そこまで話す必要はないと思ったのだ。口にもしたくなかった。
だが裏切ったヤツらのやったことを忘れたわけではない。
それどころか絶対に一生忘れられない。
◇
ラオラオ町を出発する前に、すべきことが一つだけ残っていた。
チャオプの『冒険者ギルド登録証明書』の再発行申請だ。
オレが破いてしまったので、もちろん全額負担する。
しかし手続きは厄介で面倒臭い。そのため代理店を利用することなった。
例の山から帰ってくる頃には、たぶん再発行されていることだろう。
オレたちは乗合馬車に乗り込んだ。
山の麓までは乗り換えはなく、ずっとこの馬車で行けるらしい。




