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太陽が昇らない国の物語(仮)  作者: 岸田龍庵
22/32

女王の贈り物

【雪の女王の城】

 鏡のような湖に、静かにたたずむ壮麗(そうれい)な居城


【雪の女王の城 応接間】


 豪華な調度品で埋め尽くされた、極限まで(ぜい)を尽くした応接間。

 上座の氷の椅子にかける、今日も一層美しい、雪の女王ユーベ。

 対面にヒューマとサーラ、ジェスにグレイス、そしてベルタ 

 赤く燃えるような『炎上石』を渡すヒューマ

 ユーベは『炎上石』のイヤリングを手に取ると、つまらなそうに一瞥(いちべつ)し、デコピンを一閃(いっせん)

 すると『炎上石』は一瞬でカチンコチンに凍り付き、彼女のコレクションのひとつに収まった。



ジェス:「身につけるんじゃなかったのかよ?」

ユーベ:「私より美しい宝石なんて、やっぱりありゃしないんだよ。そんなものつけられっかい!」

呆気にとられるが、なんとなく納得する一行

ユーベ:「さて、太陽の子を探せば良かったんだよね」

ユーベは足下から無骨なタライを取り出すと、手をかざして雪を降らせる。すぐさま雪でいっぱいになるタライ

ユーベ:「約束はちゃんと守るよ。私にとっちゃ『炎上石』が手元にあるのはいいことだからね」



タライの中に手を突っ込むユーベ

ヒューマ:「どういうことです?」

ユーベ:「最近は暑くてね。少しでも火の力を弱くしておかないと」

ベルタ:「このところ、火の勢いが強くなっている。それが、この雪山にも影響があるということ?」

ユーベ:「さすが、流水の聖女だね。私たち雪とか氷はちょっとした温度の変化に敏感だからね。そういう意味じゃバランスが崩れたりするのも考えもんだね」



サーラ:「そんなにすごい宝石だったんだ、炎上石って」

びっくりしてヒューマと顔を見合わせるサーラ

ユーベ:「寒い国がなくなったら、あんたたちも大変なことになるんだよ。大地は水浸しさ」

タライの中でできていたのは、雪のジオラマ。細部まで表現されているジオラマ。喋りながら作ったとは思えない巧緻(こうち)な作り

サーラ:「すごいきれい」

ユーベ:「手がかじかんじゃったよ。太陽の子はここ」

指さしたのはジオラマの端っこにある階段型ピラミッド



ユーベ:「太陽の神殿。かすかに熱がでているみたい」

ヒューマ:「太陽の・・・神殿?」

ユーベ:「なんだい、あんた『太陽の子』なのに知らないのかい?」

ジェス:「こいつは、ほとんど知らされずに育ったみたいなんだ」

ユーベ:「まあ、いいさ。朝陽の民に幽閉(ゆうへい)されているみたいだね」

一行:「朝陽の民?」

ユーベ:「お前さんたちも、何も知らないんだね?」

情けない話だが、(うなず)くしかない一行




ヒューマ:「その、太陽の神殿とか、朝陽の民っていうのは?」

ヒューマの問いに、チッチッチッと指を立てるユーベ

ユーベ:「それをお前さんたちに教えるのは私の役目じゃないんだよ。いったん、村に戻って村長なり司祭なりに、キチンとしたことを聞いておくれ」

妙に納得するヒューマ

ユーベ:「みんな、お前さん達のことを心配しているよ」

雪の女王はウインクをする。


【雪の女王の城 湖 (はしけ)


艀で見送りをする雪の女王ユーベ

ジェス:「じゃあ、世話になったな」

ユーベ:「スーリヤに言っておいておくれ。面倒なことはおしつけるなって」

ジェス:「世界のことだぜ姉さん」

ユーベ:「ヒューマ、いいものを見せてあげよう」

ユーベの姿がダイヤモンドダストに包まれる。



サーラ:「すごいキレイ!」

ユーベ:「ダイヤモンドダストさ。空気中の水分が凍り付くと、こんなふうにキラキラするのさ」

ユーベ:「キレイだろう。でもこのキレイな景色は、太陽の光があれば、もっときれいなのさない」

ヒューマ:「オレ頑張るよ。きっと、いや必ず太陽を昇らせてみせる」

ユーベ:「太陽が昇っても、私よりキレイなものはないけどね」

ダイヤモンドダストはすーっと消えて、女王が立っていた所には、遠ざかっていく雪だるまの姿があった。

もそもそと体を揺らしながら小さくなっていく雪だるま。

ジェス:「フッ・・・行こうか」

読了ありがとうございました。

まだ続きます

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