海に歌う
【マリア・アズーラ号 甲板】
慌ただしく甲板を走り回る船員たち
ベルタ:「モタモタするな!お前たち」
黒のレザー姿でムチをふるうベルタ
サーラ:「ムチって、あのために使うの?」
ヒューマ:「あの格好じゃないとダメなのかな?」
港を出る、マリア・アズーラ号
【マリア・アズーラ号甲板】
見張りの船員:「船長、追っ手の船です、動力船です。1マイルありません。どんどん縮まっています」
ヒューマ:「もっとスピードでないの?風の力でなんとかならない?」
ジェス:「無茶言うな、そんなに都合良くできてねえ」
考え込むベルタ
【動力船甲板】
猛烈な勢いで舷側の車輪で波を掻く動力船
コマンダー:「もっと出力をあげろ!」
ミラン:「早く、早く」
射撃手:「まもなく射程に入ります!」
コマンダー:「よーし、前門砲、発射用意!」
【マリア・アズーラ号甲板】
見張り:「このままだと10分もしないうちに追いつかれます」
大砲の音:「(ヒュ~ウウウウウウ)」
マリア・アズーラ号の舷側に水柱があがる。横波に揺れるマリア・アズーラ号
見張り:「大砲です!第二弾来ます」
反対側の舷側にあがる水柱。甲板の上を横滑りするヒューマ、ジェス、サーラ、そしてグレイス
ジェス:「こんなんじゃ、そのうちドカンだぜ、ベルタ」
ベルタの姿はどこにもない
ジェス:「ベルタ?どこいった?」
船長室のドア:「(バタン!)」
ヒューマ:「ベ、ベルタ」
黒の女王様ルックから青のドレスに着替えたベルタ。揺れる甲板をモノともせずに静かに舳先に向かう。
ベルタ:「航海長!180度回頭。舳先を動力船に向けろ」
ヒューマ:「なんだって?」
航海長:「アイアイサー」
舵輪を回転させる航海長、
舳先を動力船に向けるマリア・アズーラ号
ジェス:「おい、気でも狂ったのか?グレイスなんとかしろよ!」
グレイス:「ここはベルタの船よ。彼女の言うことは絶対よ。それよりジェス、一緒に妹を援護して」
ジェス:「援護?」
【動力船甲板】
舳先をこちらに向けるマリア・アズーラ号が見える
コマンダー:「なんだ、観念したか?」
見張り:「司令官。舳先にあの水の民の女が立っています」
コマンダー:「狙撃兵を呼べ、目標は舳先に立つ女だ」
【マリア・アズーラ号 舳先】
舳先に直立不動のベルタ。
そのの両側をグレイスとジェスが構えている。
動力船がどんどん近づいてくる
【動力船甲板】
コマンダー:「撃て!」
火を噴く狙撃兵の鉄砲
【マリア・アズーラ号舳先】
ベルタに殺到する鉛の弾。しかし、ひとつもベルタに当たらず、あり得ない弾道で海に落ちていく
【動力船甲板】
狙撃兵:「司令官ひとつも当たりません」
コマンダー:「小賢しい、自然の力なんぞに頼ってからに」
ミラン:「司令官、船を狙って船を」
コマンダー:「やかましい!子供なんぞに言われなくても分かっているわ!」
どなられて怯えてしまうミラン
【マリア・アズーラ号舳先】
狙撃兵の銃弾がこなくなったが、依然として砲火にさらされているマリア・アズーラ号
ベルタ:「姉さん、ジェス。ありがとう。もう大丈夫」
両手を末広がりに広げるベルタ
ベルタの口から歌声が流れ出す。清流のような美しい歌声に、美しいメロディライン。
しかし、その声量はとんでもなくデカイ
【動力船甲板】
コマンダー:「歌なんぞうたって何をしているんだ?」
【海上】
海から波が消えて、鏡のようになる。
次の瞬間、波の壁が動力船とマリア・アズーラ号の間に沸き立ち、津波になって動力船に襲いかかる
【動力船甲板】
コマンダー:「なんだあれは!」
マストよりも高い波の壁が迫ってくる
【動力船】
津波を受けて、舳先が上方向に向いてしまう。
その時に発射された大砲の弾が、そのまま筒に戻って大爆発を起こす。舳先を失って大破し、沈み始める動力船
【マリア・アズーラ号舳先】
歌い終えて、背中から倒れるベルタ
ジェス:「ベルタ!」
受け止めるジェス。気絶している。
グレイス:「航海長。180度回頭。ただちに離脱して!」
航海長:「アイアイサー」
反転して加速するマリア・アズーラ号。
二度目の爆発を起こしてほぼ木っ葉みじんになる動力船
かろうじて板の切れ端に捕まって浮かんでいるミラン
遠ざかるマリア・アズーラ号
読了ありがとうございました。
まだ続きます




