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太陽が昇らない国の物語(仮)  作者: 岸田龍庵
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【海路編】 大地の乙女

◆海路編


【海上】


 小島が近づいてくる。

 マリア・アズーラ号は小島に空いている『天然のトンネル』にゆっくりと進入する。

 船の大きさすれすれのトンネルをゆっくりと進む。するとマストの先端がトンネルの内壁を少し削り、小石と砂をパラパラと落とす。

 トンネルを抜けると、そこは環礁(かんしょう)になっている

 見上げると月が見える。不思議な光景に息をのむヒューマ



【環礁の中】

 

 外海とは比べものにならない、穏やかな入り江。錨が降ろされて小舟で砂浜に向かう

 深い(あお)く輝く波間をすべるように移動する小舟。ここにだけ月の光も星の光も集まっているかのように、波間は輝いている。

 小舟は砂浜に着くと、一行はバシャバシャと波に足を洗われながら浜に降りる



【環礁の中 砂浜】



ベルタ:「隠れ家というわけじゃないんだけど、まあ、たまに寄る家みたいなものかしら」

素足が砂浜を踏む音が「キュッキュッ」と鳴る

サーラ:「すごく静かね」

ベルタ:「だが、ここも長くないかも知れない」

サーラ:「こんなにキレイなのに?」

ベルタ:「ここに入る時にマストが内側をこすったのはわかった?」

サーラ:「ええ」

ベルタ:「海の水位が増えてきている。太陽が昇らなくなってこの方、人は(かて)(とみ)を求めて、海に流れてきた。

 陸では作物が獲れにくくなってきたからね。

 そこに航海技術の発達が追い風になって、水も人も海に(かたよ)っている。 この船がトンネルを通過できなくなるのも時間の問題」

サーラ:「こんな所にも影響が?」

ベルタ:「太陽が私たちに与えてくれた、いつもと変わらない営みが消えて、人はより富を求めるようになったのだろうな」

ジェス:「ベルタ、崇高(すうこう)な演説はありがてえんだが、急がなきゃならないんでな」




ジェスを一瞥(いちべつ)し、パチンと指を鳴らすベルタ。するとベルタの部下2人が反り身の剣を手にして対峙する。上半身は裸。

ベルタ:「ヒューマ」

ドスの利いた声で呼ばわる

ベルタ:「今から、この2人が殺し合う。負けた方をお前の太陽の力で、この世界に呼び戻せ」

ヒューマ:「なんだって?」

ジェス:「おい、無茶言うな」

ベルタ:「太陽は再生と死を繰り返す。朝陽とともに甦り、夕陽を浴びながら死する。人間の魂ひとつも甦らせないようなヤツが、太陽を呼び戻せるか!

 ヒューマ、お前ができないというのならば、このまま送り返す。そんなヤツに用事はない。もしお前ができるのならば、この船はお前と運命をともにする」

水を打ったように静まる砂浜




ベルタ:「やれい!」

号令とともに二人は斬り合いを始めた。金属の音と鮮血が白い砂浜に飛び散る。

ジェスとグレイスはナイフを投げて、二人の剣を持っている腕を刺す。致命傷にはならないし、今後腕を使うことはできるが、今は殺し合いはできないくらいのダメージを与える。

ベルタ:「邪魔しないで姉さん」

グレイス:「こんなバカな事しちゃいけないわ」

ベルタは弾けるようにサーラに突進する。後ろ羽交い締めにして首に剣をつきつけ、反対の手でムチをもって一同を威嚇(いかく)する

ベルタ:「これでもできないのか?」

サーラの首から血の筋がゆっくりと落ちる。




すると光ったのは「ヒューマの手」ではなく、サーラの大地のネックレスだった。

ベルタ:「足が、動かない」

ベルタの足が砂浜に(しば)り付けられたようになる。足首を地面がつかんでいるような感触

するりとベルタから離れるサーラ

ベルタ:「やはり大地の乙女なのだな」

サーラ:「そうなの?私にはわからないけど」

すると、ポンチョ越しに太陽と同じ光りがサーラの胸から(あふ)れる。そこはヒューマが傷を治した箇所。

大地のネックレスが太陽の光を受けて、さらに輝きを増している。




ベルタ:「こ、これは」

目がくらむベルタ。強烈な太陽の光りが環礁(かんしょう)の中に溢れる。太陽の光が満ちた。砂浜も海も空も、本来の色を取り戻す。

足の拘束が解けて海へ転がるように走るベルタ。碧い海を両手ですくう。

ベルタ    「私の碧い海・・・」

手の中の碧い海。だが、すぐに暗い海に戻った。サーラの胸の光も消えた。

ヒューマは砂浜に尻餅をついているサーラにかけより、首に手を当てた。太陽色の光が傷を治してゆく。



ベルタ:「私の碧い海・・・」

暗い海の中に、落ちるベルタの涙。暗い海に映るベルタの顔

しばらくベルタのすすり泣き以外の音が聞こえない。

ベルタの部下がバシャバシャと波音を立てて、ベルタではなく、グレイスのもとに走る。

グレイス:「どうしたの?」

ベルタの部下:「どうやら感づかれたようで。動力船らしき船影がこちらに向かってきています。早く出た方がよろしいかと」

まだ海を見て涙を流しているベルタを見るグレイス。

グレイス:「みんな、慌ただしいけど引き上げだよ、急いで」

一斉に慌ただしくなる静かな砂浜




涙が止まらないベルタ。彼女と暗い海の間に手が差し出される。手は淡い太陽色の光を放つ

顔を上げるベルタ。

ヒューマ:「行こうよベルタ。俺は必ず太陽を昇らせてみせるよ。今はこれしかできないけど」

ヒューマの手の光が消える。

ヒューマの手にベルタの手が重なった。


【砂漠の窓口の港町パールカノン 港】


  

 減速して入港するマリア・アズーラ号。

 入れ違いで二倍近くの大きさがある船が港を離れていく。マストはあるが、帆は張っていない。

 舷側(げんそく)についた水車のオバケのようなモノが水を()いている




サーラ:「すごいおっきな船だねヒューマ」

グレイス:「動力船さ」

ヒューマ、サーラ:「動力船?」

グレイス:「風の力を必要としない船。火の力をたくさん使っている発明品さ」

サーラ:「へえ~」

見たこともないテクノロジーに、感心しているサーラとヒューマの山育ち組

読了ありがとうございました。

海路編まだ続きます。

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