エピローグ
「ぼ、坊っちゃーん!ご無事ですかー!?」
歌井鱒之助は、小さい方の金のシャチホコの背中から、主人に呼びかけた。
周りは見渡す限りの大海原が広がっている。
多羅尾ユラの術にかかった金のシャチホコ二匹は、現在、黄河流域に向かって洋上の航海を続けていた。
「坊っちゃん、早くシャチホコたちを説得して、日本に戻らねばなりません」
「爺よ、慌てるでない」
弥次喜多一茶は落ち着き払った声で、巨大化した金のシャチホコの背から答えた。
「と、言いますと?」
「僕は考えたのだ。シャチホコたちが故郷に帰るというのなら、それもよかろう。いっそのこと、黄河を全て凍らせて、中国に新しいスケートパークを作るのも面白いのではないかとな」
「おおっ、そのようなこと、この爺は考えもつきませんでしたぞ」
「うむ、シルクロードをゲレンデにして、世界最長のスキーリゾートを作るのも悪くはないな」
「さすがは坊っちゃん。スケールがでかい!」
「フハハハハハハ!」
一茶は高笑いした。
琵琶湖から連れてきたブラックバスやブルーギルなどの外来魚が、金のシャチホコの周りで飛び跳ねた。
どうしてそれらが海を泳げるのだろう、というのは愚問である。
「しかし」と鱒之助。
「何だ?」
「ミケタマはどうなさいます?」
「女はミケタマだけではない。楊貴妃の末裔でも嫁にしてやろうではないか」
「おおっ、これまた大それた野望を!天罰でも下らなければ良いのですが……」
「お、おわーっ!?」と、突然一茶は叫び声を上げて、海中に没した。
「坊っちゃーん!?」
ザバアッと、金のシャチホコは再び海面に上がってきた。
その口に大量の魚を加えて。
一茶は頭からずぶ濡れである。
「ハア、ハア、死ぬかと思った……!」
(やっぱり、天罰か……)
と、鱒之助は思うのであった。




