88.四回戦
休憩を挟んだ後、次の四回戦が始まった。
「次に登場するのは〜月の国出身の凛月選手。彼はかわいいお姿でありますが、実は男!月の国では悪魔とも呼ばれました〜」
白石が言っているのは凛月のことだ。観客たちはまた歓声を上げていた。
―森の国は仕切る妖怪がいないからか〜―
見下すような言い方で言われたのは正直まだ根に持っている。
「続いて〜登場するのは水の国出身の瑞羽選手。このお方は水の国の中では彫刻師でもありながら妖術も独特です」
観客たちは楽しみにしているそうだ。凛月は悪魔と呼ばれ、瑞羽選手は独特な妖術。俺は何となく理解したような目で二人を見た。
(この瑞羽という妖怪、見たことがない。何か裏があるのかもしれん)
俺は瑞羽選手を観察することにした。
「天城さん、誰を中心に観察をするのですか?」
俺の隣に座っていた青蘭が聞いてきた。
「瑞羽選手という妖怪だ」
「へえ。瑞羽選手か。なんか知ってるかもしれません、その人。俺、親父から聞いた。水の国で一番有名な彫刻師」
「俺もそれは知ってる。守護国中では有名な彫刻師だ」
俺が言うと、青蘭は「いや」と返された。
「あれは表向き。裏は、黄泉の国へ来た死者の遺体を使って彫刻に見せかけて展示したただの死体遺棄の犯罪者だよ」
青蘭が言っていたことを聞いたとき、俺は驚愕した。
「天城、通報なら大丈夫だ。この試合が終わったあと瑞羽選手は地獄行き決定だからな。連れていく妖怪が控え室の前で待ってるからな」
気付けば青蘭は俺に対して、ため口で話していた。だが、腹が立つことができない。俺と青蘭とでは身分が違うからだ。
「それでは〜いいですか〜。凛月選手、瑞羽選手。はじめ!」
白石の合図で二人は妖術を唱え出し始める。
「死体よ、出てこい」
「瑞羽選手、なんだこれは~、おっと~これは死体だ!!しかも人間の死者だ」
白石が言っていた。人間の死体、やっぱりだ。その死体は日本人男性と中国人男性。瑞羽選手は死体遺棄の犯罪者。人間の死者の死体を利用し、妖術にする。
「死屍累々・蘇生」
すると日本人の死体は日本刀。中国人は太極拳で凛月に襲いかかってくる。
「二人の死体で凛月選手に襲いかかってきます。どうする?凛月選手、やられて動けなくなったら負けて終わります」
観客たちは凛月の死を拒んでいた。
(あの選手、どういう妖術を使ったらこんな風になれるんだ)
凛月は瑞羽選手が死体遺棄の犯罪者だとは知らないようだ。日本人が持っている日本刀、中国人の太極拳を避けながら次の妖術を出そうとしている。
(僕もこのままでは水蓮選手みたいになってしまうではないか)
水蓮選手が鬼童丸に殺されたことを思い出す。タイミングがあわなかっただろう。
(避けながらだといつまでも終わらない)
凛月も負けていられないと感じていた。すると凛月は悪魔のような妖術を出すためにある記憶を思い出す。
▼△▼△▼
「おめでとうございます。凛月様」
「あの桂様だって」
七歳の頃、宮中の女の召使いに褒められ拍手された。それは僕が初めて妖術を出したことだ。このとき名前は桂男。美貌な顔を持っていたという妖怪だ。
「あ、凛月…」
たまたま通っていた姉・千月流は驚愕した顔が出ている。
「姉さん、どうかしましたか?」
「凛月、桂男の妖術…出しちゃったの…」
そのとき千月流は青ざめた表情をしていた。
「凛月、その男いつか周りの人たちの寿命を縮めてしまうかもしれないよ。早く封印しなさい!」
「はい」と言い、凛月は急いで封印した。
「その桂男は三年前、母上がその男の美貌に惹かれてどこかへと連れていかれた。それ以来、母上が帰ってきてない。桂男がいなくなったと思ったら今度は凛月に…」
千月流は僕を嫌うような目で見て、どこかへと行ってしまった。このとき僕はなにも言えない。母上は千月流に対して、厳しくも愛情深い人だった。普段、あまり一目惚れをしない母上でも桂男の美貌に惹かれとは。
(何で、何で僕の初めての妖術が桂男なの…珍しかったのに…)
僕はその場で泣き崩れた。召使いの人たちも励ましてはくれた。その後、家族に嫌われてしまう恐怖のせいか人前で妖術を出すことができなくなった。
人前から隠れて色々な妖術を出して数年後、守護国覇王戦という大舞台に出れた。桂男という妖怪は今も僕に取りつかれている。その理由はまだ分からない。だが、せっかくの大舞台出ださなくては損するだけ。だからここで出すと決めたから出す。
「金鳥玉兎・青輝」
すると金のように光る青い鳥と兎が複数出した。
「俺も負けてられませんね。俺が持っている死体はいくらでもありますからね~」
不気味な笑顔で凛月を見てきた。日本人、中国人の死体が青い鳥と兎を次々と斬る、殴るを繰り返していく。
(まだだ。ここで決めれば、僕の直感で)
凛月はまだ諦めてはいなかった。
「金鳥玉兎・溽熱」
次の妖術を出したときだ。瑞羽選手が出していた人間の死者の死体を次々とあっという間に倒れていった。
「凛月選手、紫色に光った太陽の妖術で死体たちを倒れていく。それと同時に瑞羽選手も倒れました」
凛月の太陽の妖術のせいか観客たちは暑苦しそうだ。隣に座っていた青蘭は特にだ。
「あっつ…凛月っていう野郎よくそんな暑苦しいのを出してくれるな」
思っていたことを口に出していた。「風を浴びせてくれる道具があればな」と疲れながら言っている。そんな道具、黄泉の国にあればと俺も思っていた。
(仕方ないだろ。無いものを強請っても)
そんなこと、俺が口に出すこともできず内心で思うことしかできなかった。
暑い湿気が少し治まると結果発表が行われた。
「勝者、凛月選手!」
観客たちは白石が言った直後に歓声を上げた。これで第一の戦いは終わりだ。次は準決勝戦だ。トーナメント戦では青蘭と凛月。俺は鬼童丸と戦うことになる。
「とりあえず瑞羽選手は倒れてる。もしかしたらしばらく控え室で様子を見ることになるかもしれない。今から控え室に行くぞ」
俺は青蘭を連れて控え室に行くことにした。そして、少し長めの休憩時間を取った。




