一場春夢
こうして俺は元の生活に戻った。まさに一場春夢、半年間の幸せな日々が、まるで夢だったように。
王位継承や王室に関するニュースは否が応でも目や耳に入ってくる。ただし、というか、当たり前のことだけど、ニュースの中には俺という存在の痕跡は全くなかった。
楽しかった姫様たちとの日々を思い出さない日はなかった。
姫様たちは、毎晩のように、俺の夢に、入れ替わり立ち替わり現れた。
全裸で俺の部屋から駆け出す葵姫、追いかけようとしても、雪の中に膝まで埋まったように足が動かなくて、もどかしさに悶える俺。
俺の上に勢いよく跨ったのはいいけど、嘔吐しそうになって口を押える雅姫に慌てふためく俺。
ここでしちゃおうよって、ワンピをたくし上げ、白い足とその上の淡い叢を露わにした星姫に、興奮してその桃のような尻を抱き寄せようとする俺。
目を覚まし、現実に引き戻された時に感じる、言いようのない絶望感、不安感に、とうとう眠るのが怖くなってしまった。
雲隠れから突然腑抜けになって戻ってきた俺を心配して、友人たちが合コンに誘ってくれたりしたが、元よりそんな気になれるはずもない。俺は、立ち直りようもなく、無為な日々を過ごしていた。
そんな折、改正王室典範が与野党の圧倒的多数の賛成を得て衆議院を通過したとの報道が耳に入って来た。いよいよ、これで正式に葵姫が王位継承順位1位、皇太子さまだ。
姫様たちが俺を探し出してお婿さんに迎えてくれる、そんな虫の良いストーリーをどこか心の奥底で期待していたが、さすがにもう潮時、いよいよ現実を直視しなければならない時が来たと感じた。
「逃げちゃだめだ!、逃げちゃだめだ!、逃げちゃだめだ!」
そう悟った俺は、ようやく気持ちを切り替える決心をした。得るものもなく身もだえしていた数か月の日々に別れを告げ、前に向かって歩き始めよう、そう自分を奮い立たせた。
といって、このまま大和国にいては、嫌でも王位継承に関するニュースや姫様たちの動向が耳に入ってくる。それは俺にとって辛いことだった。
王室庁からは、口止め料としてそれなりのお金をいただいた。これを元手に俺は米国留学をすることにした。
もう日本には帰ってこない、そう決意した俺は大学を退学して退路を断つと、米国ロサンゼルスの大学と語学学校に入学する手続きを取った。
卒業後はロースクールに入学して弁護士資格を取得、俺は国王などいないかの国で弁護士になるんだと、硬く心に誓った。
渡米後は、昼間は大学へ、夜は語学学校に通うという、あえて余計なことを考える暇もない環境に身を置いた。 とにかく毎日、しなければならないことをすることで精いっぱいだ。
半年ほどそんな生活を続けるうちに、それまでは毎日のように夢に現れていた姫様たちが、週に数回から週に1回程度と、その登場回数を減らしていった。
自分の中の整理しきれていない感情や未練といったものが徐々に薄れ始め、不安や孤独感といった感情が新しい生活の中で上書き消去されつつある、そんな自分自身の心の状態を感じ始めていたある日のことだった。
大学の授業を終えてアパートに帰ると、大きなスーツケースに腰掛けた女性が、ドアの前に佇んでいた。




