五里霧中
世論がどんどん女性の王位継承を歓迎する方向に傾いていくのに、私たちはそれを傍観者として眺め続けることしかできなかった。
王族の一員として生を受けた私たちの将来に係わる大問題なのに、当の本人たちの意志や希望は全く反映されない。それどころか、意見を言うことすら許されないのだ。
国王は国の象徴、立憲君主国であるからには当然のことと頭では理解しているのだが、心の中は別。なんとも理不尽なことだという思いは拭い去れない。
私たち四人は、突然の状況の変化にただただ戸惑っていた。そんな中で、翔太さんが忽然とその姿を消した。
世論の変化を察知した瓜生たち侍従が先手を打って何らかの工作をしたに違いない。
私たちは瓜生を呼び出して問い詰めた。
「翔太様は一身上の都合で、本人の希望でここを去ることになりました」とのらりくらり私たちの追及をかわそうとする瓜生に、私たちは激高した。
「そんなことあるわけない!」
「正直に話せ!」
しかし、瓜生は、
「この国のため、お立場をお考え下さい」と深々と腰を折ると、もうそれ以上一言も発しなかった。
業を煮やした私たちは、大挙して黒島の部屋に押し掛けた。
彼女が、単なる王室庁の女官、王嗣役ではないことは、私たちも察していた。翔太さん追放については、彼女が直接手を下したか、少なくとも核心の情報を持っているに違いない。
黒島はスマホを操作し、何やら画像を私たちに見せようかと迷っている風情だったが、結局、スマホをしまうと、
「王位継承に関する法律の成立の目途が立つまで、翔太様のことはご辛抱ください」とのことだった。
さらなるわつぃたちの追及にも、
「決して姫様たちの悪いようににはしないから、今はとにかく耐えてください」とのこと。こちらの方も一旦口をつぐむと梃子でも動かない。
そんなこんなのうちに、改正王室典範の法案が国会に提出された。
内容は大方の予想通り、英国流の男女平等の王位継承を骨子としたものだった。この法案が成立すれば、この私、葵が次世代の皇太子ということだ。
記者会見で、国営放送の記者から、「姫様、良かったですね」と声をかけられた。
そんなの、ちっともよくない。
私たちの気持ちを無視して自分たちの思いを押し付ける人たちに、私は心底腹を立てていた。
でも、国の象徴としての王族は、立場上、政治的な見解をの別ことはできない。
自分たちのことなのに、あいまいに笑みを浮かべることしかできない自分は本当に悲しかった。
もうこうなってしまっては、自分たちにできることは何もない。
「決して悪いようにはしない」という黒島の言葉を信じて、今はともかく成り行きを見守るしかない。
「翔太さんは、一時的に身を隠しているだけだ。そして、事態が落ち着いたら、私のところに戻ってくる」
そう信じていた。
「だって、あの夜、キョウトのホテルで『絶対離さない』って、言ってくれたもの」
この時点で、私たちは、翔太さんが、二度と私たち王族に係わらないという契約書にサインしたことも、留学して二度と日本に戻らないという決意を固めていたことも、全く知らなかった。




