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天蓋輪廻の幻想曲  作者: 黒乃羽衣
第二話 穢れなき信仰
14/22

決起

    ☆


 南東部の街、三位巫女神官であるクランの聖堂敷地内で一悶着あった日の夜。

 わたしは彼女の母屋に泊まらせてもらっていた。

 リエルテンシアという福音派らしき少女は、ヒルデと一緒に離れ屋で休むことになっている。


 正直なところ、わたしはまだリエルテンシアが記憶を失くしていることに半信半疑だった。


『――南西部に正しき信仰を取り戻すために――また、あなた達の前に来ます……!』


 南東部の駅で一戦を交えた時、彼女は確かにそう言った。

 それは『聖なる教』正統派であるわたしたちに対する宣戦布告ともとれた。

 クランはもちろん、わたしも神鎧(アンヘル)での闘いなら負けることはまずないと思う。

 けれど、巫女神官の立場や命を狙っているなら、どんな手段を行使してくるのかわからない。

 油断してはいけない。

 

 何より再会した時、()()()()おにいちゃんの後ろで守られていたのが気に入らなかった。

 考えただけで()()()()がざわついてくる。


「……おねえちゃん?」


 と、そこでリビングのソファーで隣り合って座る小さな女の子が話しかけてきた。

 クランの娘、エリスフィーユだ。

 まだ五歳だけど、クランによく似た可愛らしい子。

 頭が良くて、もうすでに神学の勉強もしているみたい。

 今テーブルの上に広げられているのは、わたしが南西部から持って来たファッション雑誌だけどね。


「あ、ごめんね。ちょっと考えごとしてた」


 そう答えつつ苦笑すると、エリスフィーユは満面の笑顔をみせる。可愛い。


「ううん、いいよ。南西部の街にはキレイなお洋服がたくさんあるんだね」


「くひひ、そうだよ。エリスちゃんは可愛いから何着ても似合いそう。でも、やっぱりセーラーカラーのプリンセスドレスやワンピが鉄板かなぁ」


 目を輝かせて雑誌に見入るエリスちゃんへ、わたしのオススメを指差してみせる。

 普段は人の出入りのない修道院生活。

 しかも巫女神官見習いともなると、修道服も地味の極みだ。

 感性を()(みが)くことは、巫女神官としての力――神鎧(アンヘル)の発現に重要な要素のひとつでもある。

 ※ 感覚に伴う感情・衝動や欲望

「パフィ。あまりフィーユを焚きつけないでくださいね」


 そう言って、クランがキッチンからお茶とお菓子を持ってきた。

 クランは肩を出した白いニットセーターに黒のロングスカートを着こなして、とても女性的で上品な格好だ。

 小柄だけどスタイルがすごく良くて、お洒落なものに見慣れたわたしですら目を見張ってしまうくらい。

 彼女は6歳ほど年上だけど、クランは今でもわたしの憧れだ。


「くひひ。エリスちゃんがお人形みたいに可愛いから仕方ないよぉ」


 クランはわたしの言葉に微笑んで、トレーからお茶とカップケーキを差し出してくれる。

 そして、L字型のソファーの空いているところに腰かけた。


「今日はゆっくりしていってください。フィーユもあなたに会うのを楽しみにしていましたから。もちろんわたくしも」


 和やかな雰囲気に包まれる中で、気がかりなこともあった。

 今、離れ屋にいるであろうヒルドアリアとリエルテンシアのことだ。

 そこに、二人を離れ屋に案内していたヒツギおにいちゃんがリビングに戻ってきた。


「今日はお疲れ様でした、あなた様」


 クランは優しい笑顔でおにいちゃんに微笑みかける。


「ありがとう、クラン。いつも世話をかけてしまって、すまないな」

 

 二人はとても親密な様子で身を寄せ合った。

 

「……明日の朝にヒルデとリエルを中央部都市の保養施設へ送ってくるよ」


 クランたちのいる南東部の街から蒸気自動車で2時間ほど、中央部都市には巫女神官専用の保養施設がある。

 そこは修道院以上に人の出入りも少なく、世間や周囲の目から隔離するにはうってつけの場所だ。

 リエルテンシアのことはヒルデが一任する話になったし、わたしも彼女と仲が良いから信頼もしている。

 それでも、自分たちのプライベートな施設に不審な者を入れるのは抵抗があった。

 

「クラン、大丈夫かなぁ?」


 わたしの問いにクランは落ち着いた様子で答える。


「……すぐに大きな問題が起こることはないでしょう。あの少女にはわたくしたちに似た特殊な力がありますが、明らかに扱いきれていません。自身が記憶を失っていると思い込んでいる以上、突飛な行動に出ることもまたありえません」


「今は大人しく状況を見守るしかないだろう。とはいえ、何かか起これば即座に対処できるように、街の兵士たちにも根回しをしておく必要がある」


 おにいちゃんはそう言って、お茶を一口飲んだ。

 隣に座るエリスちゃんは黙って不安そうな表情をしている。

 

「エリスちゃん、大丈夫だよ。この街で何かあっても、わたしが必ず守護(まも)ってあげるからねっ!」


 わたしは元気よく声をかけると、少女は苦笑しながら手を握ってきた。

 それを握り返してあげると、暗くなりかけた雰囲気を払うようにクランが口を開く。


「そうですね。パフィも南東部に一週間の滞在予定ですから、それまでにわたくしたちもできる限りの対策を施すことにしましょうね」


 わたしたちの街や民衆を守ること。

 それはこの国の国教である『聖なる教』とその信仰を守ることと同義だ。

 たとえ元は同じ信仰を掲げていても、平穏を乱し転覆を目論むのならば異教徒と見なすほかない。

 私たち巫女神官の役目は教義(ドグマ)のままに民衆を導き、同時に恐怖と神罰の代行者であることを知らしめないといけないのだ。


 主と神鎧(アンヘル)と精霊の名のもとに、(けが)れなき信仰を示すために――

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