141★余裕が無いのはどっち?
紫のツタと触手の拘束からなんとか抜け出したエリカは、すぐにその場から離れることにした。
〔もう、紫のツタや触手なんて見たくない
それに、なんとか身体を拘束していたツタは
焼き払った退けたけど……
この場にぐずぐずといたら、また拘束される
可能性があるよね
でも、火を使うとこの中の綺麗な花々も
燃えてしまうとかダメージを与えてしまう
あの中には、貴重でとても有用な花々が
あるかも知れないし……
ツタと言っても植物なんだから……
ざくざくに切って塩害を与えて…って…
だぁ~…ここに《魔倉庫》が無いから…
塩は出せないかぁ……
しょうがないから、ここはフリーズドライを
やってみようかな?〕
紫のツタと触手を、エリカは植物系の魔物として処理することにした。
「空間魔法の《転移》禁止で
すべての紫ツタと触手を
その場に留めよ
空間魔法の《結界》で
すべての紫ツタと触手を
この空間から独立させよ
水魔法のフリーズで
すべての紫ツタと触手を凍らせよ
風魔法のエアトルネードで
凍った紫ツタと触手を
すべて粉々にせよ
火魔法のヒートで粉々になった
紫ツタと触手を解かせ
風魔法のドライで
すべての紫ツタと触手を
乾燥させよ」
回復魔法を使ったときと同じように、エリカの身体から《魔力》がするりと抜け出ていくのを感じた。
そして、エリカは順番に魔法を使って、紫ツタと触手を粉々にしてしまう。
それによって、それらの生命活動は停止してしまった。
先ほどの絡みツタと違って、何の香りもしなかった。
エリカが紫のツタと触手を撃退し、怒りにまかせて、そのツタのすべてをフリーズドライにし終わった直後に、アルファードを先頭に、その場のすぐ近くまで到着していた。
が、エリカを捕らえた《転移》する紫のツタや触手を無用に刺激しないようにと、アルファードとオスカーは、馬から降りてソッと様子を窺がいに来ていたのだ。
暴れられて、捕らわれたエリカを傷付けられないようにと…………。
勿論、足である馬を失わない為にも、自分達の馬とエリカの馬は、付いて来た騎士達に預けて、ソッと様子を見に来ていたのだ。
アルファードは、エリカが紫のツタと触手から逃れ、適切な処理をしている姿を見て、ホッとして声をかけようとしたのだが…………。
『……あっ……エリカ……良かった……』
そう小さく呟いたアルファードは、エリカの可憐な姿にクラクラして、声をかけるタイミングを逃してしまう。
〔うわぁ~…エリカってば……綺麗だ…
まさに、俺好み……じゃなくて……
うっ……鼻血が出そう……マズイ……〕
アルファードは、無意識に鼻と口を押さえつつも、エリカの様子を確認する。
〔あの《転移》する紫のツタと触手は……
どうなったんだ?
もしかして、エリカの前にあるアレが
その成れの果てか?〕
そんなアルファードを、オスカーはとても生暖かい視線で見守っていたが、あえて自分からエリカに声をかけたりはしなかった。
〔ああ、良かった
姫君は、どうやら無事なようですね
流石、姫君…ご自分で撃退しましたか……
クスクス…団長ってば、頬を紅くして鼻を
押さえているなんて……面白いから
少しこのまま様子を見ましょうか〕
そんな、2人の視線の先では、アルファードとオスカーの到着に気付かないエリカが、フリーズドライにしたツタや触手を前に悩んでいた。
完全にフリーズドライにしたからと言って、素手で触る気など無いエリカは、紫のツタと触手だったモノの前で考え込んでいた。
〔う~ん、これはどうしようかな?
マヒ毒とか媚薬とか色々な成分を
分泌できた魔物なんだから……
何かの役に立つかもしれないよね
鑑定のスキルは持って無いから
調べられないしね
とりあえず、このまま《結界》に
入れておこう
あとは、アルやオスカーさんに
丸投げしちゃおう〕
自分に攻撃してきた紫ツタと触手を、切り刻んで満足したエリカは、改めて《転移》させられた洞窟内を見回す。
が、洞窟の外を見る余裕は無かった。
もし、エリカが余裕をもって、外まで観察していれば、アルファードとオスカーが到着していることに気付けたかもしれなかったのだが…………。