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ガチャでUR種族を当てたら、異世界に飛ばされた  作者: 厠之 花子
序章:王国滅亡編
9/18

7.報告です

「調べ物お疲れ様。ごめんね、《念話テレパシー》でいきなり呼んだりして」

「いえ、主様の為ならば何処へでも。勿体ないお言葉、ありがとうございます」


夜中になり人通りの少なくなったギルドの前で、ノワールから情報を受け取る。⋯⋯本当は拠点に戻る予定だったが、ジルからの誘いもあり、予定を変更してノワールに来てもらったのだ。


ペラペラ、と羊皮紙に纏められたソレを見ながら、眼下で跪くノワールに言う。


「今日は帰れそうにないから、ノワールは先に拠点に帰ってて。皆と情報共有するのを忘れないでね」

「了解致しました」

「じゃあ、私は戻るね。情報ありがとう」


やはりNPCはかなり優秀なようで、この国のみならず、この世界の常識や知識などもわかりやすく纏められていた。

デキる男というのは、ノワールみたいな男なのだろう。きっと。


(本当に有難いなぁ⋯⋯、あとでゆっくりと見させて貰おう。さすが我が愛子、優秀だ)


心の中で感謝しながら、ノワールをちらっと見る。


跪いたまま、深々と頭を垂れるノワール。そこにはノアへの畏敬の念が表れていた。


またか、とは思うが数時間経てばこれも慣れたもので、苦笑しつつもノアはギルドの扉へと向かう。

最後に振り返り、口元に笑みを浮かべて感謝の言葉を言った。


「頼りにしてるね、ノワール」

「⋯⋯はっ、ありがたき幸せ」


立ち去ろうとする主の気配を感じながら、ノワールは身体を震わす。───恐怖からではない、深い歓喜のためだ。

主から感謝される事はこの上ない喜び、それはどの甘美にも勝る。


───主の役に立つ事だけ・・が、唯一の存在理由なのだから。


ノワールからの報告を満足し、ギルドへ戻ろうとノアが身体の向きを変えた時だった。


「⋯⋯あ」


ガチャ、と扉が開いて出てきたのはシャドウだ。ノアを見て、次にノワールを見て息を飲んでいる。


ノアはそれを気にせずに、平然と声をかけた。


「あれ?どうしたんですか、ファントムさん」

「いや⋯⋯どうしたも何も、心配して行こうとしたって言うか⋯⋯ていうか、誰」


しどろもどろに答えるシャドウ。突然の出来事に慌てているようだ。

⋯⋯無理もない。いきなり、目の前に見知らぬ青年が少女に跪いているのだから。


「そうだったんですね⋯⋯それはご心配をお掛けしました。ちょっと、執事からの報告を受けていただけなのですが⋯」


こちらが執事のノワールです、とノアが紹介するとにこやかにノワールは立ち上がり、会釈した。人の良さそうなオーラが目に見えるようだ。


「初めまして、ノワールと申します」

「え、あ⋯⋯は、初めまして。シャドウです」


何事も無く穏やかに自己紹介が終わった後に「私はこれで」とノワールはノアに一礼する。にっこりと労うノア。


「うん、お疲れ様。あんまり無理しないでね」

「はい」


一礼した瞬間、ノワールの姿は消え去った。シャドウはそれを見て呆然と呟く。


「あの執事何者だよ⋯⋯というか、執事も美形だなおい」

「ただの執事ですよ。⋯⋯それより、外へ出て話すだけだったのですから、心配は要らなかったんですよ?」


言いながら、さり気なくノアは羊皮紙の束を、ローブの下にしまった。それは何かと聞かれると色々面倒なのだ。ましてや、内容を見られるなんて事は絶対に御免だ。


幸いにもシャドウはそれに目もくれず、馴れ馴れしくノアに話しかける。年下だから、と下に見ているのは明らかで、少しムッとした表情でノアは応えた。


「それを言えば良かったのに⋯⋯。おっさん滅茶苦茶心配してたぜ」

「あー⋯⋯謝っておきます」


そう言ってノアはギルドへ入ろうとするが、その歩みはシャドウの左足によって遮られる。

邪魔された事により、不機嫌そうに眉を顰めるノア。


「⋯⋯通していただけませんか」

「なあ、ちょっと聞いていいか」


ノアの様子を気にせず、真面目な表情でシャドウが聞く。


「⋯⋯何ですか」


───なんか、嫌な予感がする。


さらに眉を顰めつつも、仕方なしにノアが言う。一息ついてから、シャドウは疑問を口にした。


「⋯⋯なんで、執事なんてのがいる?」

「⋯⋯⋯」

「生き残ったのは3人だけじゃなかったのか?」

「⋯⋯それは」


ノアの言葉が詰まる。だが、シャドウは追及の手を止めない。

自己の推測を淡々と話し出す。


「しかも三姉妹というわりには、お前が中心に動いている。まるで主従のように───その様子からして、本当は三姉妹とかじゃないだろ?何のために嘘をついたんだ?」

「⋯⋯⋯」

「それに俺の服装を見て何の反応もなかったな、珍しいとは思わなかったのか?」


黙り込んだノアを見て、最後の疑問へと変わった。


「お前、いやお前らは⋯⋯」

「⋯⋯⋯」


何処か確信を持っているような口調。ノアは黙ってシャドウを見つめ返す。

そして、シャドウがついに決定的な言葉を吐き出した。


「異世界から来たんじゃないか?」


────────────


2つの高く透き通るような声が交差する。


「ほんと、あのクズのせいで主様の計画がずれちゃったわ」

「だねぇ⋯⋯主さまのお許しが出たら、2人でやっちゃおうかぁ」

「いいわね、それ。腹上死させようかしら」

「それはつまんないぃ。あたしもやりたいもん」


ギルドの一室。アーニャに案内された空き部屋のベッドに、それぞれ2人が腰掛ける。


どうやら仮眠室のようで、質素な部屋にベッドが2つ置いてあるだけである。他に調度品などは何も無い。

そこで何をするでもなく、2人はノアの指示を待つ。


淫魔とアンデッドという2人、夜の世界の住人にとって睡眠は必要ない。


ローザが横に腰掛けているモミジに話しかけた。話題は、始終黙って食事をしていた少年について、だ。


他とは明らかに浮いていた学生服の少年は、ローザとモミジだけでなく、他の冒険者からも好奇の目で見られていた。

三姉妹の衝撃が大きすぎて、影が薄くなっていたが、それでも黒髪黒目という珍しい容姿は目を引くようである。


ローザの眼光が鋭くなる。他の者たちとは比べ物にならない程の魔力を保持する少年が、脳裏に思い浮かんだ。

気配だけで他の人間クズとは違う本物の実力者だとわかる。


「⋯⋯あの奇妙な黒の餓鬼。少々厄介だわ」

「んー⋯⋯確かに油断は出来ないかもだけどぉ。あたしなら・・・・・やれるよぉ?⋯⋯おばさんは無理かもだけどぉ」

「失礼ね、私もやれるわよ!!⋯⋯しかも貧乳よりも効率よく、ね」

「えぇー大きいお胸が邪魔で、難しいんじゃなぁい?」

「余計なお世話よ」


苦虫を噛み潰したような顔で、そっぽを向くローザ。会話か途切れ、無言の時間が流れた。

ふと、モミジが疑問を口にする。


「始末出来るなら、なんで厄介なのぉ?」

「中途半端な強さを持つ奴が一番厄介なのよ。掃除するには他よりも手がかかるし、かと言って野放しにしたら、いつか主様の邪魔になってしまうでしょう?」


モミジは納得したように「なるほどぉ」と手を打った。


「⋯⋯なら、邪魔になったら駆除しなきゃあねぇ。あーあ、めんどくさぁい。直ぐにやられちゃあ、つまんないのにぃ」


他の人間とは違う強者───しかしそれでも所詮は人間・・・・・


つまらなそうに、足をぶらぶらと揺らすモミジ。その様子にローザは「そうね」と相槌を打つ。


「あの餓鬼だけは他の人間と違ったわ」

「ねー不思議ぃ。でもぉ、同じ黒髪でも主さまとは大違いかなぁ」

「⋯⋯主様はあんな雑魚じゃないわ、もっと神聖な方よ───私たちでは足元にすら及ばない程のね」


恍惚な表情で宙を見つめるローザに、モミジは同感とでも言うように大きく頷いた。


「あたしも、あの御方に名前を呼ばれるだけで、天に昇るような気分になるもん。主さまの為なら、この命を捧げるのは当然だよぉ」

「ええ。私たちの使命は、この身をもって主様に従い御守りし、そして崇め奉ること。⋯⋯⋯この点に関しては貴女と意見が合うわね」

「まー、当たり前の事だからねぇ。そういや、冒険者登録の書類には、ちゃんと主さまの言う通りに書いたぁ?」

「当然よ。主様が仰った言葉は、一字一句全て覚えられるわ」


ふん、とローザは鼻を鳴らす。すました顔には自信がありありと見て取れた。対して、モミジも不敵な笑みを浮かべる。


「よかったぁ〜もしかしたら、歳のせいで忘れちゃってるのかと思ったぁ」

「まだ、若いわよ!!⋯⋯ていうか、こんな当たり前な事を聞かないで欲しいわね、覚えてるに決まってるでしょ?唯一無二の存在である主様の言葉なのだから」

「⋯⋯覚えてなかったらねぇ、つい・・やっちゃってたかもぉ」


モミジが満面の笑みで言い放った───その顔は決して冗談を言っているようには見えない。

だが、ローザは怯むことなく言葉を返す。


「貴女が言える事じゃないわよ。ちゃんと人間に溶け込んでなかったくせに。しかも、威圧なんか出しちゃって⋯⋯主様の手を煩わせてしまっていたじゃない」


その言葉で、モミジに苦い記憶が浮かび上がった。

ついさっきのギルドで、自身の創造主である主に怒られてしまった事だ。


先程とは打って変わって弱気になり、語気も弱くなる。


「⋯⋯うう、それはぁ。だぁってぇ、ゴミの癖に五月蝿いんだもん。主さまだって御顔を顰めてたよぉ?」

「だからって、主様から言われた言葉を忘れるなんて言語道断よ。足を引っ張らないで欲しいわ」


ローザの咎めるような口調に、バツの悪そうな顔でモミジは呟いた。


「⋯⋯ごめんなさぁい。でもぉ、ローザだってあの時クズを殺そうとして、主さまに怒られてたじゃなぁい」

「それは貴女も一緒でしょ。人の事言えないわよ」

「⋯⋯う」


正論を返され、モミジは黙ってしまう。拗ねたように口を尖らせて言った。


「⋯⋯もう寝るもん」


ごろん、と装備をそのままにモミジは横になる。それを横目にローザは装備を脱いだ。いくら軽装備だといっても、そのままではやはり寝にくい。


下着姿も同然のような格好になったローザは、呆れたようにモミジを見下ろした。


「⋯⋯装備くらい脱いだらどうかしら?それに、貴女に睡眠はいらないでしょう?⋯⋯人も見ていないようだし、必要ないんじゃないかしら」

「いいじゃん、寝た振りだよぅ。別に服はこのままでいいしぃ、おばさんみたいにデブじゃないもん。キツくないもん」

「⋯⋯この豊満・・な肉体が羨ましいかしら、子供体型な貧乳さん?」

「ぜーんぜん。あたし、そんなデカいものを2つもぶら下げて歩きたくないしぃ」

「妬みも過ぎると僻みになるみたいね?」

「はぁ?胸だけじゃなくてぇ、脳味噌まで脂肪たっぷりなんじゃなぁい?頭大丈夫ぅ?」


とうとう2人がキレた。


「んだと、貧乳」

「⋯⋯ビッチの癖に」

「骨」

「尻軽女」

「犬の餌」

「若作りババア」


⋯⋯この2人を止める者はいない。無駄な口論はまだまだ続く。


ローザが馬鹿にしたような口調でモミジを嘲笑った。


「そもそも、貴女は主様の足を引っ張り過ぎなのよ。人間クズに溶け込むことすら出来ないなんて、人間クズ以下ね」

「おばさんだって、三姉妹の設定なのに長女の演技出来てないじゃなぁい。主さまに言われて行動しちゃってるもん、違和感ありありだよぉ?」


負けじと返したモミジの言葉に、ローザは「仕方ない」と反論する。


「普通はいくら命令だとしても、主様の御名前を呼び捨てだなんて烏滸がましくて中々出来ないじゃない。モミジだって、そう思うから呼ばなかったんでしょう?」

「⋯⋯うん。それもそうだねぇ⋯⋯」


主の御名前は口にするだけでも烏滸がましい───主に仕える者としての常識は同じのようだ。


すっかり冷めてしまった2人は、口を噤んでしまった。

⋯⋯部屋に再び静寂が戻る。


「⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯」


このままずっと無言の時間が続くと思われたその時、物音一つしない部屋の中でややあってローザが声を出した。


「⋯⋯せっかく主様から頂いた服をダメにしないようにね?」

「わかってるもん。こうして肌身離さず着てるじゃないぃ」


主さまを直に肌で感じ取ってるのぉ、とうっとりした表情で自身を抱きしめる───そんな様子のモミジに「貴女に肌なんてないでしょ」とローザは、聞こえないくらいの小声でつっこんだ。


モミジにならって横になりつつ、ローザは心配そうに呟く。


「⋯⋯それにしても、主様遅いわね」


窓がないので外の様子はわからないが、きっと満点の星空なのだろう。大分夜が深まっている。

寝落ちしたのだろうか───ついに酒場の方からも声が聞こえなくなった。


思いの外時間が過ぎていたらしい。


念話テレパシー》という魔法によるノアからの指示も、まだ来てはいない。

どうしたものか、とモミジも心配そうに呟いた。


「ほんとに遅いねぇ⋯⋯」

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