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ガチャでUR種族を当てたら、異世界に飛ばされた  作者: 厠之 花子
序章:王国滅亡編
10/18

8.バラしました

「異世界から来たんじゃないか?」


確信を持っているような口調で、シャドウがそう言い放つ。

対してノアは無表情で無言のままだったが、心の中では、葛藤を繰り広げている最中だった。


───悪い予感というものは、いい予感よりも当たるもの。


(どうしよう⋯⋯)


⋯⋯だが、この場合の『どうしよう』は『〝バレちゃうかもしれない〟どうしよう』ではなく、『〝バラした方がいいのかな、内緒にした方がいいのかな〟どうしよう』の方である。


例えバラした所で、この少年がこの事を言いふらす訳でもなく、ただ仲間意識みたいなもの・・・・・・が出来るだけだ。もしかしたら、いざと言う時に協力者として使えるかもしれない。


それに同じ異世界から来たのなら、チートが入っている可能性が高い。ノアとしても、未知の強さの存在と敵対するのは得策ではないと思っている。


(となると、いっそバラす事で敵対する意志はないと示すのもあり、か)


将来敵対しないとも限らない。


ここまで疑われて、今更誤魔化すのはきついだろう。それに、異世界に1人だという事もあり、心の底では実は仲間が欲しかったのかもしれない。


(よし、バラそう)


意を決して、ノアが真っ直ぐにシャドウの顔を見た。


日本人的な作りの平凡な顔は、戸惑っているような緊張しているような、複雑な表情をしている。恐らく、突然黙り込んだノアに、不安を感じているのだろう。


「⋯⋯おい、なんか言えよ」


シャドウのやや強がった声に、ノアはイタズラっ子のように笑って言った。


「声が震えてるよ、厨二少年」

「⋯⋯っ、やっぱりか⋯⋯」

「君の言う通り、私は異世界から来た日本人だよ。よろしくね」


出来るだけ友好的に、にこやかに話す。初めはシャドウも驚いたものの、ノアの好意的な笑顔で段々と現実を受け入れ始めた。

ほっとした表情で、シャドウも馴れ馴れしく話しかける。


「やっぱりそうだったのか⋯⋯来たのは今日?」

「うん。厨二少年もでしょ?いやぁ、びっくりしたよ。いきなり、見慣れた学生服がいるんだもの」

「⋯⋯あの、その⋯厨二少年っていうのは⋯」

「ぴったりじゃない、ねえ?シャドウ・・・・ファントム・・・・・君?」

「いやでも⋯」

「何か問題でも?シャドウ=ファントム君?」


態とらしくノアがそう言えば、シャドウは何も言えない。何しろ、名前をつけたのは自分自身なのだから。

悔しそうな顔で、声にならない呻き声をあげる。渋々といった感じで、シャドウは言った。


「⋯⋯ないです」

「まあ、それはいいとして」

「いいのかよ」


ノアは周囲に人がいないことを確認し、2人を囲む僅かな空間に、《防音結界シャットサウンド・フィールド》を無詠唱で展開する。これで会話が漏れる心配はない。


「───で、改めて自己紹介をしようよ。厨二君」

「⋯⋯俺は小鳥遊 太郎。見ての通り学生、17歳男だ。今日、学校帰りに異世界転移してこの世界に来た。所謂巻き込まれって奴だ」


シャドウは〝厨二君〟という呼び名を正そうとはしない。諦めたのか、それとも自覚して認めたのかは定かではないが。


自分も自己紹介をしようと、ノアも口を開いた。しかし、それは言葉を紡ぐ前に閉じてしまう。


「私は──⋯⋯ん?」

「⋯⋯どうした?」


いきなり黙ったノアに、シャドウは心配そうに声をかけた。ノアは片手を上げる事で、心配は無用だと示す。

しかしそう言うノアの顔は、少し青ざめている。捲し立てた言葉は僅かに震えていた。


「私は、ノア=ヴェーダ。悪いけど、日本人の時の名前は言いたくない。因みに成人済みだけど、敬語じゃなくていいよ。怪しまれるからね。私たちも今日、異世界転移して来たばっかりなんだ。⋯⋯ああ、容姿は気づいたらこうなってたから、気にしないで」


「なるほどな。本当に大丈夫か⋯⋯顔、青いぞ」


大丈夫だから、と眉を顰めて言うノア。まるでこの話題は終わりだと言うように、そっぽを向いた。


「もういいよね、私はもう部屋に行くから」

「ちょ、ちょっと待て」


話が終わりそうな雰囲気にシャドウは焦る。

ここで話が終わってしまうのはとても困る。折角、同じ境遇の者を見つけたのだ───それを活用しなければ。


ごくり、と喉が鳴った。相手もチート級の強さに違いない。機嫌を損ねられて、協力出来なくなっては困る。


「同じ日本人同士、協力し合わないか?」

「だが断る」

「えっ」


しかし、シャドウが勇気をもって言った言葉は、ノアの一言によって片付けられた。


思いもよらない返事に驚きを隠せないシャドウ。不思議そうな声で「⋯⋯なぜ?」と呟く。

ギルドの扉に手をかけながら振り返ったノアは、その質問に答えた。


「敵対する意思はないけど、馴れ馴れしくする気もないからね。メリットがあった場合だけ協力はするし、言ってくれればシャドウ君の邪魔はしないよ。それに⋯⋯」


私は生粋のソロプレイヤーだから、と最後にニッコリと笑ったノアはギルドの中へと消えていく。

その様子を見つめながら、シャドウは呆然と呟いた。


「ソロプレイヤー⋯って、じゃあ⋯あの執事たちは何なんだ⋯⋯?」


────────────


「──ただいま。遅くなってごめんね」


心配をしていたジルに軽く謝り、2人の部屋へとノアが戻る。

案の定というか、2人は既に頭を垂れ、跪いていた。


ノアが帰宅を告げると、直ぐに2人から歓迎される。


「主様!ご無事でしたか!?」

「何処かお怪我は⋯⋯?」

「無いよ、大丈夫だから」


苦笑しつつもノアが言うが、ローザが心配そうに「ですが⋯」と言葉を濁らせた。


「主様、お顔が青ざめて⋯⋯」

「あー⋯大丈夫大丈夫。気にしないで」

「主さま、何があったのですか?あの糞ガキに、それともあのクズに何かされたのですか!?」

「落ち着いて、モミジ。あの2人とは、ただ話をしただけだよ、何もされてない」

「主さま⋯⋯」


尚も心配そうな2人に、ノアは心が満ち足りていくのを感じた。NPCたちは我が子と言っても過言ではない。その子たちから心配されるのは、なんと嬉しいことだろうか。


これから一生守っていこう、とノアは密かに決意する。


「とにかくもう夜は遅いし、詳しい事は明日話すよ。2人はここで待機。誰か来るとは思えないけど一応、ね」

「「はっ」」

「じゃあ、私は空の散歩でもしてくるね」

「⋯⋯あ、主様!お供を付けず1人だけなんて、危険ですわ!!」

「そうですよ、是非お供を⋯⋯」

「大丈夫、ちゃんと不可知の魔法はかけておくから。バレない様にこのまま飛行フライの魔法で飛ぶし、攻撃されたら直ぐ呼ぶし、見えないくらい高度も上げるし、ほんの少しだけだから」


安心して、と笑顔でノアは言うが、2人からしてみれば心配どころではない。

空に浮かんでいるなんて、敵からすればいい標的まとだ。遠くから狙われたりしたら一溜りもない。


「やはり危険ですよ、あたしが」

「なら、私も」


2人にとって、主の盾になる事にはなんの疑問はない。寧ろ、それで主が護れるなら喜んで差し出すくらいである。

だからこそ、護衛役として主の側にいたいのだが⋯⋯。


「2人はここで待機。命令だからね?」

「主様!!」

「そんな、危険ですよ!?」

「大丈夫、直ぐ戻るって。⋯⋯今は一人になりたいんだ」


2人の静止の声も虚しく、バイバイと軽く手を振ったノアは一瞬にして消える。恐らく、転移したのだろう。


⋯⋯主は何処か思い詰めたような顔をしていた。その事が2人の心に引っかかるが、命令には従わなければいけない。


「行っちゃったぁ⋯」

「⋯⋯私たちは主様に従うのみ。主様が黒だと言えば、黒なのよ。大人しく待ってましょう」

「だねぇ⋯⋯」


────────────


遥か上空。下からは見えない程に遠い場所に、ノアは転移していた。


「⋯⋯満天の星空だ」


日本の空とは違い、様々な色をした小さな光が藍色の夜空を散っている。街並みが真っ暗な事も相まって、夜空に包まれているかのようだ。

思わずノアは感嘆の声を漏らした。


(日本。そう、私はついさっきまでは日本にいて、それでCWOで⋯⋯)


でも、とノアは言葉を続ける。その表情は暗い。


「私は誰だったんだろう──⋯」


───記憶が、無くなっているのだ。


それが発覚したのは、シャドウと話している時。自己紹介をしようとした時だった。


「唯一覚えているのは、ユウっていう名前とCWOの事、日本の事⋯⋯」


───自分のことに関する記憶が。


紅い瞳が見開かれる。言葉が溢れ出す。


「来た時は覚えていた筈なのに⋯⋯何も⋯何も!!」


⋯⋯必死に押さえ込んでいたモノ・・が⋯⋯───爆発した。

ポロポロと水晶の様な透明な雫が、見開かれた瞳から流れ落ちる。


「⋯⋯大事な記憶だってあった筈なのに⋯何も⋯何もかも⋯⋯消えたんだ」


その混乱はノアの精神を貪る───紅い瞳は、もう何も映してはいない。

⋯⋯記憶がないというのが、こんなにも恐ろしい事だったとはノアは知らなかった。だからこそ、未知の体験に余計に反応してしまう。


知っている筈・・・・・・なのに知らない・・・・・・・。靄の様なものが覆い、映像きおくを隠している。もどかしい、でもどうにも出来ない。


声にならない叫びが、ノアの口の隙間から漏れだした。


「あ⋯ああ」


事実を再確認したノアの身体が、恐怖からかガクガクと震える。不意に頭の中が真っ白になり、吐き気が込み上げてきた。

クッキーの甘さと胃酸が混じりあった嫌な味が口に広がる。


───ガリ⋯⋯


無意識に指が頬へと伸びた。


「⋯⋯あ、ああああああ」


───ガリ⋯ガリガリガリガリガリガリッ


指が勝手に頬を引っ掻く。短く切りそろえられた小さな爪は皮膚を抉り、爪の間に血肉が挟まる。


白く透き通った肌には、幾千もの真っ赤な鮮血の筋が涙と共に流れた。スキルで神経が麻痺したのか、痛みは全く感じない。


だが、自身のスキルである〝真・自己回復セルフリカバリー〟によって、それは引っ掻き傷諸共一瞬で消える。


赤、白、赤、白⋯⋯。


引っ掻いては肌を傷つけ、傷ができてはスキルによってそれは直ぐに元通りの白い肌に治される。


「何で⋯⋯何で何で何で!!」


意味もなく言葉を繰り返す。当然、その疑問に答える者はいない。


「確かに私は存在していた筈なのに!!」


───何も、思い出せない。


自分の容姿も、名前も好きな物も嫌いな物も好きな人も嫌いな人も友達も母親も父親も祖父も祖母も家族との思い出も愛する人も仲間も勤務している会社の事も同僚も楽しかった日々も楽しい記憶も悲しい記憶も辛い記憶も怒りを覚えた記憶も何もかも全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部───⋯⋯


ピタリ、とノアの指が止まった。焦点の合わない瞳で呟く。


「⋯⋯忘れて⋯⋯いる」


───闇に映える白い肌、浮かぶ二つの紅く濁った瞳。折れそうな程に華奢な身体は、危うさを伴って少女とは思えない色香を放っていた。


しかし、その姿を認識出来る者はいない。


魔女を思わせるとんがり帽子と黒いローブが、強風に煽られはためく。

徐ろにノアは呟いた。


「大事な日本での思い出⋯⋯それが私の異世界転移の代償なら、目的は一つ」


───何が何でも、生き残る。


「異世界生活を楽しんでやる」


───例えどんな手を使ってでも。


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