表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガチャでUR種族を当てたら、異世界に飛ばされた  作者: 厠之 花子
序章:王国滅亡編
6/18

4.入国しました

風が木々の葉を揺らし、忙しない音を立てる。全ての木々が余裕で・・・50mは超えるような鬱蒼とした森は、日光を遮り影を作る。


「さぁて」


人間などがいるはずのない森の奥で、この場に似つかない程に可愛らしいソプラノの声が響いた。

齢10歳程の少女───言わずもがな、ユウである。


「世の中で、一番必要なものは何か?それは───⋯⋯」


そう言ってユウは、跪き頭を垂れる3人を眺める。その表情は固く、何処か深刻そうに見えた。

その姿は、支配者宛ら。


思いつめたようなユウの顔に、何処からともなくゴクリ、と唾を飲む音がする。


「勿論、金だよ」


人差し指を立てたユウが、言う。何処かしら得意気なのは、何故だろうか。

こほん、と態とらしく咳払いをした後、


「というわけで⋯⋯」


真面目そうな表情からは一変、それは新しい玩具を見つけた悪戯っ子のような笑顔だった。


「冒険者登録ついでに、観光しようか!」



───────



3人を少し離れた所で待機させ、ユウは彼らに背を向ける形で前を見据える。


───人間の国に入るには、少しやらなければならない事がある。


「《アイテムボックス》」


『キーワード』を口に出しながら、空中に腕を入れると脳内に、現在保存されているアイテムの一覧が浮かび上がった。


これは初期キャラ自体についてくる、特殊技術スキルの様なもので、例外なく誰でも使う事ができる。


その名の通り、主にアイテムの収納に使われるものだ。この中では時間が流れていないので、例え生物であっても鮮度も保てる。

ただ、キャラレベルによって収納数は制限されるが、ユウによってそれはさほど問題ではない。


かなり便利。


ここでは使えないかもしれない、と不安に思っていたが、その心配はいらなかったらしい。やってみたら出来てしまった。

ものは試しようとは、よく言ったものだ。


思った通り、CWOで保存していた様々なアイテムがある。これはかなりのアドバンテージとなるだろう。


「にしても、これから先は大変かもなぁ⋯」


誰にも聞こえないように、しみじみと小声で呟くユウ。


魔族を見た時のリアクションからして、人間に自分が魔族だと悟られてしまったら、即ゲームオーバー。平穏な日常なんて、望めない。


それには、極力目立たない事が得策だ。黒髪は珍しい色だが、魔族の象徴ではないためそこまで気にする必要はないが、やはり魔族の象徴である角と翼はネックとなるだろう。


(あくまでも、異世界を満喫しながら、平和に楽しく過ごしたいだけなのに)


だからこそ、ギルド長であるジンに、魔族の状態で顔を見られた事が、余計に気がかりだ。

記憶の忘却なんてできるはずもなく、かといって整形も不可能。


このままでいくしかないだろう。


(既に上への報告は済んでいるはず、魔族が現れたという情報は広まっていると考えるべきか⋯⋯)


「⋯⋯悪事千里を走る、とはこの事かもなぁ。別に悪事を起こしたわけじゃないんだけどね⋯」


───カチリ


取り出した魔力隠蔽の為の指輪を、両手の指全て・・に装備しつつ、これからやる事を確認する。


───まずは冒険者登録だ。


CWOと仕様が同じならば、街に最低1つはギルドがあるはず。何処か1つで冒険者登録さえすれば、他の国でも依頼を受けることが出来る。


ランクが低い間の稼ぎは雀の涙程だが、ランクが高くなればなる程難易度は高くなり、それに応じて報酬も豪華になる。


元々、CWOでも冒険者だったのだ。これ以外の金稼ぎは考えられない。


登録が済んだら、次は情報収集。これはノワールに任せるつもりでいる。少なくとも見た目は好青年、コミュニケーション能力が高いことも理由の1つだが、一番の理由は違う。


目立たない為には、人間との面倒事は避けなければならない。それには、人間に対してある程度の理解が必要だ。


ノワールは他のNPCよりも、人間に対する感情が優しい・・・


───そう、優しい・・・⋯⋯多分、いやきっと。


最後にとんがり帽子を被ったユウは呟く。


「よし、準備は整った」


伝説級の装備を身につけ、満足そうな笑みを浮かべる。

旗から見れば、ただの可愛らしい魔女装備一式だが、実は様々なスキルが付いた魔法服である。

ランクは、最高ランクである神話級に次ぐ2番目。しかし、その性能は中々優秀⋯決して悪くは無い。


神話級を普段着で使うのは、少し気が引けるという理由での伝説級。それでも、不意に強敵と相見える事となったとしても、ある程度は対処できるだろう。


魔力隠蔽の指輪アクセサリーは、既に3人にも配ってある。これで魔力探知で見つかる心配はない。馴染む事も考えて、装備も平凡かつ高機能なものにさせた、抜かりはない。


3人に装備をプレゼントしたら、相当嬉しかったようで感謝の言葉が絶えず、モミジなんかは感動して涙まで流していた。ローザに至っては、恍惚とした表情で、まるで恋人を慈しむかのように撫で続けていた。


その姿に引いたのは言うまでもない。


「⋯⋯翼と角は⋯大丈夫そうだな」


最後にくるりと回転し、動いても見えないことを確認する。最小限の大きさにした翼も、長めの黒ローブでしっかりと隠れている。


念のため、どちらにも不可視の魔法はかけておいたが⋯⋯───ユウの心に心配が残る。


「まあ、どうしようもないか」


小さく首を振ったユウは、3人の元へと駆け足で向かった。着替えると言ってから、大分時間が経ってしまっている。


草をかき分け少し行くと案の定、装備を整え支度を終えた3人が跪いて・・・待機していた。


それを見たユウの口元が引き攣る。


(⋯まさか、ずっとこの状態で待機していた⋯なんて───⋯まさかね)


そう思いつつも、この人達ならやりかねないと、たった数時間しか接していないにも関わらず、納得してしまうユウ。

それ程までに何故か・・・崇拝されている。


(本当何してるんだ、君たちは⋯⋯)


そう言いたいが、言えるはずもなく⋯⋯ユウは引き攣った笑みのまま、3人に近づいた。


「⋯⋯ごめんね、遅くなった」


ユウがそう言えば、秒速で・・・ニコニコとした柔らかな笑顔と共に、ノワールから返事が来る。


「いえ。主様の御支度ならば、喜んでお待ちしております⋯⋯───いつまでも」


背筋が、ヒヤリ、とした。


───その笑顔は変わらず優しいのに、一瞬不気味に思えたのは何故だろうか。


見ると、ノワールに同意するように、他の2人も頷いていた。この場に居ないが、きっと残りのNPCたちも同じ反応なのだろう。


忠誠心の異様な高さ。


それは扱いやすいんだか、にくいんだか───接してみて、最初のような忠義に対する不安は無くなったものの、今度はどう対応していけば良いのかがわからない。


むしろ、忠誠心が高すぎて扱いに困ってしまう。⋯⋯まあ、初めて対応する人種タイプという理由も、その1つだが。


ユウが 3人の目の前に立つ。

ここで面倒を起こされても困るので、釘を指す事を忘れない。


「皆、人間には喧嘩を売らないで、優しく接して。とにかく、街の中で騒ぎは起こさないように」

「「「はっ」」」


その言葉に全員頷いたのを確認してから、ユウが言った。チラリ、と遠くに見える石の壁を見る。


あそこがさっきの国なのだ───緊張で自然とユウの表情が固くなる。


ユウは、何かを決意するように帽子を深く被り直すと、柔らかな微笑みを浮かべた。


「⋯⋯じゃあ、出発しよう。日が暮れる前に」


───見上げた空には、既に赤みがかかっていた。


────────────


「ようこそ、ルガント・ヴェルド王国へ」


門番の声に見送られ、扉を潜る。

⋯⋯結局入国出来たのは、完全に日が落ちてからだった。


「⋯⋯申し訳ございません。こんなに時間がかかってしまって⋯⋯」

「謝らなくていいよ、ローザ。仕方ない事だよ」


東の街───『イアスト』に入ってから、ローザはずっと謝り続けている。

確かにローザに入国手続きを任せたが、入国が遅れたのは別に彼女のせいではない。


入国する者が異常に・・・多かったのだ。


「まさか、勇者召喚が成功したとは⋯⋯」


そう、勇者召喚イベントだ。


異世界から来た勇者を一目見ようと、他国からの観光客やじうまがこの国に来ているらしい。その数は、馬車やら何やらが合計で数十メートルの列をなす程。


森から公道に向けての道のりは、魔物も何故か出ず比較的早く行く事が出来た。公道にやっと出た───そこで目の当たりにしたのだ、あの行列を。


(恐らく、勇者は日本から来た鈍感野郎だろうな⋯)


自分と同じ日に来るとは、何の因果だろうか。

もしかしたら、この国だけでなく他の国でも異世界転生者、転移者がいるのかもしれない。


ユウが心の中でため息をついた時、横から不穏な呟きが聞こえた。


「⋯⋯下等生物にんげんのくせに、主さまに手間取らせるとかぁ⋯⋯殺しちゃっていいかなぁ、いいよねぇ。ね、ノワールだってそう思うでしょ?」

「⋯⋯ダメだよ、モミジ。主様に言われたでしょ?騒ぎを起こしたら、怒られちゃうよ」


ボソッ、とイイ笑顔で呟くモミジに、同じく藍色の瞳を細め笑顔で応えるノワール。その笑顔から真意は見えない。


まるで幼子をあやすように言った後、ノワールは満面の笑みで言葉を続けた。


「それに、僕にとって人間は観察対象だからね。簡単に・・・殺しちゃあ、勿体ないよ」


じわじわ攻めるのが好きなんだ───⋯


モミジはその言葉を暫し反芻していたが、共感出来なかったのか、小馬鹿にした様に口角を上げて言う。


「ふぅん⋯⋯あたしにはわからないや、ソレ。相変わらずノワールは、優しい・・・なぁ⋯⋯。ま、かなり趣味悪いけどねぇえ?」

「⋯⋯褒め言葉として受け取っておくよ、ありがとう」


優しい・・・───それはただ単に、見方が少し違うだけの事。根本的には皆同じ──人間=下等生物──だと思っている。


〝人間に対してどう思うか〟


その質問を全員にした時、殆どが『抹殺対象』か『下等生物ゴミクズ』と似たりよったりだった。


他にも『実験対象』、さらには『下僕』とまともな認識がない中、最後に聞いたのがノワールだった。


その言葉が『観察対象』───観察用のモルモットだと言う。


直ぐに殺すよりは良いかもしれない、という間違った・・・・妥協がユウの心の中で渦巻いていた。


(⋯⋯だから本当はノワールでも心配なんだけど、私が歩き回るわけには行かないんだよなぁ⋯)


少し歩いた所でユウが立ち止まった。それと同時に他3人も止まる。

くるり、と振り返り、人々の喧騒の中ユウは小声で指示を出す。


「⋯⋯ノワールは街で情報収集、夜更けにはあの場所に戻ってきて。モミジとローザは、私と一緒に冒険者登録、三姉妹という設定でね。その後はこの街に何があるかを把握してから、宿に止まるから」


ユウからの指示に頷く3人。ノワールは一礼をしてから、人混みに紛れて行った。


それを見届けてから、ユウは広場に面したある通りへと、歩みを進める。門番の話によると、この先にイアストのギルドがある筈だ。


歩きながら、後ろから付いてくる2人に話しかける。


「一応、命令として言っておくけど⋯⋯主様呼びは禁止。私は妹という設定だから、呼び捨てでね」


それを聞いた2人から、直ぐに返事が返る。予想通りの言葉だ。


「そ、そんな恐れ多い事⋯⋯で、できません」

「流石に呼び捨ては⋯⋯」


命令・・、だよ。逆らうの?」


ユウはNPC達が〝命令〟という言葉に弱いということ、命令には絶対に逆らわないということを、今までのやり取りで十分把握していた。


卑怯なのは重々承知だ。


「そ、それは⋯⋯」

「⋯⋯命令に逆らうなんて⋯」


思惑通り、途端に2人の歯切れが悪くなる。後ろを振り返らなくても、2人の顔が青ざめていると分かった。


じゃあ呼び捨てでいいよね、と最後にユウが言うと、2人は蚊の鳴くような声で「はい⋯⋯」と応える。


それを聞いて、ゆっくりと振り返るユウ。その顔には、満足気な笑みが浮かんでいた。

ユウが口を開く。


「私の仮の名前⋯⋯いや、この世界での新しい名前は」


そこで言葉を区切る。

───そう。ここはもう、日本ではないのだ。


「ノア=ヴェーダ、それが私の新たな名前」




⋯⋯それは、日本の悠でもなく、CWOのユウでもない───この世界の魔族としての名前。


それは、ユウが〝ノア〟として生きるという決意の証。


それは、縛り。


それは⋯⋯やがて、人間としての心を封じるきっかけとなる。


史上最悪の希少魔族〝ノア〟───少女の皮を纏った悪魔⋯⋯そう呼ばれるのはまだまだ先の未来だ。


見切り発車、行き当たりばったりなのが当然⋯⋯そんな小説です、申し訳ない思いでいっぱいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ