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ガチャでUR種族を当てたら、異世界に飛ばされた  作者: 厠之 花子
序章:王国滅亡編
4/18

3.合流しました

つい長くなってしまい、テンポが悪くなるのが悩みです

国の外側、やや国から離れた所にある森の奥深く。鬱蒼と茂る木々の間で木霊する優しげな声。


「何なりとご命令を」


───⋯⋯やはりありえない。


改めて認識した現実に、ユウは思わず眉間にシワを寄せる。


目の前に跪く7名のNPC──⋯⋯いや、〝元〟NPCと言うべきか。

本物のNPCならば、跪くなどという行動はプログラムに入っていない筈だ。その上自分から話すのだから、やはりここはCWOの世界ではないと認識せざるを得ないだろう。


NPCに意志が宿った──苦労して作り上げたキャラだけに嬉しい反面、危惧するべき事もある。


(反旗を翻さなければいいんだけど⋯⋯忠誠心ってどれ位あるんだろうか⋯。1人ずつならまだしも、もし全員で攻撃されたらひとたまりもないな)


それぞれに深い思い入れがあり、且つ強力なNPCを創ったのだ。最早、我が子と言っても過言ではない。

⋯⋯そんな愛子と敵対するなどと、考えるだけでも震えが止まらない。


「主様?」


はっ、と顔を上げると心配そうな顔をしたノワールが、こちらを見ている。どうやら、深く考え込んでしまっていたらしい。

慌てて「大丈夫」と彼に応えるユウ。


街の中の時では、ちゃんと彼等が命令に応えてくれるかは心配だったが、待ち伏せたように国境の外で現れたあたり命令は守ってくれたようだ⋯⋯いきなり現れた時は驚いたが。


しかし、命令に応じてくれるからと言って忠誠心があるとは限らない。

不安は募るばかりだ。


(忠誠心はあると信じたいが⋯⋯彼等に意志が宿ってしまった以上、とにかく失望させないように振る舞わないと)


そっと気を引き締めたユウは、ぐるりと7名の元NPCを見渡し、口を開く。


「突然で悪いけど、皆に話がある」


ユウが話し始めた瞬間、7名の間に緊張が走った。


彼等にとって、主の言葉は神からのお告げ以上の価値があるのだ。当然誰もが皆、一言も聞き逃すまいと真剣に主を見つめる。


「まず、ここが何処か知ってる者はいる?」


もしかしたら、という期待を元に聞いた質問だったが、当然ユウと同時に異世界転移してきた為、知る者はいない。


静寂が広がる。


沈黙の末、代表としてノワールが口を開いた。


「⋯⋯申し訳ございません、ここを知る者はいないようです⋯我々の不甲斐なさをお許しください」


本当に悔しいようで、ぐっと握りしめられた右手からは僅かに血が滲み出ていた。他の者も同様だ。

だが、それも当然の事だろう。主の役に立つ事だけが存在する唯一の意義なのだから。


そんなNPC達の様子には気づかぬまま、「そうか⋯」とユウは押し黙る。

暫く考えた後、それぞれに指示を出した。


「じゃあリリィとヴァイスで、ここ周辺の地形とか生息する生物を調べてきて。⋯⋯出来る限り2人で行動、リリィの魔法でなるべく見つからないようにすること。万が一、見つかり攻撃されても、必要以上に手は出さず、逃げること⋯⋯いい?」


国外の事だけでいいから、とユウが指示を出したのは1人の少女と1人の少年。


「り、了解です」


吃りながらも答えた少女の名はリリィ、補助魔法特化型NPCである。黒いセーラー服を元にしてファンタジー風にデザインした魔法服で、なかなか可愛らしい。(因みに、この服はNPC専用ガチャで引いたものだ)


補助魔法特化型といえど、戦闘力がない訳ではなくソロでも活躍が見込める。


また、蘇生も行える貴重な人材だ。


ハチミツ色の緩く巻いた三つ編みと、目尻の垂れた桜色の瞳。始終オドオドとした態度とは裏腹に、たまに毒舌な面もある。


見た目は人間そのものだが、実は夢魔という悪魔の一種である。⋯⋯⋯ただし、本来の能力は人に悪夢を強制的に見させる程度だ。場合にもよるが、基本使うことはないだろう。


「⋯⋯⋯了解、です」


リリィに続いて少年が応える。


半開きの蒼瞳、基本無口でぼやっとした少年の名はヴァイス、白龍である。

その証拠に、肌の所々に生える白い鱗は光を受けて虹色に反射し、白いふわふわした髪からは小さな角が覗いている。


見た目は幼い少年でも、実年齢は千年以上。人型になれる滅多にお目にかかれない高ランクの魔物だ。


白龍といったドラゴンの類は〝神話上の生き物〟と位置づけられており、未だ存在ですら定かではない。

強さは言わずもがな。魔法は自然エレメント系が得意、さらに身体能力も高い。それは人化している今でも十分な程だ。


ユウが合図をすると、サッと2人の姿が掻き消える。どうやら行ったようだ。


「よし、あとは⋯⋯」


残ったNPCたちをぐるりと見渡すユウ。リリィとヴァイスが抜け、残るは5名。


「⋯⋯んーと」


この周辺の情報収集は2人に任せるとして、あとやるべき事は何だろうか。

〝衣〟は十分にある。〝食〟はあまり必要ない。


唐突に、はっと気づいた。生きていく上で足りないものがあるじゃないか。

そう、アレ・・は雨風を凌ぐ為だけにあらず。昔から権力の証としても利用され、その国の文化によって形が異なる。機能美だけでなく、芸術としての美も兼ね備えているアレ・・だ。


その名は───⋯⋯家。


「そうだ、家を作ろう」


どうして思いつかなかったのだろう。全員で野宿なんて、流石に無理がある。


「でしたら、私におまかせ下さい」


ユウの呟きを拾い、顔を上げたのは豊満な胸を持つ美女。はらり、菫色の長髪が垂れ、長い睫毛に縁取られた潤んだ瞳が露になった。

目元には泣きボクロ、艷めく桜色の唇は妖艶に弧を描き、微かな芳香と共に色気を漂わせている。胸元の開いたドレスが、また官能的だ。


彼女の名前は、ローザ。ノワールと同じ淫魔である。


「いやでも、これは私がやるべきじゃ───」

「⋯⋯⋯主様、ぜひ私に」


やけにキラキラ輝いている群青色の瞳にうっ、と言葉が詰まる。こう期待に満ちた瞳で見られると、どうしても断りづらくなってしまう。NOと言えない日本人の悲しい性だ。


確か、センスも悪くなかった筈だ───渋々と思い直したユウが、彼女に頼もうと口を開いた時だった。


「主さま!」


焦ったような⋯慌てたような声音で、手前から声が聞こえる。

見ると、彼岸花の簪を差した少女が顔を上げていた。


戦闘特化型NPC、モミジ。アンデットリッチと呼ばれる種族である。


くりん、とした朱色の瞳はイタズラっ子のように輝き、紅葉を思わせる髪色は鮮やかで、真横に一つ結んだ髪が風が吹くたびに揺れる。

名の通りの紅葉柄の着物は、戦闘がしやすいデザインで、長めの振袖が特徴だ。


こちらも何処からどう見ても人間のようだが、モミジはただ、可愛らしい少女の〝皮〟を被っているだけである。因みにこの〝皮〟は魔法道具マジックアイテムで、容姿ガチャという所で手に入れた物だ。


『アンデットになりたい⋯でも見た目が骨なのは嫌、しかも耐久力もないから何かで補いたい⋯⋯そんな貴方に!!』


そんな売り文句だった気がする。

耐久力も相当上がり、且つアンデットのデメリットである容姿も変えられる。一石二鳥だ。


実際、ユウも愛用していた。


(実は私のお下がりを、改めてモミジ用に設定しましたー⋯⋯なんて口が裂けても言えない⋯)


ユウが口元に苦笑いを浮かべた時だった───モミジが、爆弾発言をしたのは。


アタシの方が・・・・、そこの年増・・よりも上手く作れます!!」


「⋯⋯⋯⋯は?」


プツン、と何かがキレる音がした。


嗚呼、面倒臭い事になりそうだ───そう思ったのは、ユウだけでは無いだろう。


気づかれないようにため息をつき、ユウはローザを見る。


「⋯⋯あちゃー」


思わず、小声で呟いていた。


ゴゴゴゴゴ⋯⋯と、背景に効果音が見えるようだ。

主の手前、優しい笑みを浮かべてはいたが、よくよく見ると口元は引き攣り、こめかみはピクリと動いている。当然、目は笑っていない。


美人と普段怒らない人は怒ると怖い、とは誰が言ったものだったか。なかなかに的を射ている。


「なぁに?文句あるの、おばさん・・・・?」


わざとゆっくりとした口調で、ローザに向けて挑発した態度をとるモミジ。いつの間にか2人とも立ち上がっていた。


売り言葉に買い言葉。ローザも黙ったままではない。


十分・・に聞こえたわ、貧乳。貧乳ガキにはこんな重要な仕事、任せられないでしょう?さっさと引いてくれると嬉しいわ、ねぇひ・ん・に・ゅ・うちゃん?あら、男の娘だったかしら?」


言いながら自分の胸を強調するかのように、重量をもったソレ・・を腕で押し上げる。

勝ち誇ったような笑みを浮かべるローザに、モミジも口元が引き攣った。

負けじにぼそりと呟く。


「⋯⋯阿婆擦れが」

「ああ゛?ガキが生意気言ってんじゃねぇよ」


ニコニコと不気味に笑う2人の視線か交わり、バチバチと火花が散る。

2人の生みの親であるユウは、苦笑いを浮かべるしかなかった。


───こんなに仲が悪いとは⋯⋯そんな事設定した覚えはないんだが⋯。


NPC同士言葉を交わす事のないCWOでは、まず見られない現象に、驚くユウ。

それでも、これは止めた方がいいと本能が悟った。


「ちょっと、2人とも──⋯⋯」


口喧嘩はやめて、とユウが言おうとしたその時。


「⋯⋯貴方達、主様の御前で見苦しい真似は止めなさい」


───⋯⋯ゾクリ


無機質な冷たい声。


その声はその場にいた者を、冷水を浴びせられたような感覚に陥らせた。


⋯⋯口調は丁寧なものの、その響きには有無を言わせないものがある。


切れ長の紫紺色の瞳は鋭い光を宿し、鼻筋の通った顔には一切の表情がない。無言の圧力というものだろうか。2人の行為に対しての静かな怒りが、ひしひしと伝わってくる。


戦闘兼頭脳担当、シュヴァルツだ。魔族の中でも高位の純粋な悪魔族の1人である。

他のNPCと同様に人化しているのて、見た目は人間にしか見えない。ビシッとした黒スーツを着こなす彼は、黒縁の四角いフレームの眼鏡と相まって、まるで何処かのエリート社員のようだ。


その鋭い視線を2人に向けて、言った。


「その上、主様の許可なく立ち上がるなど言語道断」


シュヴァルツの冷たい言葉に、やっと自身が立っていることに気づいた2人は青ざめ跪く。


「「申し訳ございません!!」」


口を揃えて謝罪した、そのどちらの肩も僅かに震えている。


主の前だというのに、言い合いに白熱し我を忘れるという大失態を演じてしまったのだから、当たり前だろう。

当然ながらこれは許されざること、シュヴァルツ以外のNPCも口には出さないものの、ふつふつと湧き上がっているであろう怒りは感じられる。


(あーそこまで言っちゃう?2人ともめっちゃ怖がってるじゃんか⋯もう少し優しく言った方が⋯⋯それ以前に注意しなくたっていいのに。何故、立ち上がるのに許可がいるんだ⋯)


しかし、当の本人ユウは全く気にしていない様子。驚く事に、2人がシュヴァルツを恐れているという勘違いまで起こしている。


(そもそも私は、主なんて器じゃないんだよなぁ⋯確かに創ったけども)


どう頑張って見ても、頂点に立つ主君には程遠い存在だろう。贔屓目で見てもせいぜい後輩だ。


それもその筈、異世界ここに来る前は平々凡々な一般人。寧ろ、この様な扱いを受けて戸惑いを覚える程なのだ。


とんでもなく重い役になったな⋯と今更ながらため息をつくユウ。その仕草には、意志を持った者をまとめる事への難しさに対する複雑な気持ちが、見て取れた。


「2人とも大丈夫だよ、仕方ないと思うし⋯私は何も気にしていないから」


ユウがそう声をかければ、驚きの表情を隠せない様子で2人が顔を上げる。


「⋯主様、お許しくださるのですか!?」

「⋯あんな不敬をしたのに⋯主さまは許してくださるなんて⋯⋯」


表情を見る限りでは、心の底から感動しているようだ。2人だけでなく、他のNPCも納得するかの様にうんうん、と頷いている。

NPC達からの熱い視線を微笑で受け止めながらも、ユウの内心は戸惑いで溢れていた。


(何故に!?何で『偉大なる主様は寛大な心をお持ちだ』みたいな空気になってるの、ねえ!?)


ただ安心させたかっただけなのに、何故か・・・誇大評価されている。

一体彼らの中で、私はどんな存在なんだ、とユウは声を大にして聞きたかった。しかし、ここはぐっと堪える。今、聞くことではないだろう。


(この先上手くやっていけるかな⋯今までに類を見ない性格の類いだけど⋯⋯ものすっごく不安だ)


そんな心の中とは違い、現実ではポーカーフェイス。余裕そうな笑みを浮かべて、次の指示を出す。


───⋯⋯モミジとローザを組ませたら、また喧嘩になるだろう。いや、きっとなる。

ならば、他の者に任せた方が良い。


ユウは今日初めて声を交わすであろう者に、目を向けた。


「家造りは、ラーヴァがやってくれる?」

「はっ、仰せのままに」


即座にそう言って深く頭を下げたのは、口元に不敵な笑みをたたえた青年。

赤色のピンを止めた銀髪の毛先を遊ばせ、赤黒い色をした瞳の奥に妖しい光を灯す彼は、真祖の吸血鬼である。その証拠に、笑みを浮かべる口元からは鋭い犬歯が覗いている。


吸血鬼といっても、日光に弱い訳でも、ニンニクが苦手な訳でも、銀製品が弱点な訳でもない。ましてや、トマトジュースを血の代わりに飲む⋯なんていう事は決してしないだろう。


かなりの野菜嫌い(という設定)なのだから。


魔族の中でも高位に位置する純血の吸血鬼は、混血に比べ、高い戦闘能力を持つ。⋯⋯CWOでもこの種族は人気だった。やはり、厨二心が疼くのだろうか。


そんな種族の頂点に立つのは〝真祖〟の吸血鬼。吸血鬼故の弱点は全て克服し、さらには普通種よりも強化されている。⋯⋯それがこの男なのだ。いくら軽そうに見えても、実力は計り知れない程ある。


ラーヴァの返事を聞くと直ぐに、ユウは懐から巻物の様なものを取り出した。


「これは、誰でも好きな建物を簡単に作れる魔法道具マジックアイテム。ここに部屋数とか、造りとか、こんな見取り図だとか⋯色々書いた後に、必要材料を揃えれば希望通りの建物ができるから、これを使って」

「⋯ありがたき幸せ」


ラーヴァが恭しく、巻物を受け取る。まるで割れ物を扱うかのような慎重さで、懐にしまった。


⋯⋯だが、本来それは丁重に扱う程、価値のある物ではない。むしろ、運営がことある事に無料配布していたものだ───それも結構な頻度で。因みに、アイテムガチャのハズレ枠の1つである。正式名称は『建築くん』

ユウは、建築くんコレを数えきれないほど持っていた。


しまい終わるのを見図って、ユウは指示出しを続ける。


「設置場所は森の奥深く、人間が来れないような場所がいいかな。それと建物の高さは木を超えないように。部屋に関しては、8人全員が住むときに必要だと思われる部屋を自由に作っていいよ。一応、シュヴァルツと一緒に決めてね。シュヴァルツ、いい?」

「承知致しました」


シュヴァルツの返事に満足気に頷くと、再び話し始める。


「雰囲気とかもそのアイテムに書き込めば、合わせて家具も自動でセットされるから、家具を買いに行くとかはしなくていいよ。それに完成した後でも、色々付けたしは出来るしね」


そこで、ユウは一旦言葉切る。


「ローザとノワール、あとモミジは別の仕事⋯というか大事な役割がある⋯⋯近くの国の中での、ね」


ユウの瞳が楽しげに、輝いた。


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