番外編 「夏祭り」
夏祭りが近づくと、いつも思い出す。
プラモ好きの親友、涼介。
近所の模型屋のお姉さん。
そして――模型屋で、いつも楽しそうに笑っていたお兄ちゃん。
夏祭りの夜。 神社裏で交わした、四人の約束を。
夏休みも終わりが近づいた頃。
康太は、涼介、美琴、アカネと一緒に夏祭りへ来ていた。
事の発端は、アカネが「夏祭り行きたい!」と騒ぎ始めた事だった。
「夏休み終盤までプラモばっかとか青春終わってんでしょ!!」
そんな事を言いながら、プレハブへ転がり込んできたのである。
「うるせぇなぁ……。」
康太は呆れたように笑った。
「まぁ、一応完成はしたしな。追加のウェザリングは後でも出来る。」
そうして結局、四人で祭りへ行く事になった。
待ち合わせ場所は、神社近くの商店街。
提灯の灯り。 屋台の匂い。 遠くから聞こえる祭囃子。
夏の夜は、まだ少しだけ蒸し暑かった。
「おっ、美琴! 浴衣似合ってんな!」
待ち合わせ場所へ現れた美琴を見て、康太が笑う。
淡い水色の浴衣。 髪も、いつもより少しだけ丁寧にまとめている。
「そ、そうかな……? ありがとう。」
美琴は少し照れながら、小さく笑った。
そして。
「なぁ、涼介君!」
くるりと振り返る。
急に話を振られた涼介は、一瞬だけ動きを止めた。
「あ、あぁ……。」
視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに呟く。
「……まぁ、似合ってると思う。」
「涼介君……。」
美琴が嬉しそうに笑った。
――あぁもう。
こいつら早く付き合えよ。
康太は心の中で深いため息をつく。
「おい。」
後ろから、低い声。
「アタシも浴衣なんだけど?」
振り返ると、アカネがジト目でこちらを睨んでいた。
「無視してんじゃないっつーの。」
黒を基調にした派手めの浴衣。 髪型も、ネイルも、いつも以上に気合いが入っている。
「あー、はいはい。似合ってる似合ってる。」
康太は適当に手を振った。
「雑ッ!!」
アカネが即座に噛みつく。
「もうちょい感想とかない訳!?」
「いや、普通に可愛いって。」
「……っ。」
一瞬だけ、アカネが言葉に詰まった。
「……急にちゃんと言うなバカ。」
ぷいっと顔を逸らす。
その反応を見て、美琴が小さく吹き出した。
「なんだよ。」
「いや、なんでもない。」
夏祭りの喧騒の中。
四人は、いつもの模型部みたいに笑っていた。
今の模型部は、一年だけで四人。
去年までは、部員が誰もいなかったらしい。
それでも。
学校外れのプレハブ小屋は、ずっと残っていた。
棚に並ぶ完成品も。 古びた工具も。 机に残った傷も。
何年も前の部員達が残したまま――ずっと。
そして。
その理由を、俺と涼介は知っている。
それは――
まだ俺達が、小学生だった頃の話だ。
ーーーーーーーーーーーーーー
ー夏祭り前日ー
少年の康太は、涼介と一緒に岩崎模型店へ遊びに来ていた。
店の前には、祭り用らしい段ボールが山積みになっている。
駄菓子。 花火。 そして――大量のプラモデル。
換気扇の音が響く店の中には、いつものシンナーの匂いと、少しだけ夏祭り前の浮き足立った空気が混ざっていた。
「おっちゃーん! 明日、イワサキもなんかやるの!?」
康太がカウンターへ身を乗り出す。
すると店の奥から、豪快な笑い声が返ってきた。
「おっ、また来たかガキ共!!」
俺達が“おっちゃん”と呼んでいるのは、岩崎模型店の店主。
京子さんの親父さんだ。
「明日は引っ張りくじやるぞ!!」
おっちゃんは得意げに胸を張る。
「特賞は大将軍三体セットだ!!」
「マジで!?」
康太の目が一気に輝いた。
「絶対当てる!! なぁ涼介!!」
その横で。
「ミリタリー系は?」
涼介も珍しく目を輝かせていた。
「零戦とか、キングタイガーとか入る?」
「おう、入れるぞ!!」
おっちゃんが豪快に笑う。
「まぁ、ハズレは駄菓子だけどな!! ガッハッハ!!」
その笑い声が、模型店いっぱいに響いた。
俺達は、この店の空気が好きだった。
古い棚。 山積みの箱。 シンナーの匂い。 ずっと回り続けてる換気扇。
ここへ来ると、 学校とも家とも違う、“秘密基地”へ来たみたいな気分になれた。
――その時だった。
「それ、俺が全部もらうぜ。」
後ろから声がした。
振り返る。
そこにいたのは、模型屋でよく見るお兄ちゃん――西田だった。
「ちょっと待てよ!!」
康太が即座に食いつく。
「全部って、全部引く気かよ!?」
「大人の財力なめんな。」
西田はニヤリと笑った。
たしか、西田は去年大学を卒業して、地元の高校で先生を始めたって聞いた事がある。
「先生が子供の夢奪うなよ!!」
「西田君! さすがにそれは康太が正しい!!」
おっちゃんまで加勢する。
「冗談ですよ、冗談。」
西田は肩をすくめた。
でも。
その目は、全然冗談じゃなかった。
「でも……。」
西田は、くじ用の箱をじっと見ながら口を開く。
「大和とか金剛も入れるんですか?」
その瞬間。
また目が“狩人”になった。
「それなら本気で引きにいっても……。」
「ガッハッハ!! 残念だったな!!」
おっちゃんが豪快に笑う。
「船は箱がデカすぎる!! 今回は入れん!!」
「あぁ〜……。」
西田が本気で残念そうに肩を落とした。
その後ろで。
涼介も少しだけ残念そうな顔をしていた。
「涼介、お前ホントなんでも作りたいんだな!」
康太が呆れたように笑う。
すると涼介は、真っ直ぐ棚を見ながら言った。
「作れる機会があるなら、なんでも作りたい。」
そして。
小さく胸を張る。
「俺、プロモデラーになるから。」
数秒。
店の中が少し静かになった。
「プロモデラーは厳しいぞ〜?」
西田が苦笑する。
「俺も昔なろうと思ってたけど、無理だった。」
「先生の方が、全然楽だったよ。」
でも。
「いや、絶対なる。」
涼介は譲らなかった。
あの時の涼介は。
夏祭りの提灯より、ずっと眩しく見えた。
その時だった。
店の外から、自転車のブレーキ音が聞こえてきた。
キィッ――
「なんだ、ガキ共。また来てんのか〜。」
聞き慣れた声。
振り返ると、そこには自転車へ跨った京子さんがいた。
コンビニ帰りなのか、制服の上へ薄いパーカーを羽織っている。
「研二も一緒になって、なに騒いでんのよ。」
「おぅ、京子。」
西田が軽く手を上げた。
「「京子さん!」」
俺達も思わず声を上げる。
すると、おっちゃんが店の奥から顔を出した。
「京子! バイト終わったなら店番手伝え!!」
言うや否や、店先へ積まれた景品用のプラモデルを整理し始める。
「俺は明日の準備で忙しいんだよ!!」
「えぇ〜……。」
京子さんは呆れたようにため息をついた。
「今さっきまでコンビニでレジ打ってたんだけど?」
それでも文句を言いながら、自転車を降りてカウンターへ座る。
「まぁ、いいけどさ。」
その動きは、もう完全に慣れたものだった。
「で?」
京子さんが頬杖をつきながら、俺達を見る。
「あんたら三人揃って、明日の偵察?」
そして、おっちゃんの方を親指で指した。
「ちなみに、お父さんのくじは結構渋いよ〜。」
「おい!! バラすんじゃねぇ!!」
店先から、おっちゃんの大声が飛んでくる。
「当たり増やさなきゃなんねーだろーが!! ガッハッハ!!」
……バラされなかったら、当たり少なくする気だったのかよ。
俺達は顔を見合わせた。
そんな騒がしい空気の中。
「京子。」
不意に、西田が口を開いた。
「ん?」
京子さんが顔を上げる。
西田は、少しだけ真面目な顔をしていた。
「明日さ。」
「祭りの店番、一段落したら……神社まで来てくれないか?」
「大事な話がある。」
さっきまでの軽い空気が、少しだけ静かになる。
京子さんは数秒考えたあと、小さく肩をすくめた。
「あ〜……いいよ。」
「神社ね。」
それだけ言って、また頬杖をつく。
でも。
西田はどこか安心したみたいに、小さく笑っていた。
俺達は顔を見合わせる。
そして――
「……おい。」
康太が小声で呟いた。
「絶対プロポーズだぜ。」
「冷やかしに行くか。」
「その前に、くじ引いてからな。」
涼介が真顔で返した。
ー夏祭り当日ー
賑わう商店街。
打ち上がる花火。
喧騒の中へ混ざる、祭囃子の音。
夏の夜は、人と熱気で溢れていた。
そんな中。
俺と涼介は、全力で商店街を走っていた。
目指す先は、もちろん岩崎模型店だ。
俺の手には、親からもらった二千円。
くじは一回三百円。
つまり六回引ける計算になる。
でも。
今日はそれだけじゃない。
ポケットの中には、貯金箱を割って持ってきた小銭も入っていた。
五十円玉。 十円玉。 五円玉。
多分、全部で百円くらい。
つまり――七回引ける。
「涼介、いくら持ってきたんだっけ?」
走りながら聞く。
「三千。」
涼介は息も切らさず答えた。
「親から二千円。」
「あと千円は、この日のために貯めてた。」
「マジかよ……。」
十回引ける計算だった。
かき氷。
フランクフルト。
焼きそば。
イカ焼き。
祭りには誘惑が山ほどあった。
でも。
俺達は、全部我慢していた。
今夜の目的は、たった一つ。
イワサキのくじを引く事。
それだけのために、俺達は小遣いを握り締めて走っていた。
イワサキへ着いた頃には、店の前はもう子供達でごった返していた。
「くじくださーい!!」
「やった!! プラモだ!!」
「また駄菓子〜!?!?」
店先は、そんな声で溢れている。
おっちゃんも、京子さんも、忙しそうに店の中を走り回っていた。
景品の箱を運び。 レジを打ち。 くじを補充する。
いつもの模型屋なのに、今日はまるで戦場みたいだった。
そんな騒ぎの外れで。
「ふぅ……。」
西田が、大きな箱を抱えながら一息ついていた。
「お、お前らか。」
俺達に気づくと、ニヤッと笑う。
「残念だったな。」
そして、抱えていた箱を見せつけるように持ち上げた。
「1/32の零戦は、俺が頂いたぜ。」
「うわぁッ!!」
思わず声が出た。
デカい。
めちゃくちゃデカい。
その横で。
涼介は、ずっと箱を見つめていた。
悔しそうに。
でも、羨ましそうに。
そして――
「俺が大将軍セット引いたら、それ交換してくれよ!!」
涼介が真っ直ぐ西田を見る。
西田は少し驚いたあと、楽しそうに笑った。
「大将軍セットか……。」
「いいぞ。」
「引けたら、交換してやる。」
「絶対当てる!!」
涼介は即答した。
そして勢いよくカウンターへ向かう。
「おっちゃん!! くじ一回!!」
「おう!!」
おっちゃんも豪快に笑い返す。
涼介は、真剣な顔でくじ箱へ手を突っ込んだ。
まるで、本気の勝負でもしてるみたいだった。
涼介、最後の一回。
今まで引けたのは、駄菓子六個に八百円から千二百円くらいのプラモ三個。 充分すぎるくらい当たりだった。
それでも。 涼介が欲しかったのは――大将軍三体セット。
涼介は祈るみたいに、最後のくじを引いた。
「っだぁ!!」
勢いよく開き、おっちゃんへ突き出す。
「おっ! 四個目のプラモじゃねーか!!」 「運いいなぁ、お前!」
最後に当たったのは、五百円の旧キットだった。
「…………。」
涼介は、その箱を見つめたまま黙り込む。
一方の俺は、七回引いてプラモ一個。 でも、その代わり引き当てたのは二千五百円くらいするマスターグレードだった。
数は少ない。 だけど充分大当たりだ。
「……涼介。」
目当てを引けなかった親友を見る。
「でもよかったじゃねーか!」 「おっちゃんのくじで半分近く当たり引いてんだぜ!?」 「普通にスゲーって!」
「………ッ。」
涼介は俯いたまま喋らない。
その時だった。
「男の勝負だ。」 西田が、静かに口を開いた。
「これは交換できねぇ。」
そう言いながら、箱の零戦を軽く叩く。
「だけど。」 「今引いたそのプラモで、モデラーとして腕上げてこい。」
「それで、自分で買えるようになってから。」 「これと同じ零戦を作って、俺に見せてくれ。」
西田は少しだけ笑った。
「それまで、作らずに取っとくからさ。」
「プロモデラーになるんだろ?」
「プロを諦めた俺に。」 「その零戦の作り方、教えてくれよ。」
涼介は目を見開いた。
そして次の瞬間。
「俺……ッ。」
ぐしっ、と乱暴に目を擦る。
「俺、絶対あんたが驚くような零戦作るから!!」
「絶対作るから!!」
夏祭りの喧騒の中。
涼介の声だけが、やけに真っ直ぐ響いていた。
「さて……と。」 西田が伸びをしながら言った。
「もうくじも終わりだな。」 「結局、大将軍セット出るのか? あれ。」
その時だった。
カランカランカラ〜ン!!
突然、おっちゃんが鐘を鳴らした。
「おめでとーっ!!」 「特賞! 大将軍三体セット出ましたーっ!!」
店の前にいた子供達が一斉にざわつく。
「よかったな、坊主!!」
おっちゃんは、一番上へ飾ってあった大将軍セットを、小さな男の子へ手渡した。
「うわぁ……!!」
男の子は、箱を抱えながら目を輝かせている。
その横には、俺達と同じくらいの女の子が二人いた。
片方は、その男の子と手を繋いでいる。
「スゴっ! よかったじゃん!!」
もう一人の女の子が、嬉しそうに声を上げた。
すると、姉らしい方の女の子が胸を張る。
「あんたじゃまだ作れないから、アタシが作ってあげるよ!!」
「家帰ったら、すぐ箱開けよ!!」
「ミコ!」 「アタシの弟すごくない!?」
「うん!」 「すごい!! よかったね!」
三人は、大将軍セットを大事そうに抱えながら、楽しそうに祭りの人混みへ消えていった。
「…………。」
涼介は、その背中を少しだけ見つめていた。
一番の大物がなくなり、 少しずつ人もまばらになり始める。
その時。
「京子!!」
西田が店の奥へ向かって声を上げた。
「昨日の約束、覚えてるか!!」
忙しそうに動き回っていた京子は、振り返らずに片手だけ上げる。
「分かってるって。」
「じゃあ、また後でな!!」
西田は笑いながら手を振ると、そのまま祭りの喧騒の中へ消えていった。
くじも終わり、 イワサキから少しずつ人が散っていく。
店先の提灯だけが、まだぼんやり光っていた。
そんな中。 京子さんが、一人で神社の方へ歩き出す。
「行くぞ。」
俺達は顔を見合わせ、小声で頷いた。
昨日、西田が言っていた“大事な話”。
絶対、プロポーズだ。
それを冷やかすために、 俺と涼介は京子さんの後をこっそり追いかけていた。
祭りの終わった神社は、昼間までとは別の場所みたいに静かだった。
屋台は片付けが始まり、 石段には紙コップや割り箸が少し落ちている。
遠くからは、祭り後の宴会なのか、 大人達の笑い声だけが微かに聞こえてきた。
その時だった。
神社裏の方から――
「嫌だっ!!」
京子さんの声が響いた。
普段聞いたことのないくらい、大きな声だった。
俺と涼介は思わず足を止める。
さっきまでの祭りの空気が、 一瞬で消えた。
俺達は、物陰から二人の会話を聞いていた。
「なんで!?」 「なんで、あの部室が取り壊されなきゃなんないの!?」
京子さんが、西田へ詰め寄る。
「あそこ、みんなの思い出が詰まった場所じゃん!!」
「あたし達のプラモだって、まだ置いてあるんだよ!?」
「……分かってるよ。」
西田は俯いたまま答えた。
「でも。」 「俺が教師として入った時には、もう模型部は誰もいなかったんだ……。」
苦しそうな声だった。
「俺だって。」 「出来るなら止めたいよ。」
握り締めた拳が、小さく震えている。
「研二……。」 京子さんの声が弱くなる。
「ほんとに、どうにもならないの……?」
その目には、涙が浮かんでいた。
「…………。」
西田は答えない。
ただ、悔しそうに顔を背けるだけだった。
その時だった。
「俺達がその高校で模型部に入る!!」
「「――ッ!?」」
俺と涼介は、物陰から飛び出した。
突然現れた俺達に、 二人が同時に目を見開く。
俺は、そのまま叫んだ。
「俺達が高校生になったら、絶対その高校入って模型部作るから!!」
「絶対模型部盛り上げるからさ!!」
「だから、部室潰さないでくれよ!!」
息が苦しい。 でも止まれなかった。
「俺達、京子さんと西田がいた模型部見てみてーよ!!」
「二人が作ったプラモだって見てみてーよ!!」
すると今度は、涼介が前へ出る。
「あんた!!」
西田を真っ直ぐ指差した。
「俺に零戦見せろって言ったじゃねーか!!」
「あんたが先生で!」 「俺が模型部で!」
「それ以外に、どこで見せりゃいいんだよ!!」
涙を浮かべながら叫ぶ。
「先生が、生徒の居場所無くすんじゃねーよ!!」
「「俺達に!!」」
「二人の部活してた場所、見せてくれよ!!」
祭りの終わった神社に、 俺達の泣き声だけが響いていた。
数秒。
静寂。
そして――
「……っ、フ。」
西田が吹き出した。
「ハハハ……。」
京子さんも、涙を拭いながら笑っている。
「研二。」 「こりゃ、あんた。」 「あそこにいる以上、潰せないね。」
西田は、自分の頬をパンッと叩いた。
「……よし。」
「もう一回、学校に掛け合ってみる。」
そして俺達を見る。
「あと、部員がいなくても。」 「俺が顧問として籍を置き続ける。」
「それなら、簡単には潰せないだろ。」
西田は少しだけ笑った。
「――未来の部員もいることだしな。」
京子さんの目には、もう涙はなかった。
「涼介。」 「康太。」 「……そして、研二。」
「頼むよ。」
「あたし達の大切な場所、守ってね。」
そして、小さく笑う。
「あたしも。」 「あんた達の好きな模型店、守るからさ。」
祭りの残り香が漂う神社の裏。
そこで俺達は、 絶対に破れない約束を交わした。
ーーーーーーーーーーーー
あれから五年。
今も、模型部は続いている。
俺達は約束を果たした。
あの高校へ入学し。 あのプレハブで。 模型部をやっている。
京子さんも、岩崎模型店を守り続けていた。
コンビニのバイトを辞め、 初心者教室を始め、 今では模型店一本で店を回している。
そして西田は―― あの後、本当に学校へ猛抗議したんだろう。
プレハブは残った。
部員がいなくなっても、 意地みたいに顧問を続けながら。
今の模型部は、一年だけで四人。
去年までは、部員が誰もいなかったらしい。
それでも。
学校外れのプレハブ小屋は、ずっと残っていた。
棚に並ぶ完成品も。 古びた工具も。 机に残った傷も。
何年も前の部員達が残したまま――ずっと。
そして、これからも。




