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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第二部 言霊の幸わう国
60/68

ワイズマンズレポート『言霊の幸わう国』



 ワイズマンズ・レポート。

 謎解きをメインとした魔法士同士の勝負で、出題側と回答側に分かれる。そのゲーム形式は多岐にわたるが、クリア条件を満たせば回答側の勝ち、条件を満たせず回答側が敗北条件を満たした場合は出題側の負け、というのが基本的なルールだ。


 例えば今回は、八重コトヨが出題側。久能シオンが回答側である。


----------------------------------------------------

 ゲーム名『言霊の幸わう国』

 問題『天知ノリトの正体と、言霊とは何か』

 勝利条件『八重コトヨの納得する答えを提出する』

 敗北条件『八重コトヨが納得しない答えを提出する』


 ルール

・回答側は出題側に質問をすることが出来る。

・出題側は質問に対して正確な事実を答えなければならない。

・質問をひとつするごとに、回答側は蔦葛による拘束が強くなる。

・回答は一度のみ。

-------------------------------------------------------


 ゲーム形式としては、ワイズマンズレポートとして認められる要素を満たしているが、肝心の勝利条件がひどすぎる。


「……こんな酷い勝利条件、運営に提出しても認められないぞ。絶対に怒られる」

「かかか! そりゃすまなんだ。ここでは儂がルールじゃ。許せ」


 あっけらかんと言い放つ人外の女は、試すように上から見下ろしてくる。

 文句を言ったところで解決しないので、シオンは気持ちを入れ替えて人外に向き直る。


「質問だ。『正体』といっても、漠然としすぎている。その定義を教えて欲しい」

「ふむ、ポロリとヒントでもこぼれないかと思っておるな。そうは乗らんぞ。『正体』という言葉の定義そのままじゃ。それで十分ヒントになる」


 シオンの身体をまとうツタが少し窮屈になる。細いもので圧迫される痛みに顔をしかめる。なるほど、これが強くなっていけば、やがて絶命して霊子体が解除されるだろう。


 それを意識しながらシオンは考える。

 正体という言葉の定義。

 正しい姿――つまり、何かが隠されている。


 天知ノリトという存在は天知家の秘蔵っ子という話だ。その詳細は謎に包まれている。今回、直接相対することで彼が高度な言霊使いであることが判明したが、それ以外は不明だ。

 つまり、彼がそれほどの【言霊】を使うだけの理由がある。


「次の質問。天知ノリトの正体と、言霊は密接な関係があるのか?」

「ある。故にこの出題じゃ」


 今度は真顔だった。

 シオンは首が締まるのを感じた。すぅっと血の気が引いていく。

 頭に血が回らないのは困る。焦燥感を覚えながら、シオンは必死で思考を回転させる。

 そんな必死な様子を、八重コトヨはニヤニヤと笑いながら見つめている。


「のんびり考えておるようじゃがの。シオン坊よ」

「……なん、だよ」


 今は余計なことを考えるだけの余裕が無い。

 すでに息は苦しく、身体がかすかに痺れ始めている。目がチカチカする中、なんとか八重コトヨの姿に焦点を合わせる。

 そんなシオンに対して、彼女は試すような笑みと共にその事実を口にした。


「あまりのんびりしていると、ノキア嬢が危険かもしれんぞ?」

「――――」


 もしかしたら、ただのブラフなのかもしれないが、シオンが八重コトヨと対峙している以上、ノキアがノリトの相手をしている可能性は十分に高い。

 それを指して、コトヨは「危険」と言った。


「そう、か」


 ならば、危惧していた『可能性』は、向こうもきっちり意識しているということだろう。

 シオンの眼の色が変わる。目標となる地点を見据え、シオンは静かに心を燃やす。


「質問――天知ノリトは自分の正体を知っているのか?」

「具体的には知らんが、言霊の『意味』は知っているな」

「質問。それは『言霊の幸わう国』という名称の意味であるか?」

「ふむ。残念じゃが、正確な回答が出来ないためその質問には答えられん」

「質問。天知家初代は、神代の人間か?」

「む、……そうじゃな。それもまた、正確な意味で答えることが出来ん事柄じゃ」

「質問。神咒宗家は、神代から続く血族であるというのは本当か」

「それもじゃ。答えられない」

「しつ、もん――」

「お、おい、シオン坊?」


 拘束が強まり、意識が飛びかけるが、それを気合で繋ぎ止める。

 シオンの自殺まがいの行動に、意外にもコトヨが動揺を見せる。その様子を気分よく思いながら、シオンは拘束が強まるのも気にせずに質問をぶつける。


「天知家の直系血族――()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……それは、()()()()()

「質問。天知ノリトは人間であるか?」

「そうだ。人間であることは間違いない」

「質問。では、天知、のり……」


 拘束が強くなりすぎて息ができなくなる。

 まずいと思いながら、シオンは体中に魔力を張り巡らせた。そこを通り道として大地のマナを取り込み、首のあたりを防御する。


「が、はぁっ。はぁ、は」


 こんなものは応急処置でしかない。すぐにまた、首は締まるだろう。

 それだけではなく、身体はすでに限界まで締め付けられて鬱血していた。あと少しで皮膚を切り裂き、血が吹き出しそうである。

 そんな状態でも構わずに、シオンは質問を向ける。


「は、ぁ。質問、だ。天知ノリトは、人間以外の、何かではないか?」

「坊主よ。それ以上は」

「うる、さい! いいから答えろよ『代理人』。こんなの、なんてことない。国を譲るのに比べたらどうってことないだろ? なぁ、売国奴!」

「……吠えるのう。いいじゃろう、後悔するなよ、人の子よ」


 顔から表情を消し、能面のような様子で彼女は答える。


「その質問は答えることができない。――正確な回答が出来ないためじゃ」

「なら……これは。どうだ」


 おそらく、これが限界だ。

 血反吐を吐きそうになりながら、シオンはまっすぐに、神話へと挑む。


「質問、天知ノリトは、海外においても、同じレベルで言霊を扱えるか?」

()()()()()()


 回答は間髪入れずに行われた。

 それを答えた女は、まるで観念したかのように付け加えた。


「アヤツの言霊は日本以外じゃと力が弱まる。やつの全能はこの国限定じゃ」

「そう――か」


 首がしまる。身体が締め付けられる。皮膚が切れ、血がにじむ。すでに頭には血が足りない。酸素が上手く供給されない。気が遠くなる。体力以前に人間の身体的な問題で死にかける。

 それでも――一手だけ、こちらが勝った。


「回答」


 肺にありったけの空気を取り込んで、シオンは一息に言い切った。



「天知ノリトは現人神(あらひとがみ)。言霊の幸わう国とは日本のことであり、転じて天知ノリトのこと。『言霊』とは『祝詞(しゅくし)』、すなわち『祝詞(のりと)』。天知ノリトが口にする言葉こそが『言霊』である。そうだろう? 事代主神(ことしろぬしのかみ)!」



 瞬間――空間がはぜた。

 お社だった風景は一変し、高層ビルの立ち並ぶ都会の情景へと移り変わる。


 シオンの身体を拘束していた蔦葛も、いつの間にか消え失せていた。体中に走るひも状の鬱血の跡と息苦しさだけが、先程までの拘束を証明していた。

 急に呼吸が楽になったことでシオンは咳き込んでその場に伏せる。

 そんな彼を見下ろしながら、八重コトヨは一言。


「【傷を治してゆけ。人の子よ】」


 その【言霊】と共に、シオンの身体の怪我が治っていく。

 カニングフォークによって傷ついた右腕すらも、動かないが形だけは元に戻っていた。


「応急処置じゃ。さすがに体力は戻らんし、その右腕は、今は元通りとはいかん」

「……どういうつもりですか」

「言うたじゃろう。納得する答えを出せば、お主の勝ちじゃと」


 微かに顔を微笑ませながら、彼女は言う。


「よもや、あのような力技をかけられるとは思わんかったがのう。思った以上に早く回答されて、儂の威厳も形無しじゃ。まあ、儂の名前まで出されたら、認めるしかあるまいて」

「…………」

「行くが良い。儂は敗北じゃ。居ないものとして扱うが良い」


 佇むコトヨに対して、シオンは一礼すると、脇目もふらず駆け出した。


 その姿を見送りながら、コトヨはそっと、一言。


「それにしても、『代理人』に『売国奴』とは。人間風情が、ずいぶんとえげつないことを云うてくれるものよ」


 そうして、八重コトヨは自ら霊子体を消滅させた。



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