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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第二部 言霊の幸わう国
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扶桑の国の龍神


 久能シオンは身体を木の根に貫かれながら、鋭い視線で目の前の敵を見据えた。

 狩衣姿の女――それは、敵などと呼ぶのもおこがましいほど次元の違う相手である。


「お主の『竜』。姿を見たら、だいたい察しがついてきたぞ」


 八重コトヨは興味深いパズルでも解くように、シオンの魔法を解説していく。


「北欧の世界樹の名を使ったのは、元となる因子の力を薄めて扱いやすくするためじゃな? しかし、紐づける上でまったく無関係のものでは意味をなさん。すなわち、世界樹――神樹という要素は変わらぬと見える」


 コトヨは語りながら周囲に散らばった木の破片に目を落とす。それは久能シオンが作り出し、今しがた彼女によって砕かれたものだ。

 冷徹な視線は、観察によって形而下に在る事象を紐解いていく。


「神聖な木というのは世界中に存在する。しかし、世界そのものが木として扱われる事例となるとそう数はない。その中でも、儂にとって身近なのは『扶桑樹』じゃ」


 ミシリ――と、かろうじてシオンを守っていた右腕の樹木が軋みをあげた。


扶桑(ふそう)(くに)――もとは中華の伝承じゃが、その対象はこの日本、この土地こそが、扶桑の木であるとする考え方じゃの。つまり、そなたの竜は異国から見た日ノ本の伝承じゃ。さて。日の本の国における竜神伝承と言えば限られてくるのう。そなたの竜は樹木を操る。しかし、樹木そのものの竜神伝承は寡聞にして知らぬ。何処かにはあるかもしれぬがのう」


 竜の因子が断末魔を上げるように暴れる。それを、コトヨは言霊に寄って封じる。


「――では視点を変えてみようか。竜――『龍』とはそもそも信仰の対象である。では何を信仰している? 樹木が成長するには大地の恵みが必要じゃ。逆説的に、大地の恵みを体現した樹木を龍として崇める――つまり『大地を神格化したもの』じゃろうな。では、その恵みはどこから与えられる? 未開の土地を切り開き、発展途上で天災に抗うためには犠牲は避けられん。()()()()()()()()()()()()()――つまり、人身御供に寄って未開の地を切り開き、大地の恵みを享受する人民たち。それらが犠牲を忘れぬよう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――それがそなたの龍の正体じゃ」


 見事なまでに、丸裸にされた。

 シオンが身に宿す竜の名前は『扶桑(ふそう)(のくに)龍神(りゅうじん)』。各地に点在する昔話としての人身御供伝承。その人柱たちの恩讐こそが原典である。神格そのものを扱うだけの力がないため、シオンはその龍神を西洋の悪竜へと解釈を変え、更に世界樹の信仰によって性質を変化させていた。

 しかし、こうまで的確に見透かされるとは。


「は、ぁ――、さすが、自国のことはお見通しといったところですか」

「ほう。その様子じゃと、そろそろ儂の正体にも察しがついているようじゃな。しかし、まだ確信には至っていない。否、信じられないと言った方が正確かの?」


 八重コトヨは悠然とした態度で歩み寄ってくる。

 その妖艶に微笑む女の姿を懸命に睨みながらシオンは思い返す。

 狩衣に烏帽子という姿。出会った時に釣りをしていた姿。大事な決定のほとんどを彼女が代わりに行なった事実。さらには彼女も言霊を使った。そして、葛城の主という名称。極めつけは――八重コトヨという名前。


 要素だけつなげていくと正体はほぼ確定しているが、しかし一つだけ解せない点がある。


「……ぁ、ぐ。あなた、は、人間じゃ、ないんですか」

「かか。それは疑問に思うじゃろうな。そう、見た通り儂は『人間』としてここにおる。最も信じられんのも無理はないがの。――ふむ。では、その謎解きを含めてゲームをしようか」


 コトヨが腕を一振りすると、シオンの身体を貫いていた木の根が引いていく。

 代わりに、二人の周囲に細いつるのようなものが張られていく。蔦葛のツル。それらは、コトヨとシオンの身体を伝っていき、締め付けるようにまとわる。


「そうじゃのう。ウィザードリィ・ゲームに『ワイズマンズレポート』と言う種目があったじゃろう? 主宰が謎掛けをし、参加者が謎解きをする。そういった競技だったかの」

「……それが、どうしたって、言うんです?」

「儂とお主だけで、別のゲームをしようと提案しておるのじゃ」


 コトヨは周囲を見渡しながら、状況を楽しむように言う。


「この空間は、現し世から放たれた隠り世での。霊子庭園とも違う。観戦者からも見えん空間よ。無論、仲間の助けも期待するでない」

「つまり、僕一人でアンタを倒せって、ことか……」

「そうじゃ。しかし、力の差ははっきりとわかっておるじゃろう?」


 わかりきった事実を突きつけるように、コトヨは言う。


「なにせお主は、儂が『何をしたか』すらも認識できておらん。なにやら『言霊封じ』の策でも使っておるようじゃが、そんなものは効くはずもない。こればかりは、次元が違う話じゃからのう。『何かをした』ことを察しただけでも上等じゃ」


 だからこそ、まともに戦っても勝負にならない。

 八重コトヨにとって、シオンは羽虫同然である。羽虫では人間には敵わない。


「故にゲームじゃ。ルールは簡単。これから儂が出す問題に対して、儂を納得させる答えを出せればお主の勝ちとしよう。お主は儂に好きに質問をして良い。ただし、質問をひとつする度に、そのツタはお主の身体を締め付けるから、質問は計画的にすることじゃ」


 簡単じゃろう? と。軽い調子で言ってくれる。


「……それで。肝心の問題はなんだよ」


 もはや、敬語なんて使っていられない。

 彼女の正体が本当に想像通りならとんでもない不敬であるが、そんなことを気にする余裕はすでになかった。今は、気持ちを強く持たなければきっと折れてしまう。

 そんなシオンの様子が面白いのか、コトヨは可笑しそうに笑う。


「そう焦るでない。くく、存外余裕が無いのう、シオン坊」


 軽口を叩きながら、八重コトヨは、その『問題』を口にした。



「【天知ノリトの正体と、言霊とは何か】――ゲーム名はそうじゃのう……」


 にやりと、顔を歪めながら彼女は言った。


 ワイズマンズレポート。

 ゲーム名『言霊(ことだま)(さき)わう(くに)



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