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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第一部 まだ青き出藍の鏡
27/68

竜人を倒す作戦会議


------------------------------------------------‐‐‐‐‐‐

 魔法士・明星(みょうじょう)泰河(タイガ)

 魔力性質・固形

 魔力総量B 魔力出力B 魔力制御A 魔力耐性C 精神強度B 身体能力C 魔力感応B


 ファントム・千頭和(ちずわ)ナギニ

 原始『■■■■■■■』

 因子『人』『竜』『蛇』『天候』『毒』『翼』『火』『捕食』『不死性』

 因子数・九。ハイランク。

 霊具『■■■■■』

 ステータス:筋力値B 耐久値A 敏捷値B 精神力B 魔法力B 顕在性C 神秘性A

-----------------------------------------------------



 これが、公表されている千頭和ナギニのステータスである。

 これを見た時、思わずシオンがぼやいたのが、


「何だこの化け物」


 である。

 一番低い『顕在性』ですら平均値である辺りが、彼女のステータスの高さを物語っている。どれ一つとってもハイランクにふさわしい、まさしく最強のファントムだ。


 それだけではない。

 主人である明星タイガも、ステータスが軒並みB以上である。


 この数値で安定しているのなら、今すぐにでも実戦魔法士として戦場に立てるくらいだ。無論、まだ年齢や経験的にムラもあるだろうが、それでも異常なほどの成績である。

 改めてそれを見せると、他の皆も完全に顔を引きつらせていた。

 黙り込んだ中で、ようやくレオが本心を口にする。


「おいおい。こんなの、本当に一介の学生が制御できるのかよ……」

「それは僕も気になってるところだ。正直、いくらなんでもキャパシティオーバーにも程がある。きっと、何か理由があるはずだ」


 いくらタイガのステータスが高いとはいえ、単体で制御できるファントムには限度がある。人間が持つ程度の魔力で再現できる神秘には限界がある。だからこそ、そこに成立している異常があるのなら何か理由がある。


 シオンの確信に近いその考えに、トゥルクが賛同する。


「ファントムの強さと魔法士の強さは比例するので、久能様のお考えはおそらく的を射ているかと思います。どんなに強力なファントムであろうと、主の力が不足していれば、十全な力は発揮できません。確かに、この明星という生徒は実力があるでしょうが、ファントムの性能はその更に上です。はっきり言って異常といえるでしょう」


 まじまじとナギニのステータスを見ながら、トゥルクは言う。

「そもそも、『竜』などという規格外の因子を身に宿しているのです。おそらくは、力の安定のために何らかの策を施しているはずです」

「策、というと、やっぱり他の因子かな」


 横からノキアが、端末に映されたステータス表示を指しながら言う。


「ファントムが複数因子を持つ理由には、二つあるって言われている。一つは、トゥルクみたいにいろんな力を取り込んだ結果としての複数因子。伝承を後追いしたり、人工的に伝承を再現しようとしたら、こういうファントムが生まれる」

「ああ。そうだな。そして、多くの場合、自然発生した弱いファントムは、そうやって因子を重ねて強くなっていく」


 ファントムの成長とは存在力を高めることにほかならない。

 ステータスの中の顕在性と神秘性とは、この世におけるファントムの影響力を直接的に表したものなのだ。これが強ければ強いほどファントムは強力になる。


「そして、もう一つ」


 指を立てながら、ノキアが言う。


「強すぎる原始を持ったファントムが、力を制御するために方向性をつけて分散させるタイプ。おそらく、千頭和ナギニはこっちのタイプだろうね」


 強力な原始から生まれたファントムが、その力を因子という形で安定させる方法。

 例えば、織部イチルがこのタイプのファントムである。彼女は元々、蜘蛛の化け物の霊子災害だったのが、ファントムになる上で『機織』の因子を起点に『アラクネーの寓話』を作ることで存在を安定させたのだと言う。そうしなければ、彼女の元となった蜘蛛の化け物を制御できなかったということでもある。


 本来なら『カール・セプトの鏡回廊』であるミラもこちらのタイプに分類されるはずだ。漠然とした力をきちんと役割ごとに分けて意味づけるだけで、存在としての力はぐんと高まることになる。


「なによりこれなら、明星がナギニを制御できているのにも、納得がいく。ちゃんと人間が使える範囲の力を、彼自身が制御しているってことだからな」


 桁違いの膂力を見せつけたナギニであったが、もし制御もできずにファントムの好きに行動させていたのならば、少しの行動だけで無駄に魔力を消費してしまうだろう。あれでちゃんと制御しているということだから、ますます明星タイガの株は上がる。

 そこで、レオが口を挟む。


「ってことは、シオンは敵側のガス欠を狙えばいいってことか?」

「狙えるもんなら狙いたいけど、それは向こうも承知してるだろう。そんなこと、簡単にやらせてくれるとは思えない」


 少なくとも、相手頼みの策などで挑んでも返り討ちに合うだけだろう。

 だからこそ――


「真っ向から、弱点を作って打ち破るしかない」


 決意を固めるようにシオンは宣言する。


「ま、真っ向からって、正気かい、シオンくん」

「正気だ。第一、それ以外に方法がない」

「でも、そんなの危険だ」

「危険? そんなことはない」


 ゆるく首を振って、シオンは言う。


「どんなに痛くても、霊子体では死ぬことはないんだ。こんなの、危険でもなんでもない」

「……シオンくん」


 珍しく、ノキアが心配そうな目でこちらを見ている。

 その憂慮を振り払うように、シオンは手を振って話を元に戻す。


「ナギニの原始には当たりが付いている。彼女の元となった伝承は『ナーガラージャ』。インド神話における、蛇神族の王たちの総称だ」


 ウィッチクラフトレースの試合で見せた、鉤爪の一閃。

原点回帰(ナーガラージャ)・永劫竜(・ニティヤー)

 アクティブスキルの発動に呟いた言葉から、シオンは伝承を調べていった。


「あいつの特徴は、あまりにも多くの伝承を持ちすぎている。おそらく、ナーガ族のどれかじゃなくて全体の伝承を彼女は身に宿しているんだろう。それを、因子という形で複数の要素に分けているんだ」


 九つの因子のうち『竜』『蛇』『天候』『毒』の四つは、確実にその要素を持っている。

 問題は、あとの五つだ。


「『人』の因子はおそらく彼女の元人格だ。竜の魅力にとりつかれた人間、といったところだろう。それはともかくとして、後の四つ『翼』『火』『捕食』『不死性』がおかしい」

「おかしいって何がだ? そりゃあ、こんだけ凶悪なのが揃っているのは、なんか恐ろしいとは思うけど、竜の能力としたらおかしくはないと思うぞ」


 レオの疑問に、シオンは頷きながら言う。


「僕も最初は、この全部が竜の伝承から来ているんだろうと思っていた。けど、一つおかしな話がある。ナーガに翼なんてない」

「え?」


 シオンの断定に、集まった仲間たち全員が驚く。


「ちょっと待てよ。竜って言ったら羽があるもんじゃないのか?」

「そのイメージの元は、西洋の悪竜のたぐいだ。インド神話の場合、竜の始まりは蛇神なんだ。ナーガラージャの多くは蛇神からの派生で、みんなが思っているような竜の姿じゃない」


 だからこそ、騙された。

 おそらく、自身の原始を拡大解釈し、能力を作り替える意味もあったのだろう。


「あとの三つの因子にしても、ナーガそのものよりも他の存在が見え隠れしていた。翼を持ち、蛇神を補食し、炎をまとい、不死の霊薬を対価にナーガと取引をした、ナーガの敵対者」


 その名前は、『ガルダ』。

 ナーガの天敵である神鳥である。


「ああ、なるほど。そういうわけか」


 ここまでの説明で得心行ったのか、ノキアが頷く。


「つまりこいつは、自身の弱点となる因子を取り込むことで、力を安定させたんだな」

「そういうことだ。そしてそれは同時に竜という存在の完成にもつながる。ナーガラージャという一つの枠ではなく、拡大解釈としての『竜』を、こいつは作り上げた」


 神話の竜神である『ナーガラージャ』という原始を安定させるために、伝承を拡大解釈して、あえて弱点となる因子を作り出す。そしてそれは、同時に世界中に存在する『竜』の逸話に、限りなく近い要素を体現することになる。結果的に力の幅は格段に広がる。


 因子九つ、なんていう馬鹿げた数は、それだけなければ安定しないことと同義なのだ。


「言ってしまえば、九つの因子でようやく安定しているんだ。だったら……その中の一つが崩れれば、全部のバランスが崩れる」


 シオンの言いたいことがわかったのか、ハルノがポツリと呟く。


「因子崩し……」


 シオンは小さく頷く。

 それに、ハルノが驚いたように言葉を続ける。


「で、でもそれじゃあ、千頭和さんの相手を直接するのは……」

「その話はあとだ。それよりも、ミラに確認したい事がある」


 ハルノの言葉を遮りながら、シオンはミラの方に話しかける。

 ここまでの会話で、ミラは一言も口を開かずにじっと会話を聞いていた。自分にできることを探しだすように、真剣に、一言も漏らさないように黙って聞いていたのだ。

 そんな彼女に、シオンは確認を取るように言う。


「次の試合は、僕達が出る予選の最後だ。『メイガスサバイバー』のサバイバル戦。言ってしまえば、最後の三人にさえ残ってしまえば本戦に進める。無理に明星たちに喧嘩を売らなくても、勝ち残りさえすればいいんだ」

「うん」

「けれど――他の参加者のことは、この際無視しようと思う」


 あまりにも大胆な発言に、周りが驚き声をあげる。

 唯一、表情を変えようともしないミラは黙ってシオンの言葉の続きを聞く。


「明星と千頭和ナギニだけに焦点を絞る。実際、こいつらが本気を出したら他の参加者が生き残るのはほとんど運でしかない。だからこそ、この二人を倒すのに全力を尽くそうと思う」

「………」

「もちろん、リスクは大きい。勝てる試合をみすみす捨てることになるかもしれない。だから、ちゃんとミラの意見を聞きたい。お前は、どうしたい?」

「わたしは」


 ミラは、迷いのない瞳で、シオンを見返しながら言う。


「あの人達を倒さない勝利に、意味は無いと思う」

「よし、決まりだ」


 ならば策を練ろう。

 ならば策を弄そう。

 持てる手段を全て使い、必ずや、かの竜王を打ち砕こう。

 最弱のバディは、最強のバディを下すために、残された時間で準備を始めた。



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挿絵

挿絵(By みてみん)


おまけ

挿絵(By みてみん)



ついに次回より最終決戦編に入ります。

最強のバディとの死闘、乞うご期待。


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