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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第一部 まだ青き出藍の鏡
12/68

七塚ミラの性能


 テクノ学園の実技室は用途に応じて様々な施設が用意されている。その中には、単純な肉体トレーニングのための器械から、魔法の調整のための処理装置、霊子庭園の展開のための補助装置と、およそ魔法士が実技を行うために必要な全てのものが揃っている。


 バスケットコート四面程度の広い敷地が、個別に利用することができるように細かく区切られている。その内の一つを借り受けたシオンは、霊子庭園の展開の準備をする。


 そばにはワクワクした顔のミラと、いつものメンバーが揃っている。協力を申し出たトゥルクも、表面上は穏やかに微笑んでいるが、どこかそわそわしている様子を見せていた。ちなみに、ノキアは無理やり連れて来られてふてくされている。


「よし、それじゃあ、最初は軽くミラの調子を確認したいから、庭園内に入ってくれ。トゥルクさんも、お相手をお願いします」


 空間を区切るように青いベールが展開される。その中は擬似的な情報界となっており、広さや質量も変わってくる。実技室の一区画はそれほど広くないので、霊子庭園で空間を創りだして、思う存分暴れられるだけの広さを確保するのだ。

 調整の結果、ミニチュアのような簡易フィールドが作成される。その中では、全ての縮尺が十分の一ほどになる。


 そのフィールドへと、二人のファントムが入場する。

 セーラー服を揺らしながら入るミラと、スーツ姿でゆったりと歩くトゥルクの姿は、大人と子供であまりにもアンバランスだった。


「そういえば、草上」

「なんだい、神童」

「……いい加減、機嫌直せよ」


 ムスッとした顔のノキアに、シオンは苦笑いを返す。


「ちょっと聞きたいんだけど、トゥルクさんってどんなファントムなんだ? 核心にまで触れなくていいから、公開ステータスくらいは教えてほしい」


 さすがにファントムの正体などは戦略などにつながるので教えられないだろうが、ステータスや一部の因子くらいならば、ウィザードリィ・ゲームでも事前に公開されている。


 トゥルクについて事前に聞いた内容で言うと、六つの因子を持つミドルランクファントムということだけは知っていた。


「それなら、こんなところだよ」


 ノキアは個人端末を操作すると、データをシオンの端末に対して送ってきた。



○デイム・トゥルク

 原始『■■■』

 因子『騎士』『傭兵』『騎兵』『ミトラ』『天衣無縫』『■■』

 因子六つ。ミドルランク

 霊具『■■■■■■■■■■』

 ステータス 筋力値C 耐久値C 敏捷値C 精神力C 魔法力C 顕在性C 神秘性C



「なんだ、このステータス……」


 パッと見たところでは、判断に困るステータスだった。

 黒塗りで見えない部分は、シオンのアクセス権限では閲覧不可な項目ということだろう。

 公開されているステータスだけ見る限り、六つの因子という強力な因子数である割には、ぱっとしないステータスである。

 というよりも、意図的に揃えられているようなステータスには、作為的なものを感じる。


「そういう反応にもなるだろうね」


 肩をすくめながら、ノキアは言った。


「まあ、因子六つともなると、なかなか自然発生とは行かないらしくて、いろいろ調整しているらしい。原始はそれほどでもないんだけれど、因子を六つ重ねるまでに、地道に六代合成したって話だから、その執念もわかるだろう?」

「因子の内容から見るに、戦争関係か?」


 影武者や偽王と言った逸話が幾つか思い浮かぶが、どうも要領を得ない。

 まあ、トゥルクの正体については、今はそれほど重要ではない。

 とりあえず、このステータスが本当ならば、彼女が本気を出さない限りはミラともちょうどいいトレーニングが出来そうだった。

 縮尺された霊子庭園の中、ミラとトゥルクがこちらの指示を待っている。


「じゃあ、ミラのパッシブを試すから、トゥルクさんは軽く攻撃をしてください」


 モニターで拡大した様子を見ながらシオンは指示を出す。

 霊子庭園の中で、さっそくミラが七枚の鏡を出す。円形の鏡は縁に七つの宝石が埋め込まれており、神器のような装飾が施されている。ミラの霊具である『七面鏡』であり、それが彼女の持つ武器である。彼女の能力は、その多くを七枚の鏡を介して行う。


 トゥルクの方も手を構えて、そこに一振りの剣を握る。刀身が美しい半透明の剣は、華美な装飾が施されていて、切るというよりは叩きつけると言った用途を想像させる。


 シオンの指示通り、トゥルクはその剣でミラに斬りかかる。

 それをミラは、両手を交差させて受ける。

 ズシン、と衝撃が周囲に走った。

 震動とともに、ミラの背後にある七つの鏡に、衝撃が伝導する。続けて、鏡の縁に埋め込まれた宝石にヒビが入る。


「むっ!?」


 トゥルクが驚きを見せる。おそらく手加減はしていたのだろうが、それでも剣による一撃は軽いものではなかった。重量で叩き切るような衝撃は、そのほとんどが逃されていた。


 それだけではなく、攻撃を加えた方であるトゥルクが衝撃にのけぞっていた。大きな怪我はないようだが、ダメージを受けた様子がある。


「これはどういうことだい?」

「ミラのパッシブだよ」


 ノキアの疑問に対して答える。

 ファントムには因子一つに対して、対応するパッシブスキルが存在する。それはファントムが特別意識せずとも、条件を満たせば発動する受動的なスキルだ。これがあるため、一般的に因子数の多いファントムが有利と言われている。


 ミラのそれは、ダメージの分散と反射だった。

 自身の肉体に食らったダメージのうち、全体の七割を七分の一にして鏡に移す。そして、残りの三割のダメージを相手に跳ね返すという強力なものだった。


「『鏡に写った(いたいのいたいの)私は貴方(とんでいけ)』って言うんだよ」


 むん、とない胸を張って、ミラが答える。

 そのネーミングセンスはともかくとして、最初に効果を聞いた時は、恐ろしく強力なパッシブだと思ったものだ。


「弱点としては、一度に分散できるダメージ量に限界があるのと、間接攻撃には発動できないってことだな。あと、鏡本体を攻撃されても発動しない。それがバレていたからこそ、模擬戦では真っ先に鏡を狙われていたみたいだが」


 もっとも、ミラ本体に対して生半可な攻撃が出来ないというのは変わらないので、手の内がバレていても利用価値は高い。おおよそ筋力値と魔法力において、Bランク未満のダメージまでならばこのスキルが発動することがわかっているので、かなり有効なスキルだった。


「へぇ。ミラちゃんって、ちゃんとすごい所あったんだな」

「がんばって、ミラちゃん!」


 レオとハルノの声援に、ミニチュアサイズのミラがニコニコと手を振って答える。

 それを微笑ましく思いながら、シオンは指示を出す。


「それじゃあ、次はアクティブスキルの方をひと通り試して、その後は僕も入るから、実践形式の練習をしよう」


 アクティブスキルとは、ファントムの持つ因子を利用して魔法効果を発動させることである。

 パッシブスキルが元々備わっているものであるのに対して、アクティブスキルは自由に魔法式を組むことができる。一度にセット出来る数はファントムの処理能力的に四つが限度で、これの作り方こそが、魔法士側の腕の見せどころといえる。


「ちなみに、元々ミラが自分で作っていたスキルが三つあったんだが」


 応援してくれているレオたちに聞かせるように、シオンが言う。


「へえ。三つもあったのか。あれか、こないだのレーザーみたいなやつとか」

「そうだ」


 簡単なまとめを見せながら、説明する。



反射収束(まぶしいあつめて)光線銃(あついあつい)

 光を収束させてレーザーのようにして相手を焼く。


鏡像模倣(かんぜんさいげん)

 目の前の相手の姿を完全に真似る。


合わせ鏡の(あなたはわたしで)入れ替わり(わたしはあなた)

 鏡に写った存在と自身の現在の状態を同調させる。


 ネーミングセンスはともかくとして、意外と強力なのが、二つ目のコピー能力だ。

 魔法式の構成を解析したところ、どうやら表面上だけでなく、本質的なものまでコピーできるのが可能だった。相手の技術や経験すらも、一時的に模倣する事ができるのだという。


 おそらくは、『カール・セプトの鏡回廊』の機能の一端が具現化しているのだろう。あの迷宮は、取り込んだ力をそのまま運用して、更に成長するという恐ろしい機能を持っていた。

 因子一つとは思えないほど、彼女の能力は多岐にわたっている。『鏡』という要素が持つ全てが内包されていると入っても過言ではないだろう。


 ちなみに、三つ目は効果だけ見るとすごいのだが、実は使い勝手が非常に悪かった。

 それについて、レオが不思議そうに疑問を発する。


「ん? 何が悪かったんだよ。この効果内容なら、負ったダメージを相手にも負わせたり、逆に相手をコピーして自分が回復したりできるじゃんか」

「傷を負わせる方は、確かに有用だな。だけど、その逆の回復が難しいんだよ」


 簡単にいえば、キャパシティの違いである。

 例えば、自分の最大キャパシティより、相手の残存体力の方が多い場合、そのオーバーした分の負荷が別途襲ってくるのだ。


「わかりやすく言うと、ミラの体力を僕に写した場合、僕の身体は弾け飛ぶ。ファントムの最大キャパシティと、人間のキャパシティじゃ、明らかに人間のほうが小さいしな」

「はぁん。なるほどな。それじゃあ、逆にお前の体力をミラちゃんに写した場合はどうだ? それなら、キャパオーバーはしないだろう」

「オーバーはしないが、その場合、ミラのステータスはがくっと下がる。いくら低いって言っても、ファントムは人間より遥かに強力だ。それを自分から人間レベルに下げるのはあまり実践的じゃないな」


 そんなわけで、非常に扱いづらいスキルなのだった。

 それならば敵に傷を負わせる方はどうかと思ったが、ミラの神秘性が低いため、大抵のファントムは自前の耐性で弾いてしまう。相手が無抵抗でもないと限り使えないスキルだ。


 ただ、なんとか改良して使えないかと思って、データだけはしっかりと解析している。今のところは、それ以外のスキルを重点的に開発しているところだった。


 特に、ミラには直接的な攻撃手段が少ない。


 そもそもが、ミラの能力は直接戦闘をするようなタイプではないのだ。『カール・セプトの鏡回廊』にしたところで、積極的に害を与えるような霊子災害ではなく、あくまで受け身で、搦め手のようにして被害者を食らっていく災害だった。だから、サポート系や間接攻撃こそが本領なのだろう。それを考えると、やはり出場競技としては直接戦闘よりも戦略による比率が大きいものの方がいい。


 そう思いながら、シオンは霊子庭園内のミラに指示を出し始めた。


 ※ ※ ※


 その集団が近づいてきたのは、シオンたちが練習を始めて三十分くらい経った頃だった。


 自身も霊子庭園に入って実践形式で練習をしていたシオンは、巨大な天井と人影を見上げる。実技A科の生徒が四人。襟のラインからするに、同じ一年生のようだ。彼らは無遠慮に近づいてくると、外で見ていたレオたちと何やら口論を始めた。


 何やら不穏な空気を感じたシオンは、霊子庭園の外に出て実体になる。


「どうしたんだ?」


 感情的になっているレオをなだめつつ、シオンは四人の前に出る。

 そこに、ノキアがそっと耳打ちをする。


「彼ら、実技科の連中だよ。主張を要約すると、技術科の君たちがトレーニングルームを使っているのが気に食わないらしい」


 その一言で事情を察する。

 とはいえ、こちら側に後ろ暗い点はない。あくまで冷静に、シオンは四人に向き直る。


「悪いけれど、もう少し待ってくれ。使用時間はちゃんと守るから」

「はっ。Dクラス風情が、何言ってんだよ」


 あくまで高圧的に、四人のうちの一人が前に出て言う。


「お前らみたいな能なしがいくら鍛えても変わらねぇだろ。二時間も時間取りやがって。後がつかえてんだから、さっさと終わらせろよ」

「正式に許可を取って使ってる。それについて文句を言われる筋合いはない」

「こっちは大有りだ。お前らのせいで練習時間が短くて困ってんだよ。お前らと違って、こっちはインハイの予選に出るんだから」

「なら、事前に予約をしておくべきだな。今の時期は予選前で、どの実技室も混雑しているのは分かっているはずだ。それに、僕達もウィザードリィ・ゲームに向けての調整だから、条件は同じだ。そのことで批難される覚えはない」

「はぁ? お前らが?」


 実技科の生徒はそう驚いた後、小馬鹿にしたようにケラケラと笑い出した。


「おいおい。技術科なんかが予選に出るって? 何の冗談だよそれ」

「笑えない冗談だな! お前ら、自分の成績わかって言ってるのか?」

「運良くファントムと契約出来たからって、自分の実力が上がるわけでもないのにな」


 口々に、好き勝手なことを四人はまくし立てる。

 それに対して怒りを覚えないわけではなかったが、大事にしたくないためシオンは黙ってそれを聞いていた。頭の中では、いかに穏便に済ませようかを考え始める。


 しかし、背後の友人は我慢できなかったようだ。


「……お前ら、少し言いすぎだ」

「あ?」


 低く、威圧するような声が響く。

 まずい、と思ったが、その時には、レオがシオンの前に出ていた。


 先ほどまでの感情的な様子とは違い、今の彼はどこか落ち着いていた。理性で感情を抑えながら、それでも全身から怒りを立ち上らせているといった感じだ。


 意外な様子に虚を突かれ、シオンは止めるタイミングを見失ってしまった。

 レオは、声を荒げるのを必死で抑えながら、淡々と言う。


「俺は確かに実力がないから技術科だ。だが、こいつは違う。だから馬鹿にするな。訂正しろ」

「は! 訂正しろだってよ。Dクラスのくせに、何言ってんだ」

「技術科を馬鹿にすることしか出来ないのか、Aクラスってのは? 随分と安いプライドなんだな。何かを侮辱しないと自分を誇れないだなんて」

「なんだと?」

「訂正しろ」


 ずい、と。一歩踏み込みながら、畳み掛ける。


「少なくともシオンとミラちゃんは本気だ。本気で勝ちに行くために取り組んでいる。それを馬鹿にするな。茶化すな。侮辱するな。だから、訂正しろ」


 再度繰り返す。


「不適切な侮辱を、訂正、しろ」


 普段お調子者として知られている葉隠レオは、今、真剣に怒りをぶつけていた。

 それは――かつて、一つのことに没頭し、そしてそれに裏切られたかこそ出る怒り。

 懸命に物事に邁進している者を、認めているがゆえの怒りだった。


 気圧されたのか、四人は思わずといった様子で一歩後ずさりしていた。


 しかし、彼らとしてもプライドが邪魔するのか、そのまま引き下がれそうにはなかった。プレッシャーを感じたことに苛立った様子で、一人が威嚇するように言う。


「本気だぁ?」


 前に出たのは、身ぎれいな中肉中背の少年だった。彼は怒りに目を燃やしながら言う。


「技術科の本気がどの程度のもんだよ。そんなに言うんなら、見せてみろよ」


 くい、と。

 彼はシオンの方を見て言う。


「勝負しろよ。競技は、『マギクスアーツ』のバディ戦。それでお前らが勝ったら、土下座でもなんでもしてやるよ」


 彼の言葉とともに、すぐそばで着流しの浪人風の男が実体化する。おそらくファントムだろう。やる気のなさそうな流し目を向けているが、真剣のような鋭さを全身から放っている。


「待て、なんでそうな――」


 それに対して、レオがなおも何か言い連ねようとしたが、シオンが静止をかける。


「ごめん、レオ。もういい」


 シオンはミラに一瞬だけ目配せして、そして相手となるバディに向き直った。


「いいよ。丁度模擬戦もしたかった。やろう」


 そうして、二人にとっての初試合が決まった。



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