表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

第三十三話『告白』

透はハコに連れられ、神社の裏手から綻ノ山に入り、登山道を通って見晴らし台へとやって来ていた。急いで駆け上がったため、ふたりとも息が上がっている。


「どうしたんだよ?急に『着いて来て』って……」


「……ごめん、ちょっと話がしたくて。とりあえず座ろ」


ふたりはひとつしかないベンチに腰掛けた。そこからは、凪ノ町が一望でき、町の明かりが綺麗に広がっていた。


「それにしても、よくここ知ってたな。日和も正司も知らない、『俺だけ』のお気に入りの場所なのに」


「……ははっ。偶然だね」


ハコはこれで確信した。透にはもう、『あの夏の思い出』は残っていない。本来の記憶に戻ったのだ。


「……透だけに、聞いてほしいことがあってさ」


「俺だけ?……聞いてほしいって、なにを?」


「……それは、えっと」


ハコはそこで口をつぐんだ。


──ここにきて、ハコはまた気持ちが揺れ始めていた。


ちゃんと自分の口から伝えなくては。


でも、やっぱり怖い。


透から『あの夏の思い出』がなくなった今、自分とのつながりも切れてしまうのではないか?そう考えると胸の奥がきゅっと締め付けられるようだった──。


ハコは目を閉じた。


するとどこからか声がした。


《大丈夫──》


「大丈夫」


ハコは自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。


そして、目を開いたハコは勢いよく立ち上がり、大きく息を吸い込むと、肺いっぱいの空気を声とともに一気に吐き出した。


「聞いてほしいのは、私の『心の声』ーーっ!」


ハコの声は夜空に放たれ、町の空がそれを優しく受け止めた。


大きな声で叫んだことで気持ちが吹っ切れ、ハコの心は軽くなっていた。


透は思わず目を丸くした。


「だったら、正司や日和にも……」


「うん。ふたりにも話すよ。でも、まずは透に聞いてほしい。」


透はハコの瞳を見た。その瞳の奥の星は、確かな光を放っていた。


「わかった」


「ありがとう。じゃあ話すね」


そして、ハコの『心の声』の告白が始まった。


「──私は自分の能力をずっと恨んできた。人に迷惑ばかりかける、この能力を」


「お父さんは昔、『この力を持ったのには、きっと意味がある』って言ってくれた」


「だけど、信じられなかった。だって、いつも嫌な目に遭うから。……だから、能力を閉じ込めた」


ハコは遠い目をして夜空を見上げた。無数の星がふたりを見守っている。


「でも、高校生になって、透たちと出会って、私、思ったの。『本当に能力のせいだったの?』って」


「そして、あのとき──」


「透に抱きしめられたとき、すべてがわかった気がしたの」


「閉じ込めていたのは能力じゃない。──『私自身の心』だった」


「私は仲間のおかげで、たくさんの勇気をもらえた」


「透のおかげで、ずっと『箱の中に閉じ込めていた私の心』が、ようやく解放された」


「本当の自分として生きられる。それがこんなにうれしいことだなんて知らなかった」


「だから、私は自分の世界で『私を生きたい』、帰らなくちゃって思った。そうしたら、元の世界に帰ってた」


柔らかな風が、ふたりを優しく包み込んだ。


そばの草がさわさわと音を立てる。


ハコは一度足元に目を落とした。


「──そして、もう並行世界に行くことはできなくなってた」


まだ誰にも話していなかった事実。ハコ自身、それがわかったのは今朝のことだ。おそらくは、昨日の一件ですべての力を使い果たしたのだろう。


しかし、今のハコにとって、もうそれは問題ではなかった。


「でもね──」


ハコは再び顔を夜空へと向けた。その顔には笑みが浮かんでいる。


「私、思うんだ!本当は能力なんかなくたって、いつも他の世界とつながってるんじゃないかって。能力をなくした今でも、目を閉じるとね、たまに見えるの。瞼の内側に、どこまでも広がる宇宙が」


ハコはゆっくりと立ち上がって、空へ両手を広げた。


「きっと!ぜーんぶ、つながってる!!」


「そう思うだけで、寂しさなんてどこかへ吹き飛んでいっちゃう」


そして、透のほうへ体ごと向け、澄んだ笑顔で言った。


「ありがとう。最後まで黙って聞いてくれて」


──ハコの告白が終わった。


ここまで本当の想いを声にすることが、どれだけ勇気のいることか、透には痛いほど分かった。


だからこそ、透はなにも言わずに、ハコの『心の声』をそっと、受け止めた。


『ただ共鳴できる』だけでいい。──透はそう感じた。


ふたりはそのあともしばらく、言葉を交わさずに夜空を眺めていた。


そしてハコが「帰ろっか」と言って、ふたりで麓の神社まで降りて行った。


ふたりが去ったあとも、見晴らし台にはまだ柔らかい風が吹いていた──。


──五年後──


──少女には、お決まりの朝のルーティンがあった。


部屋の鏡に向かい、自分の顔を隅々までチェックする。特に、前髪のかかり具合とツインテールのハネ具合のチェックは念入りに。


「よしっ!今朝もバッチリ!」


少女は鏡に向かってキメ顔でそう言った。


「お姉ちゃんみたいな、カッコいい『ギャル』になるには、これくらいしなきゃねー!」


これが彼女のルーティン。ここまでしないと気が済まなかった。


少女の部屋の机には、短くなった鉛筆と練り消し、クロッキー帳が置かれている。机のそばの本棚には、本ではなく、古くなったクロッキー帳がずらりと並ぶ。


「あ……やっぱ、ツインテのハネ具合がイマイチかも」


少女はツインテールの片方を手で包むようにつかんで、位置を調整する。


そのとき、玄関から少年の声が響いた。


「おい詩!いつまでやってんだ!」


「ちょっと待ってー、もうできるからー!」


そう言ったツインテールの少女、詩は何度も鏡を見ながら調整する。


「俺、もう行くぞ!『また』遅刻しても知らねーから!」


玄関で詩を待つギザギザ髪の制服の少年、陽真は苛立っていた。


すると、詩の叫び声が陽真の耳に届いた。


「ちょっと!私、遅刻したことないんですけど!いつも『時間ぴったり』なんだから!」


「ぴったりで偉そうに言うなよな……ったく」

陽真は小声でぼやいた。


「よし!今度こそ完璧!」


詩は急いでランドセルを背負い、部屋を出ようとした。


「あ、そうそう!ちゃんと最後に気合い、入れとかなきゃ!」


詩には最後にもうひとつだけ、大事なルーティンがある。


それは部屋の壁にかけられた『一枚の絵』をしっかり見て、気合を入れることだった。


詩は壁の絵をしっかり見つめ、鼻から息を吸い込んで、口から大きく吐いた。


「やっぱ、『お姉ちゃんの絵』は最高!」


そう言って詩は、玄関で待つ陽真のところへ駆けて行った。


壁にかけられた絵の下には作品プレートと、その横には赤色の受賞札が丁寧に貼られていた。


──『柚木 日和』/特別審査員賞



〜終〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ