青海の灯姫編 民族衣装
リアがいくら弁明しても、梓月は訳知り顔で取り合わなかった。
そんなことがあって、リアが「とにかく内緒だからね!」と念を押した後のこと。
「ところで、部屋にいきなり入ってくるのは、どうかと思うのだけど?」
「声はかけたんだよ?ただ、返事はないし……リアちゃんに何かあったら大変じゃない?耳をすませばうめき声みた――」
「わかりました!わかりましたから!……ほんとうに、そんなんじゃないのに」
最後は声も小さく梓月の耳には届かなかったが、梓月はこの件に関して、これ以上追及することはしなかった。
気を取り直してリアは梓月に改めて問うた。
「……ところで、なにかようですか?」
「ええ、そろそろお腹も空くころだと思ってね」
「ああ、夕餉の時間ですか。やはり和食なのでしょうか」
「ワショクが何かわからないけど、お腹が膨らむ前にやっておかなきゃいけないことさ」
「お腹が膨らむ前?」
みれば梓月はお腹が大きくなったジェスチャーをしている。
その仕草に自身のお腹をさすってみるリア。
「お腹が膨らむ……え!?それって……妊娠……!?」
夢魔族といえば、かつては差別的に『淫魔』と呼ばれていた歴史を知っている。
その夢魔族がそんな仕草をするものだから、中身がおじさんのリアは、ついその過程を連想してしまった。
しかも目隠しをしてもなお美人だと分かる梓月を目の前にして、その連想は加速していく……。
「はわ……はわわわ……ちょ、ちょっと待って、梓月さんと!?」
頭の中が真っ白になり、耳まで真っ赤にしたリアは、思わず両手で自分の頬を押さえた。
「あははははっ 違う違う!お腹いっぱい食べて膨らんだお腹だと困るってだけさ」
なぜか頬を赤らめながら、梓月は笑い飛ばした。
「ああ……なるふぉど?」
やはりよくわからないままのリアだった。
梓月に先導されて部屋を出たリアは、数ある広間の一つへとやってきた。
やはりボンテージ姿の近衛騎士たちを連れて。
中に入るとすでに数人の夢魔族らしき者が控えていた。
とはいっても、皆がボンテージ衣装なため一目では夢魔族なのかそうでないのかは判断できなかった。
この里にいる限り、皆が同じ系統の衣装を身に纏う。
故に、違いが分からない。
(もしかしたら、ご先祖様はエロい目的じゃなくって、同じ服装にすることで差別的なものを防いだのかな?……だとしたら、やるじゃんご先祖様)
リアは内心で統一王への評価を改めた。
広間で待っていたのは、肩から目盛りのついた測り紐を下げた者や、その助手らしき者が数名。
そして奥では全裸の女性が、係の者に寸法を測られていた。
「えぇ!?……ねぇ梓月さん、これって何をしてるんです?」
「あれ?言ってなかったっけ?衣装を仕立てるのよ」
「衣装?」
「そうよ。今着ている仮の物じゃなくってね。ちゃんとオーダーメイドするのよ」
「えぇ、わざわざ作るの?」
「当たり前でしょ?みんなを見てごらんなさいよ。その身体にあう良いボンテージを着てるでしょう?」
「だからって、なんで裸で……?」
「裸じゃないわよ。ほら、彼女を見て。敏感な部分にはちゃんと当ててるから」
「……はぁ?」
「夢魔族の身体には魅了の魔力が巡ってて、それを補助、制御をするために必要な衣装なのよ」
「これにそんな役割が!?」
「ああ、今のそれにはついてないけどね」
「……」
じゃぁ着なくてもよかったのでは?という無言の抗議であったが、梓月は肩をすくめてみせただけだった。
「で、これが直接あたるとこすれて痛いの。でも形を変えたり、布を増やすと性能が落ちちゃうし……いろいろあってね、だから肌にピッタリ密着させる必要があんの」
梓月はリアのウエストの余った布地をつまんで見せた。
「そんなわけでヒト族のような下着を着けるわけにはいかないし、密着させるためにもオーダーメイドってわけ」
梓月は徐にリアの赤いボンテージの胸元を引っ張って、中を覗き込む。
「まぁ、リアちゃんにはまだ早い話だったかもだけどね」
そう言う梓月は巫女衣装ではあるものの、その体形がはっきりとわかる着こなしをしており、やはり夢魔族なのだと思い知る。
リアはそんな梓月を見て、密かに敗北感を覚えるのだった。
「それに悪いものだと動くだけで肌を傷つけることもあるしね。だからいいものを作らないと」
「……は、はあ……」
そう言われてもリアにはいまいち、ボンテージの良し悪しは分からなかった。
そもそも、夢魔族ではない自分には、やはりこの衣装じゃなくてもよいのでは? とリアは密かに疑問に思った。
「この衣装は、里の掟だから。これじゃないとだめだから」
梓月が、リアが言葉にする前にその疑問にキッパリと答えた。
「……心読みました?」
「読んだっていうか……ぼんやり流れてきた」
「流れてきた?」
「そうよ。肌が出ている分、きちんと制御しないと、いろいろと漏れるからね」
「え……ってことは……どこからですか?」
またも真っ赤になりながら、リアは梓月で色々な妄想をしてしまったことを思い出していた。
「……いやぁ、リアちゃんって……凄いね」
お互いに目を合わせられなくなった二人は、真っ赤な顔のまま、気まずい沈黙に包まれた。




