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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 アイのあと

 夜の闇の中、互いに境界が溶けて混じり合うような――そんな時間を過ごした赤毛の少女とハフネ。

 夜の帳が暁光によって払われ、人々が起き出す頃になって、ようやく眠りについたのだった。



 昼過ぎ。

 城からの使いが来たと、宿の者が二人を起こした。


 30分だけ待ってもらうように頼み込み、二人は慌ててお風呂へ向かった。


「……うわぁ」

「え?……あちゃ」


 二人はお互いの身体を見つめ、昨夜つけあった跡の数や場所について苦笑いを浮かべた。


「お兄さんかい?それともメルかい?まるで赤ちゃんだね、こんなにしちゃって」

 昨夜を思い出しながらその跡を指先でなぞっていく。


「それを言うならハフ姐だって……こんな所に……スケベ」

 赤毛の少女が、ふふふと笑みをこぼして「隠れる所だからいいけれど」と続けた。


 昨夜の熱が残る二人は、その熱に身を任せそうになりつつも、時間がないため急ぎ身支度を整えた。

 それでも約束の30分は過ぎていたけれど。


 化粧などしない二人は、昨夜しわになった服をそのまま着込んで、少しでもましに見えるようお互いにチェックし合った。


 《女の人は大変だなぁ》

「女は大変だなってうちの人が言ってる」

「ああ、野郎どもは身だしなみが簡単でいいねぇ。――でもお兄さんアンタ、いずれ自分でしなきゃなんだろ?そうやって他人事のように言ってられるのも今のうちじゃないのかい?」


 この身体はお兄さん――転生者が主導権を持つのだとハフネには話してあるのだ。


 メルニア自身が消えるというのは、まだ話せていなかったが、それもいずれ――。


 彼女が消えた時、お兄さんの傍にいてあげてほしい。

 メルニアにその思いがあったからこそ、ハフネと今の関係を築いたのだ。


 赤毛の少女に宿る、二心同体のお兄さんとメルニア。

 いつまでこの関係を続けられるか分からない以上、対策は早めに取っておかなくてはいけない。

 ――メルニアは、そう考えていた。


 いなくなる自分の代わりを用意しておく。

 そんな、壊れる玩具の代わりを探すような、子供じみた発想から出た計画であったが――何分メルニアは十四歳。

 人の心、特に恋愛などについて詳しいわけもなく……。


 だがメルニアは、この計画をお兄さんが知ったなら、怒り、そして深く悲しむであろう点に、気づいていなかった。

 それは、自身を『壊れる玩具』として扱っていることだった。




『どうか――愛する人が、悲しまないで済みますように』


 メルニアは祈らずにはいられなかった。

 この世界の神々に。

 すべての精霊に。


 ――赤毛の少女に『精一杯生きていい』と言ってくれた天命(つみか)に。


 しかし、その天女・天命は、今では魔女に堕ち、名は――『月美神(つみか)』を帯びていることなど、知る由もなかった。



 

 ※※※※



 城に戻った赤毛の少女とハフネは、

 この後の予定のために、改めて地下の温泉へと入りなおすことにした。


 数人の侍女が入浴を手伝うために控えている中、メルニア専属の侍女であるサンディアは、

 先日までのメルニアとは様子が違うことに気がついた。


 侍女のサンディアが(いぶか)しむ中、二人の距離があまりにも自然で……まるで睦ごとを経た男女のようだった。


 侍女たちの視線が集まる中、二人は並んで服を脱いでいく。


 


「まさか……いえ、ですが……お辛いことを経験されて、男嫌いになられたということも……?」


 そしてさらに、サンディアはある事に気がついて、慌てて他の侍女たちを下げさせた。


「メルニア様!」


 二人が服を脱ぎ、肌を晒そうとしたとき、サンディアはやはり慌てて声をかけた。

「メルニア様!いけません!お連れ様も!」


 突然のことにその動きを止めた彼女たちは、何事かとサンディアを驚きの表情で見つめた。


 サンディアは、メルニアの専属の侍女だ。

 メルニアが使節団として遠征していたこの約一年は別としても、彼女を湯に入れ、その髪や肌を整えてきたのはサンディアなのだ。

 当然、どこに黒子があるかなども知っている。


「メルニア様、失礼します」

「え?あ!ちょ!?」

 そう言って、メルニアの肌を確認したサンディアは、その身体に残る跡を見て、ため息交じりに天を仰いだ。



「お二人とも……今のお二人がこのままお湯を使えば、その……跡が消えるまで、より長くかかります。ですので、治療魔法を使うか、無理なようでしたら一日は冷やすようにし、それ以降は温めるという手順を」


 赤毛の少女とハフネは顔を見合わせて、

「ああ!さっきその話をしたところだったのに、忘れてたね」

「ああ!……えっと、剣の稽古に熱が入ってしまって痣だらけだからね。サンディアさんも驚かせてしまったようで申し訳ない」


 赤毛の少女とハフネが、事前に打ち合わせていた話だ。


 長年の付き合いであるサンディアには、そんな嘘は通用しなかった。

 しかし――サンディアの役目はメルニアの世話と共に、彼女を守ることでもある。

 ここで真実を糾明し、いずれ来る政略結婚へ向けた心構えを説くことではない。

 ――が、釘を刺さないわけにはいかなかった。

 それもまた、サンディアの役目なのだ。


「……なるほど、剣の稽古なら仕方ございませんね。……ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。特にメルニア様」


 サンディアは赤毛の少女を正面から見つめて、優しい声で言った。


「貴女様のしたいようになさるのが一番だと、私は思います。ですが、お立場というものがあります。特に御前様からすれば、姫というものは……」

「わかってるよ。ありがとうサンディア」


 昔から何度も言われた言葉だった。

 『ミルユルの女たるもの、婚家(こんか)(ぎょ)さねばなりません。そのためにこそ、肌を磨き、知を備えるのです。それこそが、貴女を幸せにするのですよ』


 相手の幸せを思ってかけている言葉だ。

 この時代、この世界で言えば、おかしなことは何もない。


 男は戦場で、女は閨で、功を立てるもの。


 他人がどうしようと興味は湧かないが、その役割を自分に求められるとなれば話は別だ。

 誰とも知らぬ、顔も見たことのない男の下へなど嫁いでたまるか。

 たとえそれが、近隣の王侯諸侯であったとしてもだ。


 ならばせめて、世界の半分を持ってくれば考えなくもない。


 メルニアは常々そう考えていた。

 だがそんな馬鹿な話はあるはずもなく、軍事に政に精を出していた。


 御前様にとってメルニアは、思い通りにならぬ駒だった。

 だからこそ、ことあるごとに『ミルユルの女たるもの~』と言い続けてきたのだった。



「はぁ……めんどくさい」


「また、そのようなことを……」


 メルニアが面倒だといった理由は、赤毛の少女とハフネが登城した理由にあった。


「そうは言うけどさ……わざわざ、自分の事を嫌ってる人に会いに行かなきゃならないのなんて、面倒以外の何物でもないわ」


 そう、今から二人は、御前様に謁見することになっているのだから。



 

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