助太刀、プレイヤー VS エリアボス。part.7《ヴェステル》
「っヴァアッッ!?」
盾による攻撃はクリーンヒット。亀が短い鳴き声を上げて頭を下へと傾けた。
「やっぱ無詠唱は力の入りが違うわ⋯」
たけまるさんが何か性に合わないと声を漏らしているのを聞きながら、私は力無く垂れている亀の頭を見つめる。
盾で思いっきりアッパーカットを受けたことで、軽い脳震盪状態にあると思われた。もうしばらくは動けないだろう。
鑑定をかければ、HPは半分を切り、残り4割といったところ。いや、3割弱か。
見ればHPバーの下に状態異常のマークがズラリ。火のマークが4つに、出血多量マークが1つ、この黒いモヤは⋯腐り?これが1つ。
腐ってる箇所がたくさんあっても1つにまとめられるのか、それともスキル1回で1つ分か。
これだけ状態異常があれば、後は放置するだけで死んでしまう。
人間と亀は体の構造も何もかも違うが、仮に人間の体でこれが起こったらと考えてみれば分かりやすいだろう。大火傷を負って、傷口から大量出血を起こし、微量ながらも壊死し始めた。かなりやばい状態だ。
敵を引きつけてくれるプレイヤーがいて、安全にチクチク攻撃できるこの環境であればそりゃそうかともなるが。
反撃らしい反撃は正面のみだし、それらは全てたけまるさんが対処してくれる。
何か一人だけ負担でかくね?私は盾を持っていないことに加えて、敵を引きつけるスキルも持ってないけども。
「亀さんや、これ喉の通りが良い食べ物じゃ。ほれ」
念力を使い口を強制的に開けさせると、魔法の鞄からそれを取り出した。
このアイテムにエフェクトがつくとしたら、黒いモヤモヤだろうか。
アイテム名、腐ったスライム水。粘度があり、水飴に似た甘味の如きスライム水が腐ったもの。
元の色からかけ離れ、とても黒々とそしてドロドロとしている物体。手で触りたくないが、魔法の鞄から取り出す時は手を入れて引っ張り出さないといけないので⋯⋯
「うへぇ⋯気持ち悪いぃぃ⋯」
ドロっとしたそれは、手に絡みつくように出てきてそのまま地面へ垂れ⋯⋯る前に念力で浮かせた。
「うっ⋯何だそれ⋯?」
鼻を押さえたたけまるさんが、出した瞬間悪臭を周りへ撒き散らし始めたそれを指差す。
鼻が曲がりそうな臭いしてるもんねこれ。私も嗅ぎたくないです。誰か手の空いてる人、手が塞がっている私に変わって鼻を押さえてくれませんか?
「おれ、うらいむういえす」
「え?なんて?」
「うらいむのどおっふあいてむです」
「はい?」
臭いを嗅ぎたくないと頑張って呼吸しながら話したら、何か喋りづらい上に鼻声みたいになった。聞き取りずらいですよね、ごめんなさい。
「んんっ。スライム水ですっ。ぅぼぁっ!?」
鼻からスーッと臭いが脳へ⋯⋯ぐへへ⋯ぐへ⋯クソがぁぁぁぁっ。こんなものこんなものっ。
こうしてくれるっ。
脳への衝撃で抵抗も弱々しい亀の口へイーン。
投げるは腐ったスライム水、受けるは亀の口。
まさに地獄のキャッチボール。
「しかも受け手はボールを返して来なあぁぁぁいっっ!!」
勢いをつけてバァァンッと喉の奥、お腹へと行くように投げつける。ヘドロのような物体だが、元は食べられたものだ。
「ヴァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"っッ!!!」
「ほらっ、残さずに食べなよっ!」
今まで息遣いは聞こえても声を上げなかった亀が、悲鳴のような声を初めて出した。
顎の力が戻ってきたな。投げれるうちに投げておかないと。
「どんどん食べなァァッ!!」
バァァンッバァァンッと次々投げ入れていく。
あの盾の攻撃でもヴァアッとしか鳴かなかったあの亀が、何故こんなにも鳴くのか。きっと、この腐ったスライム水が好物だったのだろう。
「おかわりもあ"ル"ヨ"ォ"ォ"ォ"ッ!!」
「うわっ、えげつねぇっ」
反撃に備えて武器を構えていたたけまるさんは、なんて残酷なことをと語る顔をしてその光景を見ていた。
正直あなたも同じでは?と思う。盾であんなに殴る人ですもの。私のこの攻撃くらい平然とした顔で見守ってくださいな。
そもそもリアルを再現したこの世界に、適切で最適な決められた攻略方法なんてないんだし、勝つためなら何したっていいでしょう?
エリアボスなんて、負ければその情報を持って帰れるし、他のプレイヤーへもその情報が伝わったりする。だが一度勝って倒してしまえば、他の種類のモンスターが次のエリアボスになることもあり、その情報は一瞬にしてゴミと化す。個々に性格もあるし、同じ攻撃をしてくるとも限らない。
攻撃パターンなんてあってないようなものだ。
勝ちに正解はない。どんな手を使っても勝ってしまえばそれが正解だ。
と、悪党のような考えを述べたが、私は悪党ではない。正義の味方でもないが。
でも結局は勝たねばやられるのだから、必死に戦っていればたまたまそれしか取れる手がなくて、そういう手段を取らねばならない時が来る。そういうことを嫌い、正々堂々勝負だって毎回やっていても、勝てるものとそうではないものがあるのは事実。それが一番いいんだろうけどね。
攻撃手段の少ない私にとっては、この残虐な行為も今できる攻撃の内の一つ。やれば少なくないダメージを相手に与えることができる。ならばやるしかないであろう?
決して楽しそうだからとかではない⋯⋯楽しそうって言ったような気がする。いや、気のせいだよ?うん。
「てことで、おかわりぃぃいいっ!?」
おかわりの投げた腐った物体は、亀の歯に当たり地面に落ちた。
念力で開けられていた亀の口が、念力より強い力を持って閉じられたのだ。変なものを食わされた亀は、その鋭い目をこちらへ向けている。
「〈注目〉。変な考えはやめな」
しかしすぐにたけまるさんがスキルを使い、視線を移動させる。こちらの攻撃が終わるまで、スキルの使用を待っていてくれたみたいだ。
途中で使われていたら、もっと早い段階で口を閉じられ攻撃されていたかもしれなかった。
強制的に自分へ注目させ敵視させるということは、相手の怒りも増幅させるということ。仮にその時怒り状態ではなかったとしても、怒り状態に近い状態へと変えさせてしまうのだ。
一時的に心を、感情を変えてしまえるのがヘイトを取れるスキル・魔法だ。
ちなみに人に対して使うのは非人道的としてカルマ値が大幅に増える。モンスターに向けるなら問題ないらしい。
「ヴァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッ!!」
怒りの目はたけまるさんへ。これからまたここで戦いが始まろうとしている。
MPを回復中の私は邪魔になる。ここに残っても、頭を固定する等のサポートをすることができない。MPを多く使うことになる念力の使用ができないためだ。
石投げならできるが、わざわざここで少ないMPを晒してしなくてもいい。そう思い、私は足へ攻撃しに羽を動かして飛ぶ。
その時だった。視界の下側に、紫色の何かがチラリと見えた。気になって止まってしまう。
そのまま下を向くと、亀の口が開いており、その口の中が紫色に光っていた。
それは光り輝く塊。否、ビー
「っ!?ぅっうぇぁぁッ!?」
その光は私の視界を奪うだけでなく、今まで感じていた右腕の感覚さえも奪っていった。
ゾワッとする。そこを見ると右腕がない。
斜め掛けしていた魔法の鞄がずり落ちそうになるのを左手で押える。
「お、おお?初めて削られた⋯。何あれ、なんか知ってる亀より凶暴すぎません?」
聞いてたビームよりビームだった。てか撃つの早くない?ちゃんと溜めました?
薙ぎ払いみたいなビームの使い方してたよ。
私とたけまるさん2人に当てるように攻撃してた。こっちに視線を寄越せないはずなのに、見ずに攻撃してきたってこと?恐ろしすぎ。
それにしても痛みを感じない体でよかった。そうでなければ今頃痛みで泣き叫んでいたことだろう。そう思いながらサッと自身を鑑定。MPは残り4。かなりまずい。
やばいやばいと急いでその場を離脱。亀の後方の上空へと移動した。
「回復するからいいけど、しばらく時間がかかるな」
MPの自動回復は1秒1魔力。MP回復ポーションがない限り、黙っているしかない。
まあ、こんな時の手投げ石攻撃なんだけどね。魔法の鞄を漁り、手頃な石を取り出し握る。
「さあ、投げ」
「俺がァァっ仕留めるウゥゥッッ!!」
「⋯何だあの人」
後方の尻尾に向かって走り寄る人影。短剣を両手に持ったプレイヤーだ。
あ、待って。そんなに近寄ったら⋯⋯
「あっ、そこ危な⋯⋯」
「へ?っうわあアァァブベッ!?アッ⋯ガボッ⋯」
「ああ、おいたわしや」
突然突撃してきたプレイヤー、HIVIタコ2さんは、亀の尻尾に一撃入れられたものの尻尾から強烈な反撃をくらって弾き出され、足元へ。
そして転がった先の足へドンっと当たり、機嫌が悪かった亀に踏み潰されたのだった。
〘消費アイテム:MP回復ポーション〙
魔力を回復できる薬品。
現実世界の試験管のような見た目に、コルクの蓋がついている。
みかんの味がするものもあるんだとか。人気の味は早くに売り切れる場合があるので、予約をしておこう。




