8話 人住まぬ古き城①
敵がいる、との声と同時に私は自分の杖を地面に垂直にたてた。
これは微弱な魔力の波を周囲にばら撒いてその反射によってどこに何かがあることを探知するいわゆるレーダーという魔法と全ての生き物が必ず発している魔力を感知して生物がいることを感知する魔法を組み合わせたものでこれで敵がどこにいるかとそれが生物なのか遺跡によく配置されている防衛用自律機械なのかを判別することができるというものだ。
「距離二十動態反応二つ確認、生体反応は無いです」
つまり防衛用ロボットが二体いるということだ。
アンナは剣を構えフローラも自前のクロスボウを装填し発射できるよう準備している。
私はといえば会敵のタイミングを合わせるべく探知魔法を最大出力にして待機している。
緊迫の十秒間の後、そのタイミングは訪れた。
「会敵、今ですッ!!」
それと同時にアンナが出てきた自律機械に斬りかかる。
それは一瞬だった。
制御機器を斬撃によって破壊された自律機械は動きを止める。
二体目の自律機械に狙いを定めようとしたその時に一本の矢が二体目の自律機械の装甲の薄い部位に突き刺さりその動きを止めた。
「やりましたっ」
フローラが声を上げた。
しかし火花を散らしながらもその自律機械はまた動き出そうとしている。
咄嗟に気づいたアンナが剣を横に振り抜き、自律機械の武器が内蔵されている腕を肩関節から切り飛ばした。
攻撃手段を失った自律機械をアンナが蹴り倒し戦闘は終わった。
まだ生き残っていた機械を調べるとやはりというべきか装飾のついた小さな板が出てきた。
この板はどうやら機械の制御を司っている装置らしくどんな自律機械にも最低一つは付いている。
これは今は何かに使えるというわけではない。
しかしいつか何かに使えるかもしれないので取っておくことしている。
こんな収集癖があるから私の部屋はもので溢れかえっているのだ。
◇
階層を一つ二つと登っていくうちにこの建造物は一階からずっと同じ構造なことに気づいた。
元々『エレベータ』と呼ばれる機械仕掛けの昇降機器があった場所をクライミングの要領で登ると円形に建造物を一周する廊下がありその両脇に部屋が並んでいる。
そんな構造が最上階まで続いているようだ。
このような集合住宅では高層部分にいくほど室内の装備品が豪華になることが多い。
またそのような部屋はその住宅が使われていた時代に高級であった品物が置かれていることもある。
そのような品物は当時の文化水準や生活を教えてくれるのだ。
ここも例に漏れることなく最上階に近づくほど部屋は豪華になり今の技術では再現することは到底不可能な曲面に成形されたガラスの一枚窓がふんだんに使われている部屋もあった。
室内を捜索してみれば美しい装飾を施された皿や上質な木材によってつくられた机もある。
また長年放置されてきたことにより破れて中身が飛び出ているがクッションと見られる物もあった。
中身は何やら不可解な素材でできた小さい球体によって構成されている。
そんな豪華な部屋をいくつか見て周り旧文明の時代の手がかりとなるような手記やメモを探しているうちに一つ気になる物を見つけた。
その部屋の住民は遺したものなのか走り書きでこう記されていた。
『東方に新研究所。転勤』
転勤と考えればこの部屋が上層の部屋の中でも比較的整頓されているのも頷ける。
家具などは残されているが雑多な生活用品はまとめられているかすでに無くなっている。
もしかしたらこの家は「東方の新研究所」に転勤するために引っ越す直前だったのかもしれない。
他になにか面白いモノはないかと探したが何かの実験のための場所だということと、この建造物が放棄される直前に完成したことしか見つからず、肝心のどこにあるのかと何をするのかは全く分からなかった。
◇
上層の部屋を一通り見て回ったことで私の興味があることはあらかた片付いたといえる。
そこで屋上に出てティータイムを過ごすこととした。
最上階の窓から体を乗り出し鍵縄を屋上のへりに引っ掛ける。
イスファハーンで買ったこの鍵縄は梯子状になっているために上りやすくなっている。
引っ掛けた鍵縄を地面まで落下したら即死という恐怖と闘いながら登り切ってやっと屋上まで出た。
屋上は室内のテニスコートが丸々四つはおさまるような大きさで上を見上げれば砂漠の青空がこの建造物のある石造りの円筒に切り取られた絵画のように見えた。
あたりを見渡すとここは水が残りやすいのかある種のオアシスになっていて鳥類が羽を休めていた。
適当な場所に腰を下ろし三人のティータイムを始めることとした。
長年つけている眼鏡と同じく体の一部のようになっている簡易のティーセットを開き中から火口と火打石を取り出す。
火口の上に適当な枝を載せて火打石で火花を飛ばせば砂漠の乾燥した気候のおかげもあってすぐに火が付く。
そこにやかんを載せ今持っている荷物の中で最も重い荷物である水筒から水を取り出し沸騰するまで温める。そして沸騰したらあらかじめティーバッグを入れていたマグカップに熱湯を注ぎ二分弱ほど待てばイギリスから遠く離れたこの砂漠でも紅茶を飲めるというわけだ。
三人でマグカップを軽く掲げこれから始まる旅がさらに興味深いものになるように乾杯すると、話題はすぐにこの建造物の話に変わった。
「いい収穫はあった?」
アンナが聞けばそれを待っていたかのようにフローラが自身の背嚢の中から一冊の本を取り出した。
「私って小説が好きであつめてるんですけど、ここの建造物にあった本が英語で書かれているものが多いんですよ!」
そう目を輝かせながら語っているフローラはなにか懐かしく感じた。
「旧文明なだけあって古い英語で崩した表現だったり、今使われててもここでは使われてない文字もあるんですけど、そこも面白くてですね?」
彼女の話が終わるころには青い空は夕日によって紅に染められていた。
マグカップもすでに空になっている。
私たちは案内役の現地の冒険者に今日は帰らない旨を伝えてこの遺跡で一夜を過ごすこととした。




