7話 砂漠へ
バザールで紅茶とトーストの簡単な朝食を撮った後私たちは中心街のある建物に向かった。
そこは遺跡管理協会である。
遺跡管理協会とはなにか。
それは近郊に旧文明の遺跡を有する都市には必ずあるもので、遺跡へ入る探検家やトレジャーハンターの情報交換の場になっている。
その中でも掲示板に常に名が挙がっているなど旅人の間でも伝説的な場所もあり、このイスファハーンの「デザート・キャット」もその一つだ。
そのような場には武器の売買や同行者の募集などのビラが大量に貼り付けられている。
そんなビラの中で私たちが求めていたのは「砂漠の船」というものの情報だった。
砂漠の船とはつい三年前に旧文明の遺跡から発見された遺物で、砂漠の上をまるで海のように航行でき人が百人乗ってもまだ荷物を積む余裕のあるという大きさの船だ。
その上魔法の力で動く「砂漠の船」は動力源となる魔法使いがいれば驚くほど低価格で乗れるという。
幸いこのパーティには私という豊富な魔力源がいるために安く乗ることができる。
十分ほど探しているとそのビラは見つかった。
ビラによれば魔力の供給がなければ一人につき銀貨十枚で、供給があれば一人銀貨一枚で乗ることができるという。
破格の九割引である。
さあ乗り場はどこだと見てみたら郊外だがそれほど遠くない場所にある。
私たちは喜び勇んで乗り場へと向かった。
◇
「砂漠の船かい?ほらあそこに見えるだろう?」
近くにいたオジサンに聞けばオジサンは遠くを指差した。
指を向けた先には遥かかなたへ向かう一隻の船が。
私はここでようやく理解した。
船に乗り遅れたのだと。
流石のアンナも慌てて次の便を聞くと三時だと答えた。
今の時間はお昼を少しすぎた一時である。
私はあと二時間かと胸を撫で下ろした。
それも束の間、オジサンは絶望的なことを口にした。
「今日のことだと思っているのか?」と。
なんだと思ってさらに話を聞くと明日でも明後日でもなく二週間後の三時だと言う。
私は膝から崩れ落ちた。
◇
二週間もの空き時間ができてしまった私たちはイスファハーン近郊の遺跡の探索をすることにした。
というのもデザート・キャットによればつい最近にまた旧文明の都市の遺跡が見つかり深部への探索を総力を上げて行っているそうだ。
そこに私たちも参加するということとなった。
◇
イスファハーンから駱駝で一時間ほど行った場所にその遺跡は静かに佇んでいた。
人間の百倍はあるであろう石造りの巨大な煙突が砂漠に聳え立っている。
見渡す限り砂漠というこの場所でそれは異質に感じた。
煙突の中を恐る恐る覗き込んでみると百メートルほど下に砂に埋もれた小さな建造物が見える。
この中に潜るのかとアンナは飢えた狼のような目をしている。
私自身も未知なる空間ということで好奇心に飲まれかけている。
やはりそういう時は集中力を欠くことが多く、ハシゴで下へ降りている途中に何度も足を滑らせかけた。
地元の探索者の案内の元、下り着きしばらく進んだ場所に広い空間が広がっていた。
そこに足を踏み入れたと同時に同時に私たちは息を飲んだ。
天を貫くような高層建造物がそそり立っているのだ。
今までに見た神殿や軍事施設のような空間ともまた違う荘厳さをその建造物群は醸し出していた。
「ここが遺跡です。まだ探索が終わってないです」
案内してくれた地元の探索者は辿々しい英語でそう言った。
「分かったわ。必ず良い成果を持って帰ろう」
そう言ってアンナは遺跡に足を踏み入れた。
私たちも案内してくれた探索者に礼を言いアンナに続く。
◇
遺跡の中は暗く魔法で灯りを灯してもうっすらとしか周りを見ることはできなかったがそれでもこの遺跡が圧倒的な技術力を誇った旧文明のものなのは手を取るように分かった。
ここはどうやら集合住宅だったらしく一つの部屋に入れば大きな一枚ガラスの窓と長い年月を経てところどころが破れているものの未だに上質な寝心地を提供するベッドやそのた生活用品が置いてある。
玄関の棚の中を覗いて使えそうなものがないか探すとほぼ新品のままで放置された自転車を見つけた。
現代の自転車と比べ軽く洗練されたデザインの自転車は住宅の遺跡からたまに見つかるがどれも使い古されているためにこのように新品の状態で見つかることは稀である。
しばらく探していると工具も見つけることができた。
これで分解して持ち運ぶことができる。
そのほかにも手記を見つけた。
みると低地プロシア語で何か書いてある。
しばらくしてアンナとフローラと約束していた建造物の中の集合場所に集まった。
二人とも思い思いの品を回収してきている。
アンナは自身の趣味である機械類を、フローラは本を持ってきている。
アンナはこういう遺跡に行くと必ず機械類を持って帰る。
聞くといつか必ず復元して旧文明が滅んだ日に何があったかのかを究明するという。
まったく学者に任せておけばいいのに、といえば「ここにいる学者さんが手伝ってくれるし大丈夫よ」と言ってくれる。
アンナが私に頼ってくれることなど学問ほどしかないのでそういうことを言われると私はとても嬉しくなる。
彼女はそれを分かって言っているのだろうがそれでも嬉しくなる私は幼いのだろうか。
そんなことを考えていると突然アンナが言った。
「声を低くして。動くものがいるわ。それも人間ではない」
私たちの間に緊張が走った。




