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理想郷へ  作者: はと
第一章 旅立ち
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1話 霧の都

記念すべき第1話です。

2000字程度なので休憩時間にでもお読みください。

 雪のちらつく十一月上旬、稀代の史学者と言われた私『マリア・ウーフー』は首都ロンドンにある一軒のパブにいた。


 隣には旅の相棒であり、私の大切な人、そして世界最高峰の探検家 アンナ・ファルケもいる。




 普段はこのグレート・ブリテン島の北東部のグラスゴーという町に住んでいる私たちがなぜ首都まで来たかには一つの理由があった。




 ◇




 遡ること一ヶ月前、私たちの住む家に一通の手紙が届けられた。


 そこには


『探検家、アンナ・ファルケとその配偶者、マリア・ウーフーへ




 十一月の第一日曜日にグレート・ブリテン全土から探検家がベテラン、初心者問わず一堂に会す催しがある。


 世界最高の探検家として名高い貴殿も若鷲に向け激励を送ってくれないか?




 貴女の友人 ハンス・フォン・インメルマンより』


 と書いていた。




 ハンスは気さくな男で広い情報網が売りだ。


 彼は時々どこから手に入れたのか分からない情報をタダで私たちに話し、それが私たちの旅のきっかけとなることも多い。


 同時に探検家としても強靭でドーヴァー海峡を渡った先の大陸に存在する高山に次々とアタックしてきてもいる。


 そんな彼のことを私もアンナも信頼し、兄のように感じている。




 そのハンスがわざわざ手紙を送ってきたということはこの催しは相当興味深いものなのだろう。




 私たちはすぐに行く旨を書いて返信し、行く準備を始めた。


 最近の私は書庫に篭りきりだったのではしゃぎ過ぎて途中でアンナに嗜められることもあったが準備はなんとか完成し、あとは汽車に乗って首都まで行くのみとなった。




 ◇




 ロンドンという都市はあまり好きではない。


 確かに煉瓦造りの近代的な建物が立ち並ぶ風景は壮観だが、自然というものが欠如しているように見える。


 街中に緑地というものはないし、少しの公園も人工的な感じが強い。


 また旧文明の遺物を掘り出す大穴からの排煙がひどく、霧の都なんてあだ名もつけられている。




 そんな霧の都をしばらく歩き、私たちはハンスとの待ち合わせの場所に来た。


 彼の話によるとその催しがおこなわれるパブは行きにくい場所にあるらしく、彼が案内してくれるとのことだった。




 アンナと最近の話をしながら待っていると突然高身長の金髪のドイツ系を思わせる青年が現れた。


 彼こそが私たちがハンスと呼び捨てしている『ハンス・フォン・インメルマン卿』だ。


 見た目は美形の好青年なのだが高山という死と隣り合わせな環境にいるからか明るさの裏に潜む哀しさがあり女性人気はあまりないという。


 そんな彼だが実は齢二百を超える半神半人らしい。


 彼は自分を民間信仰の力もない女神が誘惑に負けて人間と交わり生まれた人間もどきと自虐しているが、二百年も生きたことにより魔法は比類するものがないほど強力で私の魔法の師でもある。




 ハンスについていきしばらくするとある煉瓦造りの壁の前に着いた。




「ハンス君、どうかしたの?」




 ハンスを敬意を持って「君」をつけて呼ぶアンナが尋ねた。




「何ってここがパブ『理想郷シャングリラ亭』の入り口だよ」




 私は自分の目と耳に信頼を持てなくなった。




「マリア、私はロンドンで高山病にかかった最初の患者らしいわ」




 どうやらアンナも目を疑っているらしい。


 しかし、私だって魔法使いの端くれだ。


 この扉が魔法によって隠された隠し扉なのはわかる。




 私が真に驚いてるのは駆け出しの探検家も集まるというこの催しにこれほど精巧な隠し扉を設置したことだ。


 私もかなり近づかなければそれが魔法によって構築されているとは気づかなかった。


 そんな代物を駆け出しの探検家は突破できるのだろうか?




 私が心配をしているとハンスはそれを待ってたかのように言った。




「若い探検家というのは恐れを知らないからね。そこに壁があろうと突き進んでいくよ。


 僕がこれを置いてるのは頭が石のようなロートルどもがここに来れないようにするためさ」




 なるほどそういうことか。


 魔法使いは解錠するという選択肢が当たり前に出てくるが魔法による解錠ができない且つ頭の硬い探検家にはこの壁がどうしようもないものに見えるのだろう。




「さあ、行こうか」




「ええ、行きましょう、マリア」




 そう言ってアンナは私に手を差し伸べた。


 かっこいいぜ…私の彼女…!




 ◇




 壁を抜けるとそこは魔道具屋や武器屋など少しアンダーグラウンドな世界が広がっていた。


 アンナとハンスはここの地理に詳しいらしく私の手を引いて先に進んでいく。


 私もここに来たことはあるがそれでも数えるだし、毎回アンナに先導されていたのでどこに何があるのか全く分からない。


 アンナに頼れるのは嬉しかったが、同時に無力感も感じた。




 しばらく行くと一軒のパブの前に着いた。


 看板には『理想郷Shangri-La』と刻まれている。



アンナの「私はロンドンで高山病にかかった最初の患者らしいわ」


というのは高山病の中でも高地脳浮腫で幻覚を見ることがあることに由来します。


高地脳浮腫は昏睡や死に至ることもあるそうなのでお気をつけ下さい。




また、感想を頂けるとモチベーションが大幅に上がります。

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