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冒険者ギルドに行こう


 朝食はガレスが市場で適当に買ってきてくれたものを食べることになった。食料庫は大惨事になったままだし、それ以外には屋敷には茶葉が少し置いてあるくらいだったからだ。ガレスには昨日と同じ作戦で兜で顔を隠してもらったが、一人では問題は起きようが無かったみたいだ。


 多少の気まずさを抱えながらも食事を済ませて、話は早速、例の話題になる。


「酒場の食事代と修繕費が大体30万オールだそうだ。……加えて破壊した市場の修繕とダメにした商品の弁償代が50万オール……合わせて80万オールだな」

「わー、それはすごいなー。ぼくはいなかからでてきたからよくわからないなー」


 通過の単位は異なるが、日本でも借金を抱えたことが無かった僕からしたら途方も無い額に聞こえる。実際に途方も無い額なのだろう。


「大体、市場の商人の月の稼ぎが5~8万オールだと聞いたことがある」


 くそ、具体的な額なんて聞くんじゃ無かった。商人たちの10ヶ月分の稼ぎの借金を抱えることになるなんて予想以上だ。


「手っ取り早く借金を解消する方法は無いのか?」

「一番手っ取り早い稼ぎ方は冒険者になることだな」

「おお、冒険者!」


 その響きに僕の胸は高鳴る。異世界と言えば冒険者だろう。様々なクエストをクリアして大魔王を倒し、囚われのお姫様を颯爽と救出する正義のヒーロー、冒険者。これに憧れないなんて男じゃ無い。いや、僕はもう男では無くなっているが……とにかくファンタジーな響きだ。


「うむ。乗り気だな、ユーリ!」


 エルナは僕を見て、満足そうに頷いた。


「では、我が従魔ユーリよ!冒険者として、金を稼いでくるのだ!」


 ……ん?……んんん?


「え、僕一人かい?二人は?」

「残念だったな、ユーリ!この深淵の魔女は……すでに冒険者ギルドの方から出禁を喰らっているのだ!」


 えぇ……。この中二病、なにやったの?


「エルナの職業『死霊使い』はな。『死者への冒涜』として、公的には認められていない職業なんだ」

「『死霊使い』の何が悪いって言うんだ!ちょっとゾンビを作ったり、ユーリの様な可哀想な奴を従魔にしているだけじゃないか!」


 エルナは涙目になって訴えかけるが、あの食料庫の惨状を見ただけでも、公的に認めることが出来ない職業であることは納得がいく。


「じゃ、じゃあ、ガレスだけでも一緒に……」

「今の俺の仕事は一応、コイツのお目付役なんだ。もし冒険者になってクエストに出るとなると、一、二日ではきかない場合もある。長期間、目を離すとどうなるか……」

「ああ、なるほど……」

「よし、僕が何をしでかすって言うのか言ってみろ」


 不安だが一人で行くしか無さそうだ。この身体で門前払いを喰らわないか心配だが……。そう考えていると、ガレスが言った。


「悪いな。俺の尻拭いまで任せちまうことになって」

「いいよ、これぐらい。コレが従魔の仕事ってことなんだろ?」


 どうせこのままジッとしていても、念願のスローライフは手に入らない。後々ダラダラするためには、今は一生懸命汗を流さなければならない時なのだろう。


「それにこの身体なら多少の無茶も出来そうだし」


 グニャグニャと関節を自由に曲げ伸ばしていると「それ、往来ではやるなよ」とガレスからの注意が飛んでくる。


「じゃあ、行ってくるよ。釣果を期待しないで待っていてくれ」

「ああ、任せたよ」


―――――


 ユーリが出て行った食卓に静寂が訪れる。ガレスは飲みかけだった紅茶を一息に飲み干して、大きく息をついた。


「さて、俺たちはどうする?」

「なあ、ガレスよ……」


 エルナがゆっくりと口を開いた。やけに神妙な顔だ。ガレスは訝しみながらも、彼女の次の言葉を待った。


「ユーリはいつからあんな身体になったんだ?」

「何を言っているんだ。お前がアイツをあんな身体にしたんだろう?」

「ば、バカ言うな!誰が好き好んでユーリをあんな蛸みたいな身体にするもんか!」


 躊躇いながらもガレスの言葉を否定する彼女には、多少の負い目があるのだろうか。それとも、単純に蛸みたいに身体を自由自在に操るユーリを気味悪く思ったのかは誰にも分からない。


「やはり、ユーリの身体はおかしい……。僕はアイツを女性にしようとは思っていなかったし、あんな身体にもしていない。ひょっとしたら、この深淵の魔女が及ばないほどの何か大きな力が働いているとでも言うのか……?」

「俺には魔術のことはよく分からないが……」

「くっ!こうなったら封印された右目を解放して、家中の書物に似たような記述が無いか探してくる!」


 エルナは勢いよく立ち上がって、書庫へと駆け出していった。そして数分もしないうちに埃まみれになって泣きながら戻ってきた。今日の仕事は屋敷の掃除かなぁ。ガレスはため息をついた。


 

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