はじめてのクエスト
「……はい。ではこちらが証明書になります。なくさないように気をつけてくださいね」
恐る恐る冒険者の登録申請をしたが、受付のお姉さんは僕の容姿には何の疑問も持たなかったのか、あっさりと登録は完了してしまった。この世界では就業に年齢制限など無いのだろう。「児○法」が無い世界だ。「労○基○法」みたいな法律が無くたって不思議でも何でも無い。
簡単な講習を受けて、運転免許証ほどの大きさの証明書を貰う。どうやらもうこれだけで冒険者として活動できるらしい。簡単すぎて少し不安になる。
心配事が一つ呆気なく解決してしまい拍子抜けしたが、本番はこれからだ。80万オールという大金を稼げるだけのクエストがあるかどうか……。
「あれー、昨日のお嬢ちゃんじゃん?」
砕けた口調で話しかけてきたのは、僕のスーツを売りつけてきた昨日の女盗賊であった。
「あ、昨日の泥棒」
「ミリッサよ、ミリッサ。その様子だと冒険者ギルドに来たのは初めてね?」
どうやら彼女も冒険者のようだ。隠しても仕方ないので僕は正直に頷いた。
「受けたいクエストはもう決めた?言っておくけど、いきなり魔獣の討伐みたいな無茶はやめておきなよ?」
そう言って彼女が指を指した先には、依頼書を貼り付けた掲示板がある。そこには、庭の草むしりから、作物の収穫、魔獣の討伐まで正に多種多様な依頼が掲示板を埋め尽くしている。
「最初は無難に物品の運送だとか、庭の草むしりが定番ねー」
なるほど。僕は依頼書に目をこらす。
「隣町の息子夫婦の所まで野菜を届けて欲しい。報酬……300オール」
「屋敷の庭に生えた草を刈り取って欲しい。報酬……500オール」
分かってはいた。分かってはいたが、やはり初心者に受けることに出来る典型的な「お使いクエスト」では、稼げる報酬は雀の涙だ。こんな事を繰り返しても借金は到底、返すことが出来ない。何か割の良いクエストはないものか……。掲示板を隅から隅まで見ている内に、あるクエストが目にとまる。
「なあ、ミリッサ。アレじゃ……ダメなのか?」
「ええ、どれよ……?」
僕が指さした依頼書を見て、ミリッサは「フフッ」と鼻を鳴らした。
「あのね、人の話聞いてた?『魔獣の討伐は無茶』って言ったよ、私」
彼女が笑うのも無理は無いだろう。僕が指さしたクエストは彼女に「無茶」と言われた「魔獣の討伐」だったのだ。
―――――
「町外れの墓地に姿を現す『屍肉漁り』を討伐して欲しい。報酬……5万オール」
「屍肉漁りは本来、経験や訓練を積んだ熟練の傭兵や冒険者たちが相手をする魔獣よ。お子様が戦える相手じゃ無いんだから」
「分かっているよ。分かった上で言っているんだ」
僕の事を知らない彼女ならば、当然の反応と言える。ましてや僕は冒険者になったばかりで、鎧の一つ、剣の一本すら持っていない着の身着のままの格好だ。恐らく赤の他人同士でも不安に思うだろう。
「随分と強気ね。その自信はどこから来るのかしら?」
「……経験?」
「何で疑問形なの?」
ミリッサは呆れたような表情で受付へと歩いて行った。まさか、強制的に受注できないようにされてしまうのでは?と不安になったが、彼女は皮革の鎧と、一振りの剣を抱えて戻ってきた。
「……ナニコレ?」
「何って……武器と防具じゃない。見たところどっちも持っていないみたいだし、今回は先輩冒険者として特別にあげるわ」
おお、見た目に寄らず優しい一面があるんだな。
「心配だから私もついて行ってあげる。どんな秘密があるのか知らないけど、屍肉漁りを倒す自信があるんでしょう?」
昨日、人の財布を盗んだばかりか、スーツを押し売りしてきた女と、今の彼女は別の人間なのでは無いか?そう思わせるほどの変わり様だ。頭でもぶつけたのかと思ったが、その心配は必要なかった。
「だから倒したら報酬の半分くれないかしら?素寒貧なのよ、私」
コイツのことはもう信用しないことにしよう。
お読みいただきありがとうございます。
危うく今日も更新をすっ飛ばすところでした。
何とか毎日更新できるようにこれからも頑張りたいと思います。
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